にるなる

あっためてもらう

 昨日、天気予報では「秋めいて」という言葉を使っていた。今日、天気予報は「真冬のような」という言葉を使った。
 とんでもなく寒い日であった。
「さむ……さみぃ」
「わぁ、手冷たーい」
 成海は姫瑠の背中へ張り付いて、時折むずがるように彼の肩へ頭をぐりぐりと押し付ける。寒くて落ち着かないのだ。
 そんな成海を引き剥がすこともせず、姫瑠はいつものように愉快そうな顔をして成海の冷えて強張る手を握った。血色の悪くなっている成海の手と重ねても姫瑠の肌は白いが、その体温は成海よりも──
(あれ?)
「どうしたのぉ?」
 笑み混じりの赤い目。姫瑠から間近に顔を覗き込まれた成海は反射的に身を引こうとしたが、手が握られたままだったのでその場でつんのめる。
「わ、大丈夫?」
「お、おう……だいじょぶ」
 体勢を整えた成海は窺う姫瑠に首を振って応え、そのままじっと姫瑠の手を見る。真っ白な手だ。
 真夏に成海と一緒に海を駆け回ったとは思えないほど白い肌は、冷え切った成海の手がじんと痺れるような体温を伝えてくる。
「ふふふ、温かくなった?」
 頬にもう片方の手が当てられ、成海は無意識に擦り寄る。外気によって冷えた頬に姫瑠の手が温かい。
 先ほどなにも感じなかったのは、ぬるいとも思えないほど熱くも冷たくもないように感じたのは、冷えすぎて感覚がなくなっていただけらしい。
「あったかい……
「ならよかった!」
 ぱっと明かりをつけたように笑う姫瑠にむにむにと頬を摘まれ、ぎゅむぎゅむと遊ぶように手を握られ、成海は「あったかい」ともう一度繰り返す。
 あたたかくて気持ち良くて、触れてもらえて嬉しくて、ずっとずっとこうしていてほしくなる。ずっとずっと側にいて、離れないでほしい。言ったら呆れられてしまうだろうか。姫瑠なら大丈夫かもしれない。言い続けたら鬱陶しく思われるだろうか。姫瑠でも。
「ねえ、成海」
「ンっ?」
「成海が寒くなったらあっためてあげる」
 今度は成海の両手を自分の頬に当てた姫瑠が、重ねた手を握ってからやわく解く。
「こうやって抱っこしてあげる」
 姫瑠の腕にぎゅうっと抱き締められた瞬間、成海はなんだか全身がとろとろと溶けていくような心地がして、一歩だって一人で歩きたくなくなった。立っているのも嫌になった。このまま自分の丸ごと全部を姫瑠に任せ、ひたすら彼にくっついてすやすや眠ってしまいたくなったのだ。もちろんそんなことできやしないけど、けど、いま姫瑠の腕が離れたら成海は崩れ落ちてしまうだろう。泣いて、姫瑠がまた手を引いてくれるまで動けなくなるだろう。
……俺、すぐに暖取りに行くからな」
 ぐずぐずに柔らかくなってしまった心を誤魔化すように、成海はすん、と鼻を鳴らして生意気な口調で言う。
「うん。いいよぉ」
「しょ、しょっちゅうだからな!」
「ふふ……っ、おいで」
 姫瑠が頷く度に、成海は胸までぽかぽかした。きっと、姫瑠の手が雪のように冷えていたとしても、彼の腕のなかにいれば成海はあたたかに感じるだろう。
 いつまでもここにいさせてほしくて、成海は身を預けるように姫瑠の肩に額を埋める。
 姫瑠の笑い声に揺られるのが、とても、とても心地良かった。