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みすず
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創作
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らんもあ
お願いを聞きたい
「最愛、欲しいものはないか?」
「
…………
いま訊くのやめろ」
事後の気怠い雰囲気のなか、藍がつけたばかりの痕を撫でていた最愛が軽くため息を吐いているのを見て、対人関係における情緒に難のある藍はきょとんとした。
「どうしてだ?」
「
……
そういうの目的だったみたいになるだろ」
ふい、と顔を逸らす最愛の表情は拗ねているのにも似ていて、藍は遅れて自身の言葉が適切ではなかったことを理解する。少なくともタイミングの点においては相応しくなかったのだ。
しかしながら最愛の言う「そういうの目的」にはぴんと来るに至らない。
藍は好意を表すのに物を与えたり要望を叶えるという、見ようによっては悪癖がある。それが可愛いかわいい最愛からの願いであればどんな場面であっても嬉しく叶えたいと思うので、情交の直後になにかをねだれば愛情の伴うはずの行為が対価に変わって見えるという発想がないのだ。藍の感覚では、ただ愛おしいという気持ちを伝える手段として最愛の欲しいものを訊いただけであった。
「私はお前になにかしたい」
ぐ、と呻く最愛の顔が僅かに赤くなる。それが可愛くて藍は最愛の頬へ手を伸ばし、反対の頬へと啄むように口付けた。
肌で唇で好意を、愛情を伝える方法を藍は最愛から学んだ。藍に教えた際の最愛にとってはそれこそそういう目的ではなかったのかもしれないが、いまの最愛はくすぐったそうに長い睫毛を揺らし、ヘテロクロミアを潤ませている。藍は最愛が愛おしくてならなかった。
「っお前がしたいことすればいいだろ」
「最愛が喜ぶことがしたいんだが
……
そうだな、自分で考えなければいけないか」
このやり取りをするのは少なくないので藍もなんとか考えようとするのだが、悪癖故に真っ先に浮かぶのが贈り物という有様である。最愛が肉を好んでいるので美味い店を調べて連れて行くこともあるのだが、毎回であれば飽きるだろうことくらいは藍も分かっている。
「
……
一旦、俺がどう思うか抜きに考えろよ」
「最愛に喜んでほしいのに? それにお前が嫌がるかもしれない」
「俺の嫌がるかもしれねえことしてえの? 別に構わねえけど
……
」
最愛から挑戦気味に見つめられ藍は困る。嫌がることはしたくないのだ。だが、そういうことを恐れずに伝えるほうが最愛にとっては慣れているのかもしれないとも考える。少し面白くないと思ってしまうのは藍の勝手な想像による我儘だろう。
「
……
最愛は可愛い」
「急になんだよ」
「聞け。お前はいつか顔をいじってもいいと言っていたが、最初に見たときからお前の顔はきれいで好ましかったし、触れていて肌も髪も心地良い。お前に触れていると癒される。私は最愛が可愛くて愛しい。お前が側にいてくれて私は幸せなんだ」
藍はさり気なく最愛の腕を握り、彼が逃げられないようにする。
「お前は存外我儘を言わないから、些細なことでも望みがあったとき私はすごく嬉しい。それを叶えられてお前が喜んでくれたときはさらに嬉しくて
……
もっとお前になにかできないかいつも考えているし、さっきのように訊いてしまう。私は最愛の笑った顔が好きだ。笑っていなくても好きだが。お前になにかしてやりたい、それで喜んでほしいというのはとても
……
傲慢なことなのだとは思う。なにが欲しい、なにがしたいと最愛に訊くのは私の我儘なんだ。最愛が好きだからそうせずにいられない」
じわじわと耳まで赤くなっていく最愛は、身動ぎをしてから藍の掴んでいる腕を見て戸惑いを表情に浮かべる。最愛は藍がはっきりと愛情を伝えると逃げ出すことがあるのだ。藍はそれを承知していて先手を打った。
「これが前提で、お前にしたいことというか
……
してほしいことなんだが
……
」
「
……
っな、なんだよ」
言葉の上手くない藍は随分と抽象的なことばかりを言ってしまったと己に失望しつつ、掴んでいた最愛の腕を離してから彼が逃げぬうちに指を絡めて手を握る。ぴく、と跳ねた最愛は恐るおそるというように手を握り返してくれた。
「
……
願いがあれば全て教えてくれ。お前の望みは私に、私だけに叶えさせてくれ。お前を喜ばせるものも人も多くあるべきだが、お前を満たすのは私だけでありたい」
言い切れば最愛の唇が震えているのが見えて、藍は一度、二度と彼の唇を啄んだ。跳ねる体は逃げず、絡めた手に力が込められるのを感じる。
「
……
だめだろうか」
「
……
だめじゃ、ない
……
けど」
「けど?」
「
…………
あ、愛してくれたら、っそれで、いいから
……
」
恥ずかしそうに小さな声で絞り出された言葉に、藍は最愛を抱き締めた。少しの隙間だって挟まないように強くつよく抱き締める。
こんなにもいじらしいひとが親にも置いて行かれたというのが藍にはとても信じられない。藍のもとへ来るまで捨てられ拾われを繰り返したというのが信じられない。いつか藍の言葉を嘘だと泣いて否定した最愛は藍を抱き返し、身を擦り寄せてくれる。藍は最愛へ感じる愛おしさに胸がきりきりと痛むほどであった。
「愛してる。お前が私の『最愛』だ。ずっとずっと愛している」
「ぅ
……
」
全身を熱くさせる最愛はふるりと震えたが、逃げる素振りはなかった。藍は最愛に頬を寄せ、肌に唇を寄せながら「愛してる」と繰り返す。
「お
……
俺、も
……
」
か細い声と縋るように込められる腕の力は藍に途方もない幸福をもたらした。
この晩、藍は何度も何度も最愛へキスをして、目を潤ませながら反応し始めた彼の肌を辿った。愛していると繰り返しながら最愛へ痕を残し、忘れるなと刻みつけた。
朝になれば最愛は起き上がるのにも苦労するだろう。そんな最愛を藍は自室から出さずに全ての世話をするのだ。大事な大事な愛おしいひとに尽くすのだ。
そうして懲りずに藍は訊くだろう。
「──最愛、欲しいものはないか?」
「
…………
みず」
最愛はやはりため息を吐くかしら。
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