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みすず
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Rabbit in the RooM
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秋麗
新婚旅行
元より甘い香りの煙草が一層甘やかになったのが、もう随分と以前からであった。
秋仁が煙草を咥えると、まるで缶詰を開ける音に反応した猫のように素早くやってくる麗は、流れるように、繰り返し染みついたようにジッポーで火を差し出す。手際の良さを口にすれば練習したのだという。少しだけ。嘘というには可愛らしい。嘘といってしまうのは情がない。けれど、きみが傾けてくれる心を受け取っていると滲ませる。
カチン! と固い音は合図のように紫煙混じりのキスを誘う。
苦いはずのキスを交わすと、麗は伏せ気味の睫毛の向こうで黒い目をとろりとさせるのだ。その様を見る度に秋仁が獣欲を疼かせるのを、麗は知っているだろうか。
──明るいうちに回った観光地、名所とは違い、夜の宿はしんと静かであった。
生活時間のすれ違い、家族として過ごしたいあろう日にこそ多忙の秋仁は、愛想を尽かされてもおかしくないほど麗に苦労をかけている。秋仁の詫びでもある言葉を麗は褒美だと言った。にやりとした笑みはどちらが年上であるか、己がどれほど恵まれているか感じ入ると同時に、報いねばならないと秋仁は胸の内に朱書きしている。
須くすべき、などというべき論で語る義務ではない。
秋仁は麗が受け取って当然のものを、接せられ方を叶う限り与えたかった。
旅行の頭には新婚という文字がある。麗を娶ってから遅くなった新婚旅行。
ふたりきりの部屋、紫煙がゆぅらり烟って閉じる広縁で寄り添えば、湯上がりにしとりとした肌の熱が浴衣越しに合わさる。
「
……
愛してる」
紫煙をほろりと崩した麗の言葉を聞いて、秋仁は煙草を灰皿へ押し付ける。その短い間を行儀良く待つ麗は健気であった。彼はいつもそうだ。いつもいじらしさに胸が痛むほど秋仁に献身的である。
ほろりほろりと紫煙の名残りが互いの唇を行き交った。
「
……
いつも、愛してる」
言葉は短い。純度は高い。
愛している。愛おしくて、ずっと慈しみたい。優しくしたい。大切にしたい。
「
……
知ってます」
知っていてくれる。
嗟乎、咲う麗のなんと美しいことか。左様、秋仁は生涯忘れることがないだろう。折に触れては思い出して、懐かしみ、焦がれることだろう。
どうか、どうか忘れてくれるなよ。
秋仁は麗を愛している。自身が愛される存在であることを忘れてくれるな。そうして、湧いて尽きぬ恋慕の情が、どうどうと秋仁の心を叩いて止まぬこともどうか、どうか。
繰り返した口付けは紫煙に隠れず露わだ。足りぬ言葉も心顕わに伝えたい。
麗の頭に手を添える。良い子、好い子と形を確かめるように撫でて、指先で髪を梳く。そのまま引き寄せれば深くなる口付けに熱が増した。このまま燃えて溶けてしまえばいいよ。然らば離れずいられるだろう。秋仁は愛執で麗を絡め取ってしまいたい。
「愛してる」
離れた唇の熱が冷める前にもう一度。
──湯に濡れた体が冷めるに足りる時間は経った。腕に抱いた麗の熱さに秋仁は微笑み、細い肩に顔を埋める。
くぐもってしまった三度目は、麗に届いてくれただろうか。
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