はなれ
2024-11-13 11:50:22
4914文字
Public ソルバン
 

わんぱくパニック

ローカパーラの摩訶不思議な力()で2歳になってしまったヤーシャラージャと子守りをよぎなくされたバンカーの話。いつものメンツです。
⚠年齢操作
⚠設定捏造
⚠何でも許せる人向け

 前略。
 ヤーシャラージャが小さくなりました。
「どうしてこうなった!」
 顔中のパーツをぎゅっと集めて顔をしかめたルダンは、思わず大きな声を上げた。
 目の前にはオロオロと慌てた様子のマゴミーと、理由なんか知るかよと言わんばかりのルワーブルと、片腕でヤーシャラージャを抱き上げるサージュの姿がある。
「急に大声出さないでくださいよ。大丈夫、怒ってないですからね」
「う、うん……
……すまなかった」
 ゴホンと一つ咳払いをして、ルダンはヤーシャラージャを見た。
 幻想銀行ローカパーラの頭取ヤーシャラージャは、現在齢12の少女である。
 はずである。
 だがサージュに抱えられている彼女はどう見ても2、3歳の幼児で。
「なぜ金庫の様子見を命じただけでこうなる……
「魔物の影響で魔道具が暴発しまして……
「貴様そう言えばなんでも許されると思ってないか?」
「だって本当のことなんですからしょうがないでしょう」
 ね~、とサージュがヤーシャラージャに話しかければ、ヤーシャラージャはただ愛らしく首を傾げるだけだった。
 サージュが新人銀行員のルワーブルとマゴミーを連れ、謎の魔力を発生させている金庫の様子を見に行ったのが数十分前。
 気になることがある、とヤーシャラージャがやってきたのがそれからほどなくしての事。
 そのまま廊下を歩いているとやっぱり魔物と遭遇して。
『カラダハコドモ! ズノウモコドモ!』とかなんとか叫んでいる奇妙な魔物からヤーシャラージャを守りつつ戦っていると、なんと。
 辺り一面が謎の光に覆いつくされ。
 再び目を開けると。
「頭取の体が縮んでしまっていた、と……
「冗談も大概にしろ……!」
「ふむ。冗談……ジョーダン、冗談を𝑺𝒉𝒐𝒘𝒅𝒐𝒘𝒏……かなりいい線いってますね」
「ヴィレスさん」
「(・x・)」
 ルダンの隣で真顔のままギャグを口にするヴィレスをラシュリィが制する。
 通常運転だ。
 そう。
 ルダンも頭を抱えてはいるものの、案外落ち着いていた。
 なぜなら。
「ローカパーラだからな……こういうことも、まぁ、万が一、億が一にもあるか……
 ここは財産のみならず、感情、能力、地位、技術、なんでも預けられる摩訶不思議な銀行、ローカパーラ。
 その頭取が成長しようが、幼児になろうが、よくある事――
「いやそんな訳あるか! このままでは資産魔法の申請も通せないんだぞ⁉」
「それは……だいぶ困るのでは?」
「困りますね」
 状況に合わせてその都度様々な資産魔法を扱う必要があるヴィレスとラシュリィは少しだけ危機感を覚えた。
 とはいっても、魔道具の影響でどうこうなってしまったのだから、簡単に問題が解決するとも思わない。
「だいたいお前が付いていながらなんでこうなるんだサージュ!」
「元はといえば頭取をひとりで来させた副頭取が悪いんじゃないですかぁ?」
 ぎゃいぎゃいと大人げない言い争いをするルダンとサージュの間に挟まれてしまったヤーシャラージャはひょいっとサージュの腕から降りるとぽてぽてと歩き出す。
 それを捕まえたのはティリルカだった。
「いや~でも本当に頭取かわいいですね~! リニーダもこのぐらいの頃はそりゃあもう」
「余計なこと言わないで」
「もごもご」
 幼少期のアレソレをばらされそうになったリニーダがティリルカの口を塞ぐ。
「とうどり? って、パパのことでしょ? わたし、とうどりじゃないよ?」
 いつもより頬がぽよぽよのヤーシャラージャが、そんな事を呟くものだから。
 ルダンもサージュも言い争いを止めて、ヤーシャラージャに向き合った。
 いつもより口数が少ないと思ってはいたが、まさか。
「ここ、パパがおしごとするところでしょ? ね、パパは?」
 その言葉で、その場にいる全員が理解した。
 今のヤーシャラージャは、〝ヤーシャラージャ・ローカパーラ〞になる前の、いたいけで、あどけない、ただの少女であるのだと。
「それは……
……
 ルダンは目を逸らし、サージュは目を伏せる。
 ヴィレスは瞬きしたし、ラシュリィは何の時間だろうこれ、と思った。
 リニーダは相も変わらずティリルカの口を塞いだままだし、マゴミーはやっぱり慌てた様子で尻尾をぱたぱたさせている。
 そこで仕方ない、と動いたのはルワーブル。
「あ~……嬢ちゃん、ケーキ食べるか?」
「ケーキ! 食べる!」
 ルワーブルはあっという間に笑顔になったヤーシャラージャをロビーのソファに座らせて、そのふわふわ加減に大喜びしているのを横目にサージュが給湯室に隠していたパウンドケーキを持ってきた。
「いただきます!」
 もぐもぐとケーキを頬張るヤーシャラージャの姿はまるで小動物のようで見ているだけで癒される。
……なんでわたくしのケーキの隠し場所知ってるんです」
「さてね。部長殿がわかりやすいだけなんじゃねぇですか?」
「この大悪党……
 ひとまず窮地を脱したバンカー諸君は今後の方針を決めることにした。
