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みすず
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Rabbit in the RooM
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まそとお
月村さんの作るご飯
「月村さんのご飯が食べたいです」
ぴ、と片腕を上げてねだった真朱に兎織がきょとんとした顔をするが、その表情はすぐに微笑ましそうなものになった。
「ふふ、いいよー」
快諾に真朱はもう一本の腕も上げる。
今日も迎えた遅い朝のことであった。
真朱と兎織、ふたりの家では真朱が料理をすることが多い。以前から真朱は馬鹿のような量を作っては兎織に助けを求め、特筆するほどでもない普通の料理を兎織が気に入っていてくれたので同棲を始めてからも習慣となっていた。現在では二人分、兎織と食べるための量を自然に作れるようになった。最近、兎織がむちむちしているので真朱は大変嬉しい。
真朱にとって料理はすっかり楽しいものになっているが、ふとした欲求。兎織の作ったご飯を食べたくなったのだ。それを自然に口にできるほど互いに甘えることを知っている。
「ちょっと待っててねー」
冷蔵庫を確認した兎織がうんうんと頷きながら台所へ立つ後ろ、邪魔にならないように気をつけながら真朱はうきうきして見ている。これは兎織もよくすることで、危なくないときはべたりと背中に張り付いてくれるのが真朱は好きだった。兎織と触れ合うのは落ち着く。
ピーマン、玉葱、ウインナー。小気味よく包丁がとんとん音を立てている。
「今日はナポリタンね。ケチャップぎりぎりだから使い切っちゃうよ」
首だけ振り返り、兎織がウインクした。兎織のウインクは様になっていて、両目を瞑ってしまう真朱は少し羨ましい。
「楽しみですね。後で買い物行きましょうか」
「りょうかーい!」
やがて、炒められたケチャップの甘酸っぱい香りがする。しゃわしゃわと具材と混ざり合うソースに兎織が「味見する?」と訊くので、真朱はもちろん頷いた。他者が料理をしているときの味見は、どうしてか特別だ。
「大丈夫? なんか足りない?」
「パスタと合わせるので丁度いいと思いますよ。美味しいです!」
「やったー!」
兎織の弾んだ声。パスタを茹でる間に他愛のない会話に興じる。気が早いものの、夕方になれば今日も出勤だがなんとなく仕事の話はしなかった。家のなかで避けているわけでもない。強いていうなら今日は金曜日、忙しくなるのが目に見えているので今から疲弊したくなかったのかもしれない。救いは二人揃って出勤することだろう。他の誰かが二人いないよりも互いがいないときのほうが大変なのはむかしからだ。以心伝心、息ぴったり。双子のように。
元々料理の上手い兎織はあっという間にパスタとソースを絡めていった。換気扇の向こう、きっと良い香りにお腹を空かせるひともいるに違いない。
「でーきたっと!」
「いえーい、お皿出しますね」
フライパンを放した兎織と交わすハイファイブ。
テーブルに並べたナポリタンがもうもうと立てる湯気すらも美味しそうで、真朱は「ありがとうございます」と神妙にお礼を言う。
「いただきます」の声は合図をしなくても同時だ。声音も同じ。
「美味しいですねえ」
「ほんとー?」
「兎織さんに嘘ついたことあります?」
「んふふ、ないかも」
食事中、兎織の所作はお手本のようにきれいだ。くるりくるりとフォークに巻かれるパスタは大きめのひと口だが、粗野なところがまったくない。ナポリタンだというのにソースで赤くなるのは唇の最小限である。
「ケチャップの加減が絶妙
……
また作ってくれますか?」
「もちろん! そんなに気に入ったの?」
「はい。美味しいだけじゃなくて
……
なんだか落ち着きます」
家で恋人と
……
家族よりも家族らしい兎織と食べる手作りナポリタンは不思議な郷愁を覚える。故郷に想起するものはないのに。記憶が返るのはこの先も今日のことだろう。
「
……
真朱さんが作ったのも食べたいな」
兎織がぽつりと呟くので、真朱は力強く頷く。
「張り切って作ります」
「約束ね!」
稚く指切りする必要もなく、約束は果たされるだろう。それが近い日だって、ふたり笑顔で並びながら食べるのが想像に易い。
最後のひと口をくるくる巻き取りながら、真朱はその日が来るのを待ち遠しく思った。
兎織もそうであってほしいと願いながら。
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