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はなれ
2024-11-13 11:49:51
2522文字
Public
ソルバン
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アルバイトとケーキの話
⚠何でも許せる人向け
ソルバンカフェパロ。
副店長ルダン、アルバイトネーグ、流浪のパティシエサージュ、みたいな……そんな幻覚。
ネーグ・コスキントは幻想
喫茶
、、
ローカパーラのアルバイトである。
このローカパーラは、なんというか、摩訶不思議なカフェなのだが、今回その話は割愛するとして。
今日も今日とて営業時間を終えた店内をネーグが掃除していた時、ほどよく古びた扉に取り付けられた、来客用のベルが鳴り響いた。
「すみません、今日はもう閉店で
……
」
「知ってますよ。こんばんは~」
飄々と現れた男はひらりと片手を上げて挨拶をすると、ネーグの横を通り抜ける。
すれ違いざま、ケーキのような甘い香りがした。
勝手知ったる素振りで店内に入ってきた男にネーグが呆然としていると、レジ締めをしていたルダンが顔を上げる。
「遅かったな」
「営業中に来たら怒るくせに」
「それは貴様が忙しい時間に来るからだろう」
それから、世間話を少し。
知り合いが来るんだったら先に連絡しといてくれよ、という文句をネーグは飲み込んだ。
「彼、新顔です?」
「アルバイトだ」
「へぇ?」
ちらり、と男がネーグを見遣る。
「う~ん。まぁ、及第点ですかね」
にっこりと微笑まれ、ネーグは頬が引きつるのがわかった。
なんでこんな軽薄そうな
――
有体に言えば胡散臭い男に見定められなきゃいけないんだという不満に握りしめたモップの柄がギシリと音を立てる。
「じゃ、いつも通り」
そうこうしているうちに、コートを脱いだ男がやはり慣れた足取りで店の奥に歩き出した。
「サージュ」
ルダンの呼びかけに男
――
サージュは足を止めた。
「貸しだぞ」
「
……
は~い」
振り返らず返事をしたサージュの背を見送って、ネーグは掃除を再開した。
◇ ◆ ◇
(遅くなっちまったな
……
)
掃除を終わらせたネーグが用具を倉庫に戻した帰り。
厨房に電気がついていることに気が付いて、ネーグは吸い込まれるようにキッチンを覗き込んだ。
「!」
そこにいたのは、サージュである。
無地のコックコートにギャルソンエプロン。
顔にかかる長い髪は一つにまとめられ、先ほどまでの態度が嘘のように、キッチンと向き合う姿勢は真面目なものだった。
無駄のない動きで器具を扱うその様には、磨き上げられた熟練の技を感じる。
ネーグは思わず入り口で立ち止まったまま、静かにその姿を眺めていた。
「覗きですか? 趣味悪いですね」
「言い方!」
さすがに気付かれてしまったようで、サージュから声をかけられる。
帰ろうとしたネーグは、サージュに手招きされておずおずと足を踏み入れた。
「見学していいですよ」
別に見たい訳では。
なんて野暮なことは言わない。
何せ、サージュが作るものに興味が湧いたので。
「手際いいな」
「本職ですから」
サージュは出来上がった生地の天面と真ん中を切り落とし、平らに整えるとハケでジャムを塗り始めた。
「
……
アプリコット?」
「おや、正解です」
重ねた生地をケーキクーラーの上に置いて、煮詰めたジャムでコーティングする。
更にその上からチョコレートフォンダンを回しかけ
――
あれは確か、グラサージュというんだったか。
「ま、こんなものですかね」
ツヤツヤとした光沢がなんとも美味しそうな、ザッハトルテの完成だ。
それを見て、ネーグのお腹がくぅ、と鳴る。
「これは冷やさないと食べれませんよ」
「わかってるけどさぁ
……
」
だって、バイト終わりなのだ。
こんなにおいしそうなものを見せられたら、誰だってお腹が空くに決まってる。
「仕方ないですね。余りものですけど」
出来立てのザッハトルテを冷蔵庫にしまったサージュが、片手に白いケーキボックスを持って戻ってくる。
中にはショートケーキが二つ。
サージュは戸棚から皿とフォークを持ってくると、形を崩さないようにケーキを置いた。
「どうぞ」
「いただきます」
手にしたフォークで、まずは一口。
優しい味が口の中いっぱいに広がった。
柔くフォークを弾くふわふわのスポンジと、上品な甘さのクリームに包まれたみずみずしい苺の酸味が舌を幸せにする。
「これってあんたの手作り?」
「そうですけど」
「
……
」
「なんですその顔。口に合いませんでしたか?」
「いや、すっげぇ美味い。店で売れるレベル」
「ま、実際売ってますからねぇ」
「ガチで本職
……
そういや副店長と随分親し気だったけど、あんたもここの従業員?」
「それは
……
」
「昔の話だ。今は違う」
「副店長」
後ろからやってきたルダンが、ネーグの隣に座った。
「コーヒー」
「自分で淹れて
……
あぁハイハイ。わかりましたよ」
サージュがコンロで準備をしている間、ネーグはふとルダンを見る。
「あれは前オーナーの時の従業員だ。今は修行と称して各地をふらついている」
「もったいない。呼び戻せばいいのに」
「たまに貴様もとんでもない事を言うな
……
」
ほどなくして戻ってきたサージュがほんのり湯気の立つコップをルダンに手渡す。
一口、ルダンはそれを呷り
――
くわっ、と目を見開いた。
「なんだこの甘さは!」
「さっき残った材料をホットチョコにしてみました」
「私はコーヒーが飲みたかったんだ」
「俺に頼んだのが間違いでしたねぇ」
そう言われてしまえば、ルダンも言い返すことができない。
眉間にいつもよりシワを刻みながら、ルダンはもそもそとケーキを食した。
「そういえば今年も作ったのか? お嬢様へのチョコ」
「作りましたけど」
「でっかいケーキだったぜ」
「はぁ
……
難儀だなおまえは
……
」
「心外ですね。律儀って言ってくださいよ」
ケーキも食べ終わり、ホットチョコも底をつく頃になると、そろそろ帰るか
……
という雰囲気が流れ始める。
元々閉店作業をしていたのだから当たり前なのだけれど。
「それじゃバイトくん。後片付けよろしく」
「
……
は」
重ねた食器を手渡され、またもやネーグは時を止める。
「おいサージュ」
「それと、またここで働くことになったので。よろしくお願いしま~す、副店長?」
「はぁ⁉」
最後に特大の爆弾を落として、颯爽とサージュは去っていった。
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