その日、襲撃してきた侵略者は珍しくも小型の個体であった。いや、個体というのは間違いであるかもしれない。襲撃者はさらに小型の個体の集合体である。
肉でできた皮を継ぎ接ぎにした熊人形のようなものが集まり、さらに大きな熊人形になっている。人形という言葉を使うが、その醜怪さはとてもではないがこどもの友達にも癒しにもならないだろう。
既に昔のこととなるが、侵略者が人間に親しみを持たせようとするのは友好を示すためではないかと唱えた学者がいた。我が身を用いてその説を証明しようとした学者は、侵略者によって千切られ喰われ腹に収められた。その際に上げた侵略者の声は現代では笑い声であると判明している。侵略者はただただ人類を油断させようとして擬態をしているのだ。いまでこそ成り損なっているが、いつかは人間を模してそっくりになることがあるのだろうか。キサラギたちが無気味の谷を越えたように。
ぴょんぴょんと蚤のように跳ねて群がろうとする侵略者を、キサラギは囲まれないように光線銃で牽制する。小さくとも耐久力があるらしい侵略者は光線が当たって焦げた肉のにおいをさせながらも活動を止めないので、ミロが素早く左手で掴んでは右手で殴り潰して確殺している。焼かれていなくとも次から次へと鷲掴みにしていくミロの動きは素早い。なにか、そういう装置のようにも見える。
小さな個体が砕けていくたびに大きな肉の熊人形は相応に形を崩していく。その崩れた部分を見ればみっちりと小さな熊人形が詰まっているので見目に反して熊人形は硬く、打って零れた個体を潰すという地道な攻撃をするしかない。時間がかかる。油断すれば囲んで飛びかかってくるため常に気を張らねばならず、キサラギの演算機能は常に回転、ミロも体力を消耗していく。
ぶぅん。ぶぅん。熊人形が腕を振り回す。重たい風の音を聞く限り、当たれば骨が砕けそうだ。乗じて小さな熊人形も飛びかかってくる。
「切りがねえな」
「減ってはいる」
「体力は」
「平気だ」
「無理するなよ」
「……分かった」
交わす短い会話。ほんとうに分かっているのかしらね、とキサラギが訝しむ間もなく、熊人形が両腕を振り上げてふたりへ向かって叩きつけてくる。左右に分かれ飛び退って避けるが、地面へ落ちた小さい熊人形が跳んでキサラギの足へしがみついた。
ぎり、ぎち。べき。厭な音。
キサラギが払い落とすより早く、小さな熊人形はキサラギの足を締め潰した。残った片足に力を入れて倒れることは防いだが、好機と見たか小さな熊人形はミロを狙うのをやめてキサラギのほうへと群がってくる。
──そのときのミロの動きといったら。
だん、と踏鳴。キサラギへ駆け寄る足で小さな熊人形を確実に踏み潰す。片手で掴んで握り潰す。その間にもう片方の手で別の小さな熊人形を鷲掴みにする。潰す。潰す。潰す。
「無事か、キサラギ!」
「無事だ、相棒」
お前のおかげでな、とキサラギはミロが小さな熊人形を潰してくれたので概ねの自由を取り戻した体で光線銃を構える。ミロもキサラギが喫緊の危機を脱したと見るや、先ほどにも増して凄まじい勢いで熊人形へ向かっていった。
肉の焦げる音ににおい。肉を潰す濡れた音。侵略者との戦闘は常に気色が悪い。
熊人形がぼろぼろと形を失い、少数の小さな熊人形となって散らばるのはあっという間のことであった。ふたりは一匹も逃さぬと侵略者を殺す。殺し尽くす。最後の一匹を殴り潰したミロが荒くなった呼吸を落ち着けるために深呼吸するまでの時間は長くなかった。
「……お疲れ」
ミロの背中をさすったキサラギに、しかしミロはむっとした顔をする。
「足は」
心配してくれたらしい。
「大したことない。ただ圧迫されて、なにか打ち込まれたわけでもない」
「折れたのか」
「……まあ、そうなるな」
反撃する際もその場からあまり動かなかったキサラギをしっかり把握していたらしいミロは、キサラギの言葉にむっとした顔のまま自身をさする腕に肩を貸した。
「歩けるぜ?」
「このほうがいいだろ」
「不自由じゃないか?」
「大したことじゃない」
疲弊しているだろうにミロは譲らなかった。ヒューマノイドであるキサラギは不要と判断すれば常は備えられている痛覚を切ることができるのだが、キサラギを人間のように扱うミロには関係のないことらしい。
「……なにかおかしかったか?」
「ん?」
「笑ってる」
ミロの指摘にキサラギはさらに口角を高くする。
「嬉しいからな」
言ってから、キサラギはさて、と早々に話題を変える。
「ミロ、ほんとうの熊人形って見たことあるか?」
「いや……ないな。あっても覚えてない」
「さっきのは趣味悪いが本物はもっと可愛いぞ」
「……絵本に出てくるようなやつか?」
ミロのなかで可愛いものと絵本が繋がっていることに、キサラギは先ほどとは意味の違う笑みを浮かべる。
「今度、お前に友達を連れてくるよ」
不思議、あるいはぴんときていない顔をするミロ。兵士として生まれてきた彼は、ヒューマノイドであるキサラギよりも人間的な経験が少ない。きっと、誰かと友情を築いたこともないだろう。
そんなミロにキサラギはふわふわで柔らかく、つぶらで優しい目をした友達を連れてきたいと思う。
ミロはどんな反応をするだろうか。いらないと言ってもいいのだ。それも選択だから。だが、気に入ってくれたなら、と思う。愛着を知るのは彼の心に良いことだから。
ひとまずは。
「ミロ、お前の好きな色は?」
このささやかな質問にミロはなんと答えるだろう。
キサラギはミロが好悪を自覚するのを楽しみにしている。
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