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みすず
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創作
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ミロキサ
単車に乗りながら
ひび割れた大地で大型単車が唸り声を上げる。
前方には人間を作り損ねたような醜怪な侵略者が複数体。奇妙に長い手足で四つん這いに動き、綿糸のようにぼうぼうとした髪を振り乱す。人間でいう顔の部分は気味が悪いほど左右対称の三角形に目鼻口が収まって配置されているのに、頭そのものは逆さまにひっくり返って体に繋がっていた。ヒューマノイドであるキサラギですら嫌悪感があるのだ、人間であるミロはさぞかし
……
そう、思ったのだが、頼もしいバディは「右に走ってくれ」とキサラギに言い、従ったキサラギがハンドルを切ればすれ違い様に侵略者を蹴り飛ばす。疾駆する単車に乗っているのに。シートを掴む両手で全身を支えて身を捻ったのだ。
(体幹がまた鍛えられてるな
……
)
吹っ飛んでいく侵略者をミラーで確認し、キサラギは「ナイスぅ」と気の抜けた声をかける。ミロはすげなく「加速してくれ」と次の指示を出した。加速。
「おい、ミロ」
「キサラギ」
「クソガキめ!」
ミロがなにをする気か悟ったキサラギは、悪態をつきながら一気に単車を加速させる。そのなかで、ミロが跳んだ。後ろへ吹っ飛んでいくミロの体、空中で回転、ふたりを追いかけてきた侵略者は真下に。
ぐちゃり。侵略者は体が破壊される音すら不快だ。
深々と侵略者の頭部に突き刺さったミロの足がショッキングピンクに濡れる。そのまま蹴り飛ばして着地したところを襲いかかる別の個体。人間を真似ているのをいいことに、ミロは逆さまの顔面を鷲掴みにして地面へ叩きつける。長い手足がひっくり返った虫のようにわさわさと動いて暴れるが、ミロは構わずもう一度叩きつけ、落とした花瓶のように侵略者の頭部を破壊する。溢れた体液は水よりもずっと粘着質だ。
ミロは的確に一体ずつ沈めるが、その周囲には他の個体が集まりつつある。
単車をUターンさせるキサラギを見たのか見ていないのか、跳躍したミロが走り抜ける単車の後部へどしん、と乗った。
「お願いだから俺の小鳥のハートを脅かすな」
「キサラギ、ブレーキ」
「ばーか!!」
どうしてこの相棒は自分の気持ちを汲んでくれないのかしら。反抗期? と性根自体は素直なはずのミロに、キサラギは嘆きたくなってしまう。
されど、嘆く時間は贅沢だ。ばたばたと長い四肢をめちゃくちゃに動かしながら走ってくる侵略者。追いつかれる直前の急ブレーキ、止まれずにすれ違う逆さまの顔面にミロがナイフを突き立てた。
ごつ、と硬い音。ぐずぐずめり込んでいくナイフが横薙ぎに切り裂いた顔面から、球体ではない目が飛び出して落ちる。文字通り取ってつけただけの小さな円蓋がぽろっと落ちて、表面に描かれた黒目部分がきゅるきゅると小刻みに揺れているのを飛びかかったミロが踏み潰した。すぐにその足元へ侵略者の本体がおもちゃを振り回すように何度も叩きつけられ、過度に少女めいたピンクの肉片が麦を撒くように飛び散っていく。ぱらぱら、ぱらぱら。
「うわ
……
っミロ!」
動かなくなった侵略者を投げ捨てるミロへ残った三体がぴょんぴょんと飛び跳ねながら向かっていくのを見て、キサラギは片手に銃を抜き放つ。単車を操縦しながらでは一定以上の威力、反動のある銃は使えない。侵略者を沈黙させるに至らない銃弾に歯痒くも、僅かに散らした隙にミロのもとへ急ぐ。その前方に飛び出してきた侵略者。
偶然。
キサラギが思い切って轢いた一体と、ミロが髪を鷲掴みにしてぶん回した一体が、飛び込んできたもう一体を挟むようにぶつかった。
衝撃に挟まれ地面へ転がりビクビクと跳ねている一体の上に、ミロが掴んでいた一体を叩きつける。何度も、何度も。二体まとめて始末できて大変に効率的。キサラギは轢いた一体をもう一度丁寧に轢き潰した。ぱきぱきと甲虫を踏み潰すような音も、ぷしゃっと撒かれて足元を濡らす蛍光イエローの体液も心底嫌だ。
──びょう、と乾いた風が吹く荒野は静かになった。単車が唸り声を上げているのに、戦闘が終わっただけで、殺伐と冷たい空気が一定の温度を取り戻しただけであまりにも静かだ。
「任務完了。帰還する」
周囲を確認してから通信を入れたミロを見ながら、銃をしまったキサラギは「あーあ
……
」と呟いた。ミロはショッキングピンク、キサラギは蛍光イエロー。ペンキ塗りの最中に楽しくなっちゃったのかしらと言わんばかりの有様だ。ペンキよりもずっと汚いものに塗れているのだから、帰還したら即行風呂へ入りたい。
「キサラギ」
「んー? お疲れ。どうした?」
「腹が減った
……
」
困ったように眉を下げるミロに、キサラギは単車の荷物入れから携行食を取り出す。シリアルバー。
「口開けろ」
「
……
自分で食べられる」
怪訝そうな顔をするミロの手元を指差せば、彼は自分の手が随分と派手な色に染まっているのをやっと気づいたようであった。
「
……
ん」
納得したのか大人しく口を開けるのでキサラギはその口にシリアルバーを入れてやり、ミロがさくさくと咀嚼している間も持って支える。
「おい、指齧ってる」
「む、わるい」
「いいえェ」
気にしていませんよ、とキサラギは指を離してミロの口端を拭う。既に青年といった年頃のミロだが、キサラギはどうにも彼の世話を細々と焼きたくなるのだ。ミロが些細なことでも自分を必要とするようになればいいと思う。
「そろそろ行くか」
「ああ」
「帰ったら食いたいもん考えとけよ」
途端、ミロの目が晶晶と輝く。ほんの少し前まで針の先のように尖っていたのが嘘のように無邪気な眼差し。キサラギは口角を上げて単車へ跨る。その後ろへ乗るミロが腰に腕を絡めるので笑い声も上げたくなった。
「キサラギ、唐揚げが食いたい
……
あ、いや、でも
……
」
「着くまで時間あるからじっくり悩んどけ」
「うん」
「その前に風呂だぞ」
「
……
それくらい分かってる」
「そいつはなによりだ」
不満そうに肩へ乗る顎の感触。アクセルを踏む前にミロの頭をくしゃりと撫でて、キサラギは「ちゃんと掴まれよ」と促す。
「ん」
言われるまま腕に力を込めたミロは体幹をどれだけ自覚しているのだろう。こんなことする必要ないくせに!
気づかないまま、知らないままでいい。
けたたましく唸るエンジン音に、キサラギの笑い声は呑まれて消える。
ショッキングピンクに蛍光イエロー、人間の男とヒューマノイド。荒野を極彩色が走った。
「は? この体液には催淫作用がある?」
「キサラギ、熱い」
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