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みすず
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創作
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こみこず
プレゼント
スマホを指でなぞりながら、國正は「おお
……
」と感嘆と戸惑いの混じる声を上げる。
國正が見ていたのはアクセサリー雑貨を扱う店のサイトで、國正ではどれがなにを指しているのか分からぬ商品が色とりどりに掲載されていた。分からぬが、一応
……
一応分かっているものある。目的のものがどういう区分に入っているのかは、知っている。
まるで見知らぬ機械に触れるような覚束ない手つきで商品カテゴリーからヘアアクセサリーを選び、さらに細分化された先の画像に視線を走らせる。
「シュシュっていうんだ
……
」
名称は知らなかったけれど、國正がよく知るものだ。
國正は今度こそシュシュの項目を選び直して、真剣な顔で画像に向き合った。
ぺたん、と机に伏せるのに合わせ、愛廻のサイドテールが揺れる。ゆらりとする明るい色の髪に、いつだって國正の目は惹かれていた。そのとき愛廻が見つめる先にいたのが自分でなくても、國正は愛廻の横顔を見つめずにいられなかった。クラスメイトから「見過ぎ」とぶっ叩かれるほどあからさまな視線に、愛廻が振り返ってくれるまでは短くない時間がかかったけれど。
「おはよぉ
……
なにかあった?」
じいっと見上げる愛廻に「ちょっとね
……
」と曖昧な返事をして、國正はどう切り出すか悩む。
「
……
オレにできることある?」
心配そうに愛廻の眉がへにゃっと下がり、申し訳ない気持ちはあるものの可愛らしさに悶えそうになる。
込み上げるものを堪えるために俯いた國正の袖を、愛廻が「ねえ
……
」とよく似合うピンクのネイルが塗られた指でつまんだ。
「大丈夫
……
悪いことじゃないから」
「っそ、なの
……
?」
上から手を重ねると愛廻は肩まで跳ねさせたが、國正が指を絡めて握っても引っ込めることはなかった。そのまま握ったり離したり、手の甲を軽く引っ掻いてみたりとしていればじわじわと頬を赤くした愛廻が物言いたげに見てくる。潤んで見える目が自分に向けられると、國正はいつだって走ったときのように胸が弾むのだ。
「
……
俺、愛廻の爪好きだよ。今日は何色だろうって楽しみ」
今日もきれいに塗られた愛廻の爪を指先で撫でる。つるりとした手触り。
「小宮君は、何色が好き?」
そわそわとしながら訊ねる愛廻に、國正はピンク色の爪を撫でながら「ううん
……
」と考える。
多分、恐らく、自惚れでなければ、國正が好きだと言った色で愛廻は爪を塗ってくれるのではないだろうか。そう、期待してしまう。
期待した上で考えるなら、どんな色が愛廻に似合うだろうか、と國正は愛廻の指先を見つめる。どんな色だって似合うに違いない。
ピンク色はもちろん似合っている。愛廻が塗っているとお菓子のような可愛らしさがある。黄色もきっと似合う。明るい髪色にも映えて愛廻をきらきら輝かせるだろう。寒色はどうだろうか。愛廻の爪が青く塗られていたら、彼が急に大人になったようでどきどきしてしまうに違いない。パステルカラー、間違いない。ビビットカラー、最高だ。愛廻はなんでも似合う。けれども、そうだ。
「
……
今日はピンクが好き」
「今日、は?」
不思議そうに首を傾げる仕草に、國正は今すぐ席を立って「俺の恋人がすごく可愛いです!!」と自慢したくなる。いや、しようとしたのだがまだ繋いだままの手に気持ちが引き留められた。愛廻の手が離れてしまうのは惜しくてならないのだ。
「愛廻が今日はピンクだから、ピンクが好き」
好きな子の身につける色が好き。愛廻が身につけている色だから好き。主体性がないと呆れられてしまうだろうか。
「お、オレが小宮君の嫌いな色のネイルしてたら?」
「絶対に可愛いからその瞬間に俺の趣味が変わるだけ」
國正に特別嫌いな色はないが、あったとしても手のひらを返して絶賛するだろう。
「あ」
「っなに?」
「後でと思ったけど
……
いまにする」
机の横に提げていた鞄に手を入れて、國正は自身の手にあるには随分と似合わないように見える小さな袋を取り出す。花のような形のリボンで結ばれた透ける袋。オーガンジーという名称を國正は知らないが、複数選べたラッピングのなかで一番愛廻に似合いそうだと思ったのだ。
「
……
どうぞ」
「オレに
……
? いいのっ?」
「うん。愛廻に
……
渡したくて」
國正が両手で差し出せば、愛廻は何度も手と顔とを見比べる。その動きに合わせて揺れるサイドテールを國正がじっと見てしまった理由を、透けて見える袋の中身に愛廻は察したのだろう。
「いま着けてもいい?」
「着けてくれるの?」
こくんと頷く愛廻がリボンを大事そうに解く。手元を見つめる愛廻の伏せた睫毛や困り眉を、國正はずっと見ていたくなった。いつかのように、いつものように。
やがて華奢な袋からシュシュを取り出した愛廻が「可愛い
……
」と呟いたのを聞き、國正の口元にへらりと締まりのない笑みが浮かぶ。
「この色、好き?」
今日の愛廻の髪を飾る淡いピンクとは、また違う色。
「うん! ありがとう
……
嬉しい」
「じゃあ、俺もこの色が好き」
愛廻が着けてくれたらもっと好きになるだろう。好きよりもまず似合うと思って選んだ色が、愛廻の色になるのだから。
へにゃりと無防備な笑みを浮かべた愛廻が自分の髪へ手をかけたとき、クラスメイトの誰かが教室の窓を開けた。僅かに揺れるカーテンを通り抜け、穏やかな風が愛廻の髪を撫でていく。さらさらと音がするような光景。シュシュを指にかけ、明るい色の髪を押さえる愛廻の一瞬きゅうっと閉じられた瞼。
反射的、衝動的。
「ふ、ぁっ?」
國正は愛廻の唇へキスをした。
教室だったけれど。クラスメイトがいるけれど。もうすぐ先生だって来るけれど。
「ごめん、可愛かったから!」
「っこ、こみや、くん
……
っ」
声にならない声を上げ、首まで赤くなった愛廻を机越しに抱き締めながら、國正はあはは、と十代の若さに溢れて笑う。背中に回された愛廻の手が、制服のシャツを皺になるほど強く握るのでもっとしてほしくなった。
ぎゅうぎゅうと抱き締めあっていれば誰かが「またやってる」とか「いい加減にしろ」とか言っているような気がしたけれど、そんな言葉は耳を素通りどころか聞こえやしないのだ。
自分と愛廻と二人分の心音が激しくて、ちっとも聞こえやしなかったのだ!
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