はなれ
2024-11-13 11:47:50
4812文字
Public ソルバン
 

救済の在処

⚠何でも許せる人向け
⚠腐向け(予防線)
⚠サージュ・ソネガンがローケーシャに魂を売っている
⚠先代時代
イベスト台詞引用してるので何か問題があったら書き直します。

 刎ねる。
 首を、刎ねる。
 手にした長剣が閃くたび、またひとつ悪が消えていく。
 それでも、足りない。
 この世から〝悪〞を根絶やしにしない限り、この街に平和は無く、自分に安息は無い。
 だから、刎ねる。
 虚偽は許さぬ。
 汚濁も許さぬ。
 罪人は許さぬ。
 ――正さなければ。
 これは、そのための剣。そのための力。
「悪は……どこだ……
 幾度目かの断罪の後、サージュはうわごとのように呟いた。
 既に長剣は真っ赤に染まり、元の輝きを失いつつある。
 闇の中を歩くその姿は、迷子のようで頼りなかった。
 それでも、止まらない。
 裏切りの痛みが、やるせない怒りが、報われない嘆きが、今のサージュを突き動かす。
 それだけが、サージュの進むべき道であるが故に。


 ◇ ◆ ◇


「少々厄介な仕事がある」
 なんて、ヤーシャラージャが言うものだから。
 本当に厄介な仕事なんだろうな、とルダンとナーセラは気を引き締めた。
「封印業務、ですか?」
「あぁ、これが調査書だ」
 ルダンは書類を受け取ると、手早く全体に目を通す。
「目的はこの男が扱う魔道具で?」
「それは勿論だが、できれば対象ごと封印したい」
……見る限りでは、普通の魔道具使いのようですが」
「まぁ、そうだな」
 煮え切らない返事をするヤーシャラージャに、ルダンは眉間にシワを寄せた。
 つまりは、訳アリ。
 だというのに、ヤーシャラージャは黙したまま、その理由を話すつもりは無いらしい。
「でもよぉ、こいつ犯罪者だけを狙って襲い掛かってるんだろ? こう言っちゃ悪いけど、いいやつなんじゃ?」
「おいナーセラ、よく読め」
「いやぁおまえが読んでるからいいかなって」
 悪びれもなく言うナーセラにルダンが頭を抱えていると、苦笑したヤーシャラージャが口を開く。
「この者がやっているのは強制的な死刑執行ギロチンだ。それこそ老若男女問わず、罪状問わず。死をもって償いとする……わかりやすい道理ではあるが」
「解せませんな。なんのための司法だと……
「理屈ではないのだろうよ。魔道具を、手にするぐらいなのだから」
 珍しいな。とルダンは思った。
 いつも超然とした態度を崩さないヤーシャラージャが、何故か後悔しているように見える。しかしそれも一瞬のことで、すぐいつも通りを取り戻すと、ヤーシャラージャは巌のような声を響かせた。
「だから、おまえたちに任せたい。頼んだぞ。ルダン、ナーセラ」
 ヤーシャラージャが、祈るようにそう告げるものだから。
「「かしこまりました」」
 ふたりは声を揃えて応えた。
 そうして、目撃情報があった街に繰り出したのだが。
「さて、今回の作戦だが……ナーセラ、おまえ、私を襲わないか?」
「ちょっと待て」
 思ってたのと違う。とさすがにためらったナーセラであった。


 ◇ ◆ ◇


 どれだけ〝悪〞を断罪しても、決して埋まらない空虚を、抱いている。
 サージュは闇に濁った瞳で、夜空に浮かぶ三日月を仰いだ。
 あの月のようにぽっかりと、心が欠けてしまったのだろうか。
 何をしても治まらない飢餓感にひどい焦りを覚える。
 あと何度、罪人の首を刎ねれば満たされるのか。
 あと幾度、この手を血に染めればいいのか。
 その最果てに、救いはあるのか。
 わからない。
 これが、自身が望んだ力なのかも。
 これが、貫きたかった正義なのかも。
 ただ、そのように与えられたのだから、きっとこれは正しいのだと。
 サージュは、そう、信じている。
『助けてくれ!』
 静寂を乱す声がする。
 だから、サージュは駆け出した。
 平穏を乱すのは、悪だ。
 悪は、滅ぼさねばならない。