 今日はもう通常業務はできそうにないので、ヴィレスとラシュリィには休暇が与えられることになった。
 ティリルカはヤーシャラージャの世話を申し出たが、リニーダに『今日期限の取り立てがあったでしょ(前倒し)』で押し切られて取り立て業務に赴いた。
 サージュはこんな状態のヤーシャラージャを放っておくことなんかできないし、それはルダンも同じこと。
 マゴミーはあたしにできることならなんでも!とヤーシャラージャの遊び相手に。
 残ったルワーブルはどうせ俺がいてもやることないだろ、と帰ろうとしたがサージュの意趣返しにあってローカパーラに取り残された。食べ物の恨みである。
 だが、意外にこれが正解だった。
「わぁ! くまさんみたい、ぽよんぽよん!」
 ヤーシャラージャはルワーブルのふくよかなお腹をつついて遊んでいる。
 確かにルワーブルの体は無造作に生やされた体毛と合わさって野生の大熊を思わせる。
 豊かに生えそろった髭が父を思い出させるのか、ヤーシャラージャからの好感度は高かった。
 ルワーブルはなすがまま、ヤーシャラージャの好きに遊ばせている。
「? ねぇ、おじさん、これなぁに?」
 ふと、ヤーシャラージャの小さな手がルワーブルのポケットに触れそうになった。
 それは、ルワーブルの太い指に遮られてしまったが。
「こいつはお嬢ちゃんにはまだ早ぇなァ」
 ルワーブルは慣れた手つきで葉巻を取り出し、サージュに向かって投げつける。
「嬢ちゃんの手の届かない所に置いといてくだせぇ」
 もちろん言われなくてもそのつもりだったサージュは容赦なくルワーブルの葉巻を蓋つきのゴミ箱に捨てておいた。後で喧嘩した。
 何故か遊び相手が様になっていたルワーブルの逆に、子供の相手に慣れていなかったのはマゴミーである。
「マゴミーちゃんもふもふ~!」
「うわ~ん! 助けてくださ~い!」
 半人狼化した影響で少しだけ普通の人間とは違うことを自覚しているマゴミーは、自身の力でヤーシャラージャを傷つけてしまうのではないかと思い、動けずにいた。
 それでもやはり生えている耳と尻尾は子供の興味を惹くのには充分で。
 マゴミーの感情に合わせぴこぴこと揺れ動く尻尾に抱き着き、ヤーシャラージャはご満悦だった。
「おみみとしっぽ、かわいいね! わたしにもはえるかな?」
「生えない方がいいと思います……
「なんで?」
「な、なんでだろうね……?」
 ふわりと撫でるように揺れる尻尾に、ヤーシャラージャの顔が埋まった。
 そんなこんなで時は過ぎ、外の時間は夕方に変わっただろうか。
 さすがに摩訶不思議な銀行といえど、テーマパークではないので好奇心旺盛すぎる子供を連れて歩き回る訳にもいかない。
 ロビーや頭取室ならまだしも、金庫やそれに続く廊下などは危険も危険な場所である。
 だんだん飽きて来たのか、ヤーシャラージャはむすっと頬を膨らませて、琥珀色の瞳を潤ませた。
「パパ、どうしてきてくれないの?」
 ぎゅっとマゴミーの尻尾に抱き着いて、ヤーシャラージャが呟く。
「パパにあいたい……パパぁ……!」
 ぐずるヤーシャラージャにたまらなくなり、マゴミーは優しくその幼い体を包み込んだ。
 この数時間で力加減にも慣れ、ゆっくりとヤーシャラージャの頭を撫でている。
「あの……頭取、本当に元に戻るんでしょうか」
「これがただの魔法であるなら、魔力が切れたらな」
 ルダンはそっと膝を折り、ヤーシャラージャの背中に手を置く。
 ただでさえ小さな背が、今はもっと小さかった。
 彼女の父である先代ヤーシャラージャはもういない。
 ヤーシャラージャがどれだけぐずっても、迎えにきてくれるひとは――
 あやされていたヤーシャラージャの小さな嗚咽は、しばらくして寝息に変わった。
「泣き疲れちゃったんですかね」
「ハァ……本当にとんでもねぇ銀行だな。どうやったらこれがあの頭取になるんだか」
 お役御免とばかりに、今度こそルワーブルは退勤した。
 マゴミーはヤーシャラージャを心配していたが、できることもないので帰宅した。
 ローカパーラに残されたのは、ヤーシャラージャと、ルダンと、サージュ。
 さすがに家主の許可もなく家に上がる訳にもいかないので今日はこのままローカパーラでお泊りである。
……お嬢様は」
 医務室のベッドで眠るヤーシャラージャを眺めながら、サージュがふと口を開く。
「このまま元に戻らない方が、幸せなのかもしれませんね」
 本来なら、まだ親に守られているべき年頃だ。
 それを魔法の力で無理やり背伸びして、彼女は悪鬼羅刹と夜叉の王として君臨している。
 今日一日、素の彼女を見て、思わなかった訳がない。
 このまま、無垢で、純粋に、世界の闇など知らず、ただ穏やかに育ってくれればいい、と。
「保護者気取りか? 笑わせる。彼女の幸せは彼女が決める。私たちに口出しできる権利などないだろう」
「父親面してるのはルダンさんでしょう。言っておきますけど、ルダンさんなんて先代の小指の先にも及びませんからね」
「せめて足元と言え足元と」
 がしがしと白髪交じりの黒髪を掻き乱しながら、ルダンは波立った心を静めるように息をついた。
……おまえが弱音とは、らしくない」
 ルダンに言われ、サージュは面白くなさそうに唇を尖らせる。
「今朝、お嬢様がこちらに来た時……

