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みすず
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Rabbit in the RooM
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まそとお
秋の予定
冷えてきたので湯船に放り込んだ入浴剤は、柚子の香りがする。
立ち昇る湯気がくすぐったくて頬を手の甲で撫でた真朱は、だらりと湯船の外に腕を垂らす兎織に「肩が冷えますよ」と声をかける。
「涼しいのとあったかいのとって気持ちいいんだよね」
「それ露天風呂だと最高ですよね
……
温泉でも行きましょうか」
いいね、と返す兎織の声はまったりと寛いでいて、目は眠たげに細められている。湯船の縁に腰掛けている真朱は上半身を屈め、兎織の顔にかかる髪を払った。前髪を上げて整えれば重ねた年が際立つものだけれど、私生活の気を抜いた瞬間では逆に見えるのが不思議だ。
「真朱さん、髪洗ってー」
「いいで
……
シャンプー切れてたんでした。持ってきます」
真朱と兎織は同じシャンプーを使っている。というよりも、こだわりのない兎織が真朱のシャンプーを使っているのだ。香水然り、後ろにいるとどちらがどちらか紛らわしいとよく言われる。愉快。
新しいシャンプーを手に真朱が戻ってくると、兎織は風呂椅子に腰掛けてぱたぱたと顔を扇いでいた。汗ばんで赤くなった顔というと艶っぽいものを連想するが、へらっと笑い合うふたりに夜の気配はない。
「温泉さー、どこ行こっか?」
わしゃわしゃと髪を洗っていれば、兎織が目を瞑ったまま顔を上げた。袖捲りした腕へ僅かに泡が飛ぶのも気にせず、真朱は「うーん」と迷う。
「紅葉シーズンですからねえ
……
どこに行っても楽しそうですね。混むのは覚悟したほうがいいですけど」
「あー
……
それは仕方ないよねえ。でも、どうせならきれいなところがいいなー」
眉をほんのり寄せて悩む顔をする兎織が「あ」と声を上げ、ぱっと目を開けた。すぐにぎゅっと閉じる。泡が近いのだ。
「地酒は呑みたい!」
「必須条件じゃないですか」
日本酒をこよなく愛するふたりにとって、旅先でしか飲めない酒があるのなら絶対に飲みたいのだ。それが美味いものであれば尚更であるし、その美味い酒を目当てに旅先を決めるのに迷いはない。
「紅葉観ながらさ、昼から呑まない?」
最高の贅沢を提案されて、真朱は「絶対にしましょう」と重々しく頷く。宿の夕食でしこたま呑むのは言うまでもない。
「流しますよー」
「はーい」
泡を流していくシャワーが跳ねて、真朱の服もじっとりと濡れていく。彼は顔を洗うときも腕や胸元をびしゃびしゃにして、兎織によく笑われていた。
いまもそうだ。
「あはは。真朱さんめっちゃ濡れてるじゃん」
流し終えた髪を掻き上げた兎織が、後ろに立っていた真朱を振り返っておかしそうに笑う。兎織の髪を拭うために真朱が持っていたタオルを受け取り、ぽんぽんと濡れた真朱の胸元にあてる。
よくあるやり取りであった。よくあるのに、繰り返してしまう。効率や合理性を無視したじゃれ合いが、ふたりの間には幾つもあるのだ。
「ありがとうございます。じゃあ、先に調べてきますね」
「俺もすぐ行くね」
「ちゃんとあったまってから出てください」
「んふふ
……
風邪引いたら旅行行けないもんね」
ひらっと手を振る兎織に笑い返し、真朱は浴室を出る。足拭きマットの上で足踏みをしながら洗面台に置いておいたスマホを手に取った瞬間、つい一分前に閉めた浴室のドアが開いた。
「ごめん、石鹸取って
……
」
「おや
……
」
今日は粗忽でいけないと苦笑いし合った十分後、ふたりは思いつきという失敗に慌てることになる。
「宿ぜんっぜん空いてないんだけど!!」
「行楽シーズンですからね
……
そりゃそうですよね
……
」
気分は既に紅葉と地酒。苦渋の選択、店の伝手。
紅葉がはらりと落ち切る前に、ふたりは旅行へ行けるのか──
「土産って温泉まんじゅうでいいよね?」
「温泉地ですからね、それが一番ですよ」
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