 ◇ ◆ ◇


 時はサージュが駆け出す少し前に遡る。
「という訳だ。私が声を上げてそれっぽくしていれば……まぁ、それなりの犯行現場には見えるだろう」
「いや、言いたいことは分かるけど警察来たら俺終わりじゃね?」
 社会的に。
 ナーセラが遠い目をしていると、通信機からヤーシャラージャの声がした。
『その心配は必要ないぞ。ここ一帯の警察は上層部の汚職が露見して件の魔道具使いに刎ねられている。今は組織の立て直しで手一杯で民衆に目を向けている余裕は無いだろう』
「それってどうなんですかね……
……つくづく気に食わん。何が犯罪者を狙う、だ。やっていることはただの殺人と変わらないではないか」
 ルダンの呆れを含んだ声が静かに響く。
「まぁいい。その厚い顔を拝んでやるとしよう」
 そんなこんなで。
 ルダンは肺一杯に空気を吸い込んで一言。
「助けてくれ!」
「やっぱそういう感じ!?」
「不満か」
「いや~これで釣れなかったら俺の今後の人生がさ……
『当行への返済が終わるまでは身柄の安全は保障しよう』
「いや頭取、それはそうなんですけど……そうなんですけどね……?」
 なんて、軽口を言い合ったりして。
 特に何の音沙汰も無いものだから。
「さすがに無理があったな」
「俺の傷つき損じゃん」
 じゃあ場所を変えて。
 なんて、気が緩んだ瞬間。
 殺気。
「っ、避けろナーセラ!」
「ぅおっ!?」
 咄嗟にナーセラを突き飛ばし、ルダンは地面を蹴った。
 あと少しでも判断が遅ければ、危なかったかもしれない。
 少し前までナーセラがいた場所に、赤い長剣が突き刺さっていた。
 巻き上がる土煙と共に、錆びた鉄のにおいがする。
 青年だ。
 三日月を背に、拭いきれない闇を携えて。
 青年がそこに、立っていた。
 ボサついた黒髪の隙間から覗く瞳が、やけに煌々と輝いて見える。
 それは光というよりは、獲物を狙う獣のそれだった。
「悪は……おまえか」
 赤く濁った瞳が、ナーセラを見る。
「それとも、おまえか」
 今度は、ルダンの方を見据え。
どちらに裁きを下すか見定めているように、青年はただ、じっと佇んでいた。
「え~っと、これって作戦成功?」
「そのようだ」
 決して青年から目を逸らすことなく、ふたりも得物に手を伸ばす。
 戦う意志があることが伝わったのか、青年はルダンとナーセラを睨みつけた。
「悪しき者……すべて滅ぼす……!」
「悪だか何だか知らないが……貴様がやっていることは、貴様が斬り捨てている輩と何も変わらないぞ」
 ゆっくりと、銃口を青年に向けながら。
 ルダンは調査書に書かれていた名前を叫ぶ。
「おまえも、悪だ! サージュ・ソネガン!」
 ルダンの言葉に強い衝撃を受けたのか、青年――サージュはよろけ、片手で顔を覆いながら呻いた。
「る、ルダン。言い過ぎじゃねぇか……?」
「知らん。思ったことを口にして何が悪い」
「それもおまえの美徳だとは思うけどさ~! あいつめっちゃ怒ってるって!」
「大抵の人間は本当の事を言うと怒る。当たり前だろう」
「あ~もう俺の相棒男前~!」
 そんなふたりを余所に、サージュの長身が揺れる。
「悪? 俺、が?」
 サージュはルダンの言葉を振り払うように頭を振った。
「違う! これは正義だ! これは、街を守るための! 俺は! おれ、は……!」
 段々と、荒げていた声が弱くなる。
「ただしい、ことを……
 後ずさっていたサージュが力なく地面にくずおれた。
 それと同時に、その姿が変わっていく。
 黒く短かった髪は、色を失い、腰ほどまでに。
 不健康そうな青白い肌は、闇に侵食されたような褐色に。
 変化するその様は、異質。
 だが、なによりも。
 なによりも、その姿を鮮明に焼きつけたのは。

