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みすず
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創作
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まさすみ
過去と現在
腹が立つ。
真咲は道の先に澄香を見つけ、浮かべかけた笑みを消して来た道を引き返す。
澄香のそばには彼が着るのと同じ制服を着た男がいた。アルファだ、と真咲には近くで確認しなくても分かる。
当たり前だ。「自分のオメガ」によそのアルファが近づいて分からないなど、本能に左右される性においてあり得ない。
たとえ、どれだけ幼くとも、と真咲は自身の手のひらを見やる。すっかりと背が伸びて大人の体つきになった澄香の手になら、すっぽりと包み込めてしまえる小さな手だ。
腹が立つ。
自分に? まさか。
自分の幼さを言い訳に使う澄香に、真咲は腹が立っているのだ。落ち度のない自虐など真咲の趣味にはない。
「酷いよねえ
……
ほんとうにさ」
出るものもない体を貪ったくせに、そんな目で見てはいないのだと線を引こうとする澄香。彼に抱く真咲の感情は、直情的に言えば恨みに近い。
愛しくて恋しくて、憎らしいのだ。恋着は美しくなどない。
澄香の理性と良識を引っ掻くらしい小さな体に似合わぬ泥の感情を、真咲はひたひたと積み上げ続けている。
──酷いひどい。どうしてこんなにぼくをいじめるの。おにいちゃんのばか。
そうやって目の前で泣いて見せたら、澄香はいっそ安心するのかしら。
「
……
腹が立つ」
大人の望むこどもらしさとはかけ離れた顔で、真咲は吐き捨てた。
がじがじと立ったまま澄香の項へ甘噛みを繰り返しながら、真咲はくすぐったそうに身を捩る澄香の腹の前で腕を組む。
「もう
……
動けないよ」
「嫌?」
「
……
嫌じゃない。でも、コーヒー淹れられないから」
いらないの? と訊く澄香の手が、コーヒーを淹れる途中だったコーヒーカップから離れて自分の手に重なるのを、真咲は目を細めて喜ぶ。
喜ぶが、真咲は両手を解いて一歩、二歩と澄香から離れた。
途端に「え」と無意識であろう戸惑いの声を上げ、振り返る澄香に真咲は無邪気なこどものようににこりと笑う。虫笑い。
「いる。邪魔してごめんなさい」
「あ
……
ちが、邪魔なんかじゃないよ」
「うん」
慌てたように首を振る澄香に、真咲は分かっていると頷く。澄香が自分を邪険にしないことなど、真咲にとっては百も承知だ。
たとえば、幼いあの頃。他のアルファと寄り添うところへ飛び込んでいったとしても、澄香は両腕を自分を抱きしめるために伸ばしてくれただろう。真咲はそうと信じているし、そうでなければ許せない。
「だから
……
」
「うん」
恥じらいに頬を染める澄香の、縺れる言葉の先を真咲は拾わない。
だから、なに?
言ってほしい。聞かせてほしい。ちゃんと求めて、声にして、手を伸ばして──澄香自身から!!
「
……
っすぐ淹れるから、そうしたら」
二歩分の距離を澄香が埋める。
耳元で囁かれた言葉に、真咲はまるで古いねだりごとを聴いてもらえたかのような満面の笑みを浮かべ、澄香の痩躯を抱きしめた。すっぽりと自分の腕のなかに包み込んだ澄香へ懐き、くすくすと笑う姿は甘い菓子を与えられたこどもそっくりだ。
「俺、コーヒーは後でもいいな」
だめ? と窺う真咲は、抱きしめる澄香の体がじわじわと温かくなるのを感じて、ますます機嫌良く彼に擦り寄る。
「
……
だめじゃない。その
……
」
「澄香さんもそのほうがいい?」
真っ赤になりながら頷く澄香を抱き上げようとして、真咲はやめた。身長は追い抜いたが、不安なく番を抱き運ぶにはもう少し筋力が必要なのだ。ここで「こども」を意識されたくなどない。断じて。
さっと澄香の腰を抱いて向かったのは寝室。後に残るのは空っぽのコーヒーカップが二つ。
きっと、コーヒーは真咲が淹れることになるだろう。
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