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みすず
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Rabbit in the RooM
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まそとお
二度寝と寝坊
真朱は朝に弱い。
どうやって小中高と八時前に登校できていたのか、真朱はさっぱりと思い出せない。少なくとも高校時代は同室の寮生が往復ビンタで起こしてくれていた気がするが、三十路も過ぎれば十代の出来事など世紀を跨いだ昔に感じる。記憶に定かではない。当事者が聞けば昔と変わらぬ往復ビンタをするであろう恩知らずだ。
夜勤務である現在の職場は素晴らしい。たとえ給料が倍になろうとも、真朱は朝の起床が必要な職場に転職するつもりはない。絶対にだ。
このように自覚はもちろん、他者も認めるほどに真朱は朝に弱い。
その限られた他者の声で、真朱は今日といういち日に朝陽が差したことを知る。
「せんぱーい、朝だよ」
兎織から起床を促され、真朱はうっすらと目を開けてまた閉じる。眠い。
「んふふ
……
朝だってば。起きるんでしょー?」
ぽんぽんと柔く肩を叩かれても真朱は「ん」とも「う」ともつかない音を発するばかりだ。けれども煙たがるような響きはない。事実、時計や外部の騒音など睡眠を妨げるものに覚える不快感を、真朱は兎織にはちらりとも覚えていないのだ。
ただし、起きようという気概もまた、いまはちらりとも湧いてこない。朝だもの。
「
……
とおるさん」
「なーに?」
見慣れているであろう寝汚い真朱に呆れるでもなく、くすくすと微笑ましそうに笑っていた兎織に向かって手を伸ばす。目がほとんど開いていないのでぱたぱたと布団を叩けば、兎織のほうから手を取ってくれた。
起床を強制するのであれば、兎織はここで真朱の手を引っ張って上体を起こさせ、なんならベッドから落とすべきである。
だが、兎織は真朱に甘いので。
「ねましょ
……
」
寝惚けているも同然で、ろくに入らぬ力で兎織の手を引けば、彼は抵抗することなく真朱の横に倒れ込んできてくれた。動揺もなく楽しそうに。仕方ないと見せかける言葉も態度もなく。
もそもそと兎織にも布団をかけて、しっかり腕のなかに抱き締めれば微睡みよりも心地良く安堵する。
「ふふ。おやすみ、真朱さん」
穏やかな兎織の声に、真朱は頬を寄せることで返事とした。
──などという平和な朝を迎えれば、後々えらいことになるのは目に見えてるっつうもんである。
すやすやぐうぐう洒落込む二度寝、起きたらお天道様はお空で堂々ぴかぴか通り越し、そろそろ地平線に帰るのも検討中。
紛うことなき寝過ぎであった。
幸いなのは寝過ぎであっても職場に遅刻せずに済む程度であったことだ。
真朱と兎織は顔を見合わせ「寝過ぎましたね
……
」「ね
……
早く起きよ」と出勤準備を始める。意識さえはっきりしていれば真朱はてきぱきと行動できるし、兎織とて真朱に巻き込まれなければ今頃とっくに支度を終えて、出勤前の一服を楽しんでいただろう。いや全くまったく申し訳のないことであるが、兎織は迷惑がるどころか幸せそうに腕のなかへ収まってくれるので、真朱の反省はなっかなか身につかず仕様がないったら。
シャツを着る前に真朱が手に取る香水瓶。ウエストに吹き掛ければ生花そのものの百合が香る。
そのひやりとした感触が落ち着く間もなく、ぺちっと音を立てて熱い肌がぶつかり合う。慣れ親しんだベリーの香り。こちらも香水をまとった兎織が抱きついたのだ。
「この前さ、スタッフの後ろ通ったとき先輩と勘違いされたんだよね」
「お、奇遇ですね。私も月村さんだと思われたまま会話して怒られましたよ」
額を合わせて笑い合う。
ふたりは香水をつけた直後に抱き締め合うのが習慣で、混じり合って同じになった香りを纏っている。個々の生来持つものは違っても、同じ家に暮らし、付け足して馴染む香りも同じとなれば他者が勘違いすることは珍しくない。出勤日が違えば相手の香水をつけていくので、知らぬものからすればややこしいだろう。
それだけ兎織と密接に過ごしていることを、真朱は心から喜んでいる。
離れる前にどちらともなく交わしたキスが一回、二回
……
腹筋が擦れ合う。これ以上はベッドへ逆戻りすることになりかねない。
「
……
帰ったら、しましょうか」
「真朱さん、明日も寝坊だね」
「兎織さんより早く起きますよ」
「それ、俺が起きるの遅くなるの間違いでしょ」
「起こしてよー?」と顔を覗き込んでくる兎織に「はい」と真朱は頷いたけれど、実のところ難しいと思っている。
だって。だってだって、すやすや眠る兎織を起こすだなんて。腕のなかで安心したように身を任せる兎織を離すだなんて。
まさかまさか、そんな非道はどうしたってできやしないのだ。
真朱も兎織に甘いのだから。
ふたりで寄り添うことは、なによりも幸せなのだから。
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