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みすず
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創作
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ミロキサ
デートのお見送り
「──と出かけてくる」
ミロの口から出た予定と共に出かけるという相手の名前に、キサラギは「あら」と思った。
あら。まあ。
ミロは訓練の予定を話すときと全く変わらない表情に声音で言ったが、キサラギはその名前がここ最近、ミロに熱っぽい目を向けている女性のものだと知っていた。
つまりは、デートだな。ミロはさっぱり自覚していないようだが、デートに赴くらしい。
はあ、左様で。ふうん。へえ。ほお。
「
……
夕飯はどうする?」
キサラギは人間へ親身に寄り添うヒューマノイドらしく、親愛のたっぷりと含まれた表情でミロに訊ねる。台所に立つものとして、当然かつ重要な質問である。ミロが夕食を食べてくるのであれば本来は食事を必要としないキサラギが作る必要はないし、ただ遅くなるというだけならば用意だけはしておかなくてはならない。
「肉団子の入ったスープが飲みたい」
しかし、ミロはキサラギの質問を夕飯の献立伺いとして取ったようだ。
キサラギは「そうか」とにこにこと笑みを浮かべながら頷く。なるほど、夕飯までに帰ってくるらしい。結構。
「大きめの作ってやろうな」
「ああ。具もいっぱい入ったのがいい」
「はいはい、任せな」
他者と出かける予定を告げたのに、ミロはまるで頓着していないようだった。隠したり、曖昧にしているようでもない。キサラギの目には夕飯よりも関心がないように見えた。
(可哀想に)
誰に。もちろん、相手にだ。
キサラギは彼女がなんとか理由をつけて、切っ掛けを作ってミロに話しかけている姿を何度も見ていた。紅潮した頬も、上擦った声も知っている。淡々としたミロの返事にさえ、嬉しそうにはにかんでいたのも。
そうだろう、そうだろう。キサラギの大事な人間はとても頼もしく、可愛らしく、魅力的なのだ。年頃の娘が胸をときめかせても当たり前だろう。
そんな彼女がやっと掴んだであろう機会にも関わらず、ミロはまるで誘いの意味を理解していない。キサラギとて、ミロの口から「デート」という言葉を聞いたなら、椅子から滑り落ちるほどの衝撃を覚えただろうけれど、全くさっぱりその様子がないと、それはそれで相手を憐れんでしまうのだ。
「それで、どこに出かけるんだ?」
一応訊ねたキサラギに、ミロは視線を斜め上に向けてから「さあ?」と首を傾げる。
「買い物とか言っていたから、荷物持ちでも欲しいんじゃないか?」
「お前はよく鍛えているからなあ
……
頼りにされているんだろう」
また筋力が増したようだから、と言えば、ミロは薄っすらと得意気な顔をする。常、キサラギと共に侵略者へ殴る蹴るの正当な暴行を加えるミロの兵士として鍛え上げられた力は、キサラギとの大量買い出しでも発揮されている。食べ盛りにはどれだけ食事を作っても足りないのだ。ミロはデートをそんな買い出しと同じだと思っている。求められているのは筋力で、気持ちや心であるなどとちらりとも想像していないようだった。
相手の気持ちも理由付けの真意も察するキサラギは黙し、せっせと育んでいるミロの情緒に新たな芽を促さない。
「ミロが出かけるなら、俺も研究所に行ってくるかな」
「
……
なにか不調があるのか?」
ム、と心配そうに見てくるミロに、キサラギは首を振る。
「整備はできるときにしないとな。いざというときに動けなきゃ、お前のサポートができない」
尤もらしくキサラギは言うが、もし彼が人間で、ミロが年相応の情緒を育んでいたならば、この言葉はひどく当てつけがましいものになる。あなたがデートに行っている間も私はあなたへ尽くします、なんて。元より人間に尽くすように設計されているヒューマノイドだから、書かれてもいない裏を読むことなく言葉を素直に受け取るミロだから、キサラギの言葉は当たり障りのない意味になる。
「もし不調が見つかったら言ってほしい」
さっとキサラギの全身に視線を滑らせたミロの言う不調は、不具合ではなく体調不良を指すのだろう。ミロはキサラギがヒューマノイドであること、あるいは人間ではないことを意識の外に置きがちだ。不意に実感することはあるようで、その際の難しい顔はしかし彼の成長を窺わせる。人間は考える生き物だ。優先順位をつけて最善を計算するヒューマノイドとは違う。
左様。ヒューマノイドは計算する。
「もちろん。なにか見つかれば帰ってきたときに言うさ。それが待てないならお前から連絡すればいい」
こう言えば、ミロは「デート中」でも自分を気にしてくれるのではないか? 気もそぞろになって、相手へ割く意識を減らしてくれないか? キサラギは願望を口に出さない。
「分かった。なるべく早く帰る」
「そうか? ゆっくり楽しんでくればいいのに」
「荷物持ちをか? 別に楽しいことじゃないと思うが
……
」
難しい問題を出題されたような顔で言うミロに、キサラギはクラッカーの一つも鳴らしたくなる。難問の答えは百点満点。分野は国語。バディの気持ちに対して適切な返答はなんですか。
「
……
ミロ、デザートはなにがいい?」
「いいのか! 前に読んだソーダゼリーが
……
いや、別のも
……
」
悩むミロにキサラギは相槌を打ちながら微笑む。
どうでもいい用事などさっさと切り上げればよろしい。暗くなる前に帰っておいで。好きなものを用意して待っているから、早く家に帰っておいで。今頃、鏡の前であれでもないこうでもないと甘くじんじん痛む頭で考えているだろう彼女は、きっと一人の帰り道をとぼとぼと歩くことになるだろう。
可哀想に。可哀想に。
心にもない冗句であった。
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