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みすず
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創作
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あさみお
悪事
すっかりと日がのびた頃、遅く訪れた夜はいつまでも暑く、エアコンをつけていないとすぐに汗ばんでしまう。
そんな季節に、澪は悪事を企んでいた。
風呂場の鏡には肌を晒したふたりの姿が映っている。
ぬるいシャワーを浴びて落ち着いた熱もぶり返すようなキスに、澪の目が蕩ける。明聖の舌は熱くて、絡めとられるうちに溶けてしまいそうだった。自分からもぢぅ、と明聖の舌を吸って、澪は彼に強くしがみつく。
「っ、は
……
可愛い。キス、好き?」
はむはむと喰まれて離れた唇。熱っぽい目をした明聖に問われて澪はこくこくと頷いた。
「好き、明聖くんがしてくれるから大好き
……
」
自分だけの恋人から、大好きな明聖からキスしてもらえて幸せでないはずがなく、正直に伝える気恥ずかしさよりも伝えられる喜びのほうが澪には大きい。
明聖は「あー、もう
……
」と唸るように言いながら澪を抱きしめてくれた。一緒にシャワーを浴びたのに明聖の体温は澪よりも少し高く、その体温をもっと感じたくて澪は彼の肩口に頬を寄せる。
「
……
っそろそろ出ようか!」
声色を不自然に明るくさせた明聖に促されたが、澪は彼に抱きついたまま「もうちょっとだけ
……
」と我儘を言った。
明聖とぴったりとくっつけた胸は互いの鼓動が強く伝わり合っている。多分、恐らく、このままでいると「先ほどの続き」になるだろう。
けれども、それのなにがいけないのだろうか。
明聖が気を遣ってくれているのは分かっているけれど、澪はかぷ、と明聖の耳朶を軽く噛んでからびくりと跳ねた彼に囁く。
「もっと
……
って言ったら、だめ?」
澪はいつだって明聖を深く欲してしまうのだ。
心から求めているひとだから。
──そうして熱を交わした後、気怠い体をベッドに横たえるとあまり疲れを見せない明聖が心配そうに「大丈夫?」と顔を覗き込んでくるので、澪は頬が緩んでしまうのを感じる。
「そんなに心配しなくて大丈夫だよお」
「それならいいんだけど
……
」
ほっとした様子の明聖に優しいなあ、と胸が暖かくなるのを感じながら澪は彼の自分よりも大きな手を引く。
「ん?」
「一緒に寝たい」
いつも一緒に寝ているけれど、改めてお願いするのは少しばかりのくすぐったさがある。
「
……
うん!」
急ぐように澪の隣へ潜り込んできた明聖は、そのままぎゅうと澪を抱きしめてくれた。明聖の体はいつもぽかぽかと暖かい。この季節に引き摺られてか「暑くない? 大丈夫
……
?」と窺う明聖だが、部屋はエアコンが効いている。ちっとも暑くないし、多少暑くても澪は明聖とくっついていたい。彼こそ暑くないかと心配なのにやめられず、とても我儘になってしまったいう自覚がある。
甘えすぎかなあ、と思いながら明聖を窺えば、思った以上に近くにある凛々しい顔。
「なんで目逸らすの?」
うろ、と視線を彷徨わせた澪に明聖がきょとんとした。
「
……
格好いいから」
明聖が格好良くないときなどないが、間近で見るとますますなのだ。こんなに大好きなひととこんなにも近い距離で触れ合えることに、胸がどきどきして苦しくなってしまうほどなのだ。
「
……
澪くん、こっち向いて」
「
……
もうちょっと待って」
「うーん
……
どのくらい?」
「さ、三秒くらい」
「分かった。三秒ね」
「ごめん、五秒!」
「あはは! いいよ」
笑う明聖がいーち、にーい、と数え始める。ただ目を合わせるだけなのに、時間を設けてしまうと急に恥ずかしくなってしまった。
ぎゅっと目を瞑っても五秒などすぐに訪れてしまう。
「ご」
五秒目だけ間延びさせずに数える声を聞き、澪は反射的に閉じていた瞼を開く。
頬に添えられた手、唇にやわい感触。間近にあった顔はさらに近く、鼻先が触れ合うほどに。開いたままの目に明聖の黒い目が映る。
「ほっぺ熱いね。可愛い顔してる」
嬉しそうに、幸せそうに目を細める明聖の手はいつもより温度が低く感じるけれど、それは澪の頬が熱くなりすぎたかららしい。
「
……
不意打ちずるい」
「ちゃんと五秒待ったよ」
「そうだけど
……
!」
ゔ、と唸る澪の背中を撫でながら「可愛いなあ」と明聖が言うので、澪はますます自分の頬が熱くなるのを感じた。ずるくはないが、ずるい。
「も、もう寝よ! 明聖くん、明日も部活大変でしょ。応援行くから」
「ありがとう。でも、暑いから、あまり無理しないでね
……
? 熱中症とかしゃれにならないから」
自分たちは慣れているので勝手が分かっているが、と眉を下げる明聖に、澪はこくこくと頷いた。応援に行くのに手間をかけさせては本末転倒だし、心配はかけたくない。
「じゃあ、寝よっか。電気消すね。あ、タイマー」
エアコンの停止時間を設定し、明聖がリモコンをサイドボードの上に置くのを澪はしっかり確認してから「おやすみ」と囁いた。
「うん、おやすみ」
消された灯り。明聖からの返事と、額に唇の感触。ずるい。
──ずるいので、澪は悪事を決行することにした。
じっと黙り、寝たふりをしながら数える明聖の呼吸。やがて穏やかになるのを感じ、さらにしばらく待ってから澪はそっと、そうっと腕をエアコンのリモコンへ伸ばす。
設定温度の変更。
ぴ、ぴ、とやけに大きく感じる音に明聖が起きてしまわないようにと祈りながら、今度は赤外線部分を隠しながら下げた設定温度を元の数値に戻す。
リモコン上では変わらないが、実際には少し下げられた設定温度にエアコンが微かに唸った。漂う冷気は寒いというほどではないが、肩を出していればひやりとする。温かいものがあれば寄りたくなる程度。
もそ、と明聖が身動ぎをして、覆うように澪をぐっと抱き寄せた。がっしりとした腕に包まれながら、澪は悪事の成功にへにゃりと笑みを浮かべる。
きっと、今晩はこのままだ。
真夏でも離れたくない体温にうっとりと目を閉じた澪の呼吸は、やがて明聖のものと重なっていった。
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