むしゃっと花を喰むリュウイに、白露はにこにこと笑みを浮かべながら青い花に埋まって皿花器にも見える菓子盆を彼の前に寄せる。若者が飢えぬようになにかと食べさせたがるのは、老いたものによく見られる傾向だ。飢えに経験のない白露であるが、彼女も例外ではなかった。
「『感謝する。先生は食べないのか?』」
耳を通さず頭のなかに響く声に白露は「ええ」と頷く。見た目に前触れのない話し方をするリュウイは相手を驚かせぬよう筆談を用いることもあるが、授業中の発言などで白露は慣れている。彼の筆運びも白露にとっては親しみ深く、好んでいるけれど。
「お前に用意したものだから、たんとお上がり」
白露は自分用の茶菓子である干菓子を口に、舌に残る甘さを茶で流す。
「花を選ぶのは楽しいわね」
ぱちりと不思議そうなリュウイのまばたき、頬に落ちるまつ毛の影──窓から差し込む春日向に彼の角が透き通る青雲母を散らす。
あなにえや、きらきらしき桂男であることよ。
一見すると冬の色を纏うようなリュウイを、白露は春が似合うと思っている。
それは水竜である彼が水面に立つ瞬間、波紋に打ち散る花を見出すときにも。
花といえば地から伸びるものに馴染む白露であったが、訪い多きリュウイが好むものであればと季節にも融通の利く切り花から青色を探すようになった。花を春と繋げるのは短絡的かもしれないが、つまりは自然なことだ。
「もうすぐ山瑠璃草も盛りね。いつか言ったかしら……お前の名と同じ字を使う花よ」
「『覚えている。先生の故郷の花だ』」
リュウイが浮かべるほんのりとした笑み。彼が四年の間に身につけたものであると白露は知っている。変化と取るか成長と取るかは他者によって変わるだろうし、本人がどう認識しているかは分からない。
ただ、白露は佳いことであると思っている。
あと三年、瞬きの間の時間で、リュウイはさらに色を含めた表情をするようになるのだろうか。
「楽しみね」
卒業の日を迎えることが、大人となりゆく彼を見送ることが。
「『ああ。あれはこちらでは滅多に食べられない』」
話の続きと思い、育ち盛りらしい答えを返すリュウイに、白露は声を上げ皺を含めた。
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