『お疲れ様です、サージュさん』
『お疲れ様です、頭取。どうしてこちらに?』
『少々気になって観測していたのですが……その、どうやらわたくしの〝子供らしさ〞が干渉しているようでして』
 
「どうしてそんな大事なことを黙っていた! そんなこと一言も聞いてないぞ!」
「言ってないとは思いませんでしたので。大方、あなたにこれ以上気苦労かけたくなかったんでしょ」
……
 そう言われてしまうと、ルダンは何も言い返せない。
 最近は忙しい日々が続いており、ヤーシャラージャは休日に、自身が預けた子供らしさを引き出すことを渋っていた。
 そんな彼女に、ルダンはもちろん良い顔をせず。
 そんな中、預けた子供らしさが悪さをしている、など。
 到底言い出せるはずもない。
「だからといって……こんな大事になるくらいなら、私の嫌味など……
「それがあなたなりの心配だって、分からない彼女じゃありませんよ」
 ルダンは肺が空になるほど息を吐き出し、健やかに眠るヤーシャラージャを見た。
「ちゃんと少しずつ、成長してるんですかねぇ」
「こんな成長なら、無い方がマシだ」
 ヤーシャラージャが兄のように慕う使徒ふたりの心配をよそに、翌朝何事もなかったように目覚めた12歳のヤーシャラージャは、徹夜で目の据わったふたりの顔を見て何かを察し、曖昧に微笑んだが最後、他のバンカーが出勤してくるまでこってりお説教されましたとさ。
 おしまい。