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みすず
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Rabbit in the RooM
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まそとお
風邪
天気予報では夜中から降るといっていた雪は、随分早くアスファルトを白く染めていた。
雪が降る前に、店が閉まる前にと買い出しに出ていた真朱は見事に油断しており、傘もなくRooMまでの道を歩いていた。既に買い物を済ませた後で、傘を買いに戻るのも億劫だと無精を発揮したのは間違いであったかもしれない。気づいたのはコートの肩がしっとりしてきた頃だ。ウールのロングコートは暖かであったが、フードもなく、撥水加工もされていないので水気に弱かった。
走るのは一度滑りかけたところで諦めた。結局、真朱がRooMへ戻ったのは頭も足元もぴしょっとしてからのこと。
「──うわ、先輩めっちゃ濡れてんじゃん!」
裏口から「戻りましたー」と声をかけた真朱にいち早く気づいた兎織が、迎える言葉より早く驚いた声を上げる。
「え、ちょっと待って。タオル持ってくる」
「二、三枚お願いしますー
……
」
「りょうかーい」
出たときよりも重く感じるコートを脱ぎ、髪を解いた真朱は兎織を待ちながら小さくくしゃみをした。寒い。
「お待たせ! うっわ、冷えてる
……
」
すぐに戻ってきてくれた兎織がタオルを広げ、真朱が受け取る前にそのままわしわしと頭を拭っていく。途中で頬へあてられた兎織の手は熱いほど温かく感じ、真朱は湯に浸かったときのように濁った母音を零す。
「先輩、傘持っていかなかったの?」
「はい
……
」
「呼んでくれたらよかったのに」
「月村さんまで抜けるのは難しいですよ」
ともに働いて五年。真朱がRooMでもっとも頼りにしているのは兎織だ。
湿ったコートをタオルでぽんぽん叩いていると、そろそろいいだろうというところで兎織が乱れた髪を手櫛で整えてくれた。撫でられているようで心地良い。
「シャワー借りる?」
「
……
多分、大丈夫です」
「ほんとにー?」
苦笑して覗き込んでくる兎織に「ほんとですよー」と返す。
返したのだ。
前日の乾いたタオルとは違い、ひんやりと濡れたタオルが真朱の額に乗せられる。
重たく感じる瞼を開けば、生温い笑みを浮かべた兎織が真朱を見ていた。言わんこっちゃない、という言葉が聞こえるようだ。
「真朱さん、大丈夫?」
「
……
大丈夫です」
「本当に?」
前日のやり取りをなぞったような会話に、真朱は「だめかもしれません」と正直に答えた。いい歳になると、健康状態を偽るのが周囲の迷惑にしかならないと気づくのだ。もっと言えば健康管理を怠ることも含めて、だ。
自分に好きなひと、自分を好きでいてくれるひとがいれば、特に気をつけなくてはいけない。
「もー
……
無理しちゃだめじゃん」
「いやあ
……
無理だと思わなかったんですよぅ」
「俺が心配してたのに?」
ぐうの音も出ない。
抵抗するように「ゔー
……
」と唸る真朱に仕方ないものを見る顔をして、兎織が頬を撫でてくれた。タオルを濡らしたばかりの手はひんやりとして心地良い。なにもかもが昨日をなぞっているかのようだ。ところどころをあべこべにしながら。
「
……
兎織さんは風邪引かないようにしてくださいね」
「あはは。移して治す?」
「やです」
冗談っぽく言われても賛成できない。
熱で頭はぼんやりするし、関節と頭が痛いし──いつもより寂しいし。
兎織が傍にいてくれるのにもっと近くにいてほしい、手を握っていてほしいと一瞬前の否定と相反する望みが回っていないはずの頭で唯一ぐるぐる巡っている。
寂しがりの兎織をこんな気持ちにさせたくない。
兎織が寂しいときは隙間もないほど抱きしめるけど、弱った体に引きずられる心はそれでは足りないかもしれない。傍にいるのに寂しい思いなんてさせたくないのだ。
「んふふ
……
じゃあ、早く治してね」
「はぁい
……
」
額のタオルがひっくり返される
……
前に唇の感触。
どうしてか熱が上がって赤くなった顔を、真朱は布団を引き上げて隠した。
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