『俺が信じてきたものは、なんだったんだ?」

 まるで懺悔するような、悲鳴にも似た雄叫びが夜を引き裂く。
 それは、産声のような啼声だった。
 サージュは色の反転した瞳から、涙の代わりに血を流して。
 操り人形のようにぎこちない動きで立ち上がると、ルダンとナーセラの前に立ち塞がった。
「おいおい、あれもう魔道具と引き剥がせなくねぇか!? どうすんだルダン!」
「えぇい私に聞くな! 今考える!」
 ルダンが放った威嚇射撃は、難なくサージュに斬り捨てられる。
 緩慢な動きからは想像もできないほど反応速度が早い。
「死ぬなよ、ナーセラ」
「おまえもな、ルダン」
 もう一度、ルダンが引き金を引く。
 その発砲音を合図に、戦いの火蓋が切って落とされた。
 先手を取ったのは、サージュ。
 いつの間にか視界から消えていたと思ったら、ルダンの頭上から斬りかかる。
 その凶刃を受け止めたのはナーセラだ。
 サージュの刃を受け止めた杖ごと力任せに振り抜く。
 その隙を狙ってルダンが一発。
 サージュが首を傾げて避けた所に、ナーセラが刺突を繰り出した。
「こいつは俺が引き受ける。援護頼んだ!」
 それだけ告げて、ナーセラが追い打ちをかけに行く。
「だから! そういうことを勝手に決めるんじゃない!」
 こういう時のナーセラは何を言っても聞かないことは理解しているので、ルダンは悪態をつきながらもどうすれば魔道具を、ひいてはサージュを封印できるか思考を巡らした。
(考えろ……考えろルダン……
 まずは、魔道具だけを封印する。無理だ。
 サージュだけを封印する。これも無理。
 今のサージュは魔道具と融合している。驚異的な身体能力と容姿の変化はそのせいだ。
 だから、あの状態のまま、封印するしかないのだけれど。
……強い)
 それだけは、認めるしかない。
 サージュの行いも、信念も、理想も、気に食わないけども。
 その強さだけは、正しいと思う。
(どうする……いっそのこと〈乾坤一擲マガヴァーン〉で……
 撃ち抜くしか。
 そう思って、ルダンがもうひとつの幻想銃門に手を掛けた時。
『殺すな、ルダン』
 まるで見ていたように、ヤーシャラージャが引き留めた。
……お言葉ですが、わたくし共には分不相応な相手かと」
 魔道具を使うサージュに、資産魔法も無しに立ちまわるのは無理がある。
 実際、押され気味であるし、これ以上はジリ貧だ。
『それでも、だ。器ごと封印しろ』
 正直、納得いかない。
 そもそも、サージュのことすら気に食わないのに。
 だが、ヤーシャラージャの命令とあらば、聞かない訳にもいかないので。
……ナーセラ!」
「なんだ!」
 鋭い蹴りを繰り出したナーセラが、ルダンの声に後退する。
「一度でいい。絶対に、奴の攻撃が私を狙うようにしろ」
「は? なんでそんな危険なこと」
「真面目に戦うのが馬鹿らしいからだ。奴が突っ込んできた一瞬を狙って門を開く。そのぐらいの融通は利きますよね? 頭取」
『あぁ。間に合わせよう』
 作戦は、決まった。
「手早く締めるぞ」
 ひとつ呼吸を整えて、ルダンは銃のグリップを握りしめる。
 たぶん、機会は一度。
 未だ、ナーセラがサージュを引きつけていた。
 まだ。
 まだだ。
 もう少し。
(今だ!)
 ルダンが放った銃弾が、サージュの右腕を撃ち抜いた。
 サージュの狙いが、ルダンに変わる。
 そうしてサージュが、ルダンに肉薄する寸前。
「頭取っ!」
 ルダンの眼前に、仰々しい門が姿を現した。
 サージュがその異変に気付くが、遅い。
 停止が間に合わず、その痩躯が一直線に門に向かう。
 神秘の口を開けてサージュを呑み込んだ門が、重厚な音を立てて閉じた。
「ヴァイシュラヴァナ、閉門、ってな!」
「おまえ、それ言いたいだけだろう」
「おう。言いたいだけだ」 
 これにて、一件落着。
 では、あるのだけれど。

「新入りのサージュ・ソネガンです。ど~ぞ、よろしく」
「「 」」

 なんてことになるのは、もう少し先のお話。