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はなれ
2024-11-13 11:40:35
2092文字
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ソルバン
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弾劾モラトリアム
TMC後のルダンとサージュの話。cp無し。
いつもの何でも許せる方向け。
「あとはこの書類を片付けて
……
」
最低限の灯りだけついた事務室に、掠れた呟きが落ちる。
ルダンはひとり、就業時間をとっくに過ぎたローカパーラにいた。
その傍らに寄り添うのは、冷え切った夜の静寂である。
平時から決して暇な職場という訳ではないが、ここ数日のルダンは僅かな安息すら惜しむように仕事に没頭していた。
理由は、先の事件にある。
ローカパーラの副頭取であるルダンが行方不明となり、ローケーシャに魂を売ったナーセラと戦った日から、数日。
まだ疲労も抜けない内から残業を重ねるルダンを心配する声もいくつか上がっていた。
その大半は、彼には煽りにしか聞こえなかったが。
(大体私の心配をする前に当行のセキュリティシステムについての改善案の一つでも提出したらどうなんだ本当に)
「はぁ
……
」
ルダンが凝り固まった体を伸ばすとボキボキと嫌な音が鳴った。
背もたれに体を預けながら、ぐいっと眉間のシワを伸ばす。
「
……
」
そのままふと、己の左手を見た。
あの日、幻想銃門の引き金を引いた己の手を。
引き金の重さは覚えていない。
ただ、引けたのだから、ためらいは無かった。
あるいは、ためらいすら感じられないほど、何も考えられなかっただけなのかもしれない。
幾度となく、使って来た武器だった。
幾度となく、共に戦った相棒だった。
どれだけ過去を反芻して、記憶のかさぶたを抉られても。
『救われるべき者を残らず救う』というのが、どれほど崇高な信念だとしても。
認められない。
ただ、その方法が、邪道であるというだけで。
かつてそうしてもらったように、その意志を信じ、支えることなど、ルダンには。
「
……
ナーセラ」
思わず零れたそれは、ひどく情けない声だった。
ルダンは沈みかけた思考を振り払うようにガシガシと頭を掻いて、カサつく指先で書類をめくろうとした、その時だった。
「だいぶ煮詰まってるみたいですねぇ」
いた。
扉の近くに。
衣擦れの音一つさせずに、その男が。
「
……
何しに来た、サージュ」
「別にぃ? わたくしはルダンさんが倒れようと知ったことではないんですが、頭取が気にかけておりましたので」
口調こそからかうように、しかしその声音に棘を携えて。
サージュがそこに、立っていた。
「自己管理ぐらい徹底しているつもりだが」
「そう見えない、って言ってるんですよ。ほんと、未練がましいったらありゃしない」
サージュが大袈裟に溜息をつく。
溜息をつきたいのはこっちだが、と思いながらルダンはデスクに書類をしまった。
どのみち今日はもう仕事になりそうもない。
経験則からくる嫌な予感に、ルダンはそそくさと部屋を出て行こうとした。
「待って下さい」
鞘ごと、サージュの刀がルダンの首に当たる。
強引な引き留めにルダンは足を止め、剣呑な視線でサージュを睨みつけた。
「
……
何の真似だ」
軽く手で刀を跳ね除けながら問いかければ、スッと細められた淡い色の瞳が、刃の如き鋭さを帯びてルダンに向けられる。
「わたくしは、あなたがどれだけ苦痛に喘ごうが、奈落の底に引き摺られようが構いませんし、そうなればいいとすら思います。ですが、あなたがもがき苦しむ理由が、ナーセラさんなのは気に食わない」
サージュの持つ刀の、よく研ぎ澄まされた刀身が露わになった。
「だからその感傷、捨てていただけます? 今、ここで」
「できない、と言ったら?」
「あなたの首を刎ねて
……
俺が、あのひとを殺します」
言い終わるよりも早く、サージュが刀を振り抜いた。
澄んだ銀の剣影が、ルダンの首を横切る。
一瞬のような、永遠のような閃き。
純粋な戦意だけを形にしたような、まっすぐな刃がルダンに向けられ。
そしてそのまま、まっすぐに、横の扉へと突き刺さった。
「どうした、私は逃げないぞ」
相も変わらず剣呑な、いかにも面倒そうな視線でサージュを見据えながら、ルダンが薄い唇を歪める。
「
……
知ってますよ、そのくらい。俺は、あなたのそういう所が
……
っ」
いつものサージュからは想像もつかない、喉の奥から絞り出したような、苦し気な呻きが小さく響く。
握りしめられた柄が手袋と擦れて、ぎゅ、と軋んだ音を上げた。
ルダンの方からは夜闇に紛れて、その表情はうかがえない。
「気は済んだか、人事部」
「まったくですよ、副頭取」
突き刺さった刀が引き抜かれる。
「そうそう、明日から有給取っておきましたので。存分に暇を持て余すといいですよ」
つまらなそうに刀を鞘に納めながら、サージュがついでのように告げた。
ルダンの困惑も余所に、サージュはそのまま背を向けて去って行く。
「勝手なやつめ
……
」
恨めし気に呟いて、どっと疲れが押し寄せてきたルダンはちりつく痛みを訴える首筋に手を伸ばした。
どうやら逸れたはずのサージュの刀が、薄皮を掠めていたらしい。
指先を染めるその赤が、ナーセラを思い出させて、ルダンを何ともいえない気持ちにさせた。
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