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みすず
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Rabbit in the RooM
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まそとお
成立
「前に行った居酒屋でさー、覚えてる? 駅前で着ぐるみが転んでビラぶち撒けたとこ」
「覚えてますよ。店とのギャップありすぎて、辿り着くのに苦労したところですよね?」
「そうそう!」
ド深夜の街中、マンションやアパートが並ぶ景色は真朱にとって、恐らくはもう兎織にとっても見慣れた景色だ。
今日は幸いなことに所謂クソ客がいなかったので退勤して家路についたふたりの足取りは軽く、昼に働く方々の眠りを妨げない程度の音量であっても互いの話し声は弾んでいる。
「明日休み被ってますし、久しぶりに行ってみますか? ええと、前に行ったのいつでしたっけ」
「んー
……
去年?」
「えっ、そんなに経って
……
経って、ますね」
記憶を辿ってみれば、話題に上った店を訪れてから随分と経過していた時間。丁度、去年の今頃のことだ。
あのときも最近感じるのと同じぬるい風が吹いていて、そろそろ夏になると話しながら兎織と手を繋いで歩いていた。
去年。
兎織とは年単位で懐かしい話をすることが珍しくない。付き合いでいえば五年ほどになるので、十年ひと昔と考えると長いといっていい期間を過ごしているし、頭には「共に」とつけられるだけの密度があった。ここ数年の真朱の記憶には、印象的なものからささやかなものまで大抵は兎織の姿がすぐ近くにあるので。
「あの店、あちこちの地酒置いてましたよね」
「あったあった! めちゃくちゃ美味しかったよねー
……
どこの飲んだんだっけ?」
「
…………
むしろ、どこの飲んでませんでしたっけ?」
日本酒好きのふたり、滅多に飲めない銘柄にきゃあきゃあとはしゃぎながら節操なく飲んだことは覚えている。
つまみも酒好きが酒を楽しむための品揃えで、なんなら端的に「塩」が記載された品書きに真朱と兎織は爆笑したのだ。
「良い店でしたねえ」
「ほんと。なんであの後行かなかったんだろ」
兎織と一緒になって、真朱も首を傾げる。
とても楽しい時間を過ごしたのに、どうしてだっただろう。
「
……
宅飲み結構していたからですかね?」
その合間に他の店へも行っていたから、単純に機会がなかっただけかもしれない。
あー
……
と兎織が納得したように数度頷き、楽しそうな笑みを浮かべて繋いだ手を揺らす。
「先輩の家で潰れたの数え切れないよね。俺、何度も泊まったもん」
兎織が瞼を重たげにして目を細める。
そうだった。
三十を超えた男ふたり、真朱など四十路がそろそろ近いのに、強かに酔って寝落ちしては床で目覚めて痛む体に呻き合った。何度も何度も懲りずに繰り返した。ふたりで過ごす時間はいつだって楽しかったし、これはもう無理だ起きてられるかとラッコのように身を寄せて眠るのは、痛みも忘れるほど落ち着いたから。
「ねえねえ、先輩」
ぶん、と繋いだ手を振りながら呼ばれ、真朱は勢いのまま兎織のほうへたたらを踏む。
「おっと
……
なんですかー?」
「やっぱり明日は家にいない? 先輩のご飯食べたい」
兎織がだめ? と顔を覗き込んでくる。
兎織には以前から時折食べたいと言われてなにかしら作ることがあったが、真朱はその度にくすぐったいような嬉しさを覚えた。どういうわけだか鍋を使うと一人で消費するのが厳しい量を作ってしまう真朱に、救助としてではなく食べたいから作ってと望んでいたのは兎織くらいだ。現在では外食するのでなければ大抵真朱が作って共に食べているので、兎織と食べるための食事として味付けは彼の好みに自然と寄った。まだ真朱も自覚していないが、量も二人分の範囲に収まってきている。
「いいですよぅ。なににしましょうか
……
なに食べたいですか?」
「えーとね」
少し考えて挙げられたものに真朱は「はい、分かりました」と迷いなく了承する。
「それなら明日は少し早く起きて買い物行きましょうか」
「じゃあ、俺が先輩のこと起こすね」
「お願いします
……
午前中には、絶対に起きます」
ッスー、と細く息を吸って顔の真ん中に皺を集める真朱を、兎織がけらけら笑う。真朱は非常に朝が苦手で、いまはもう完全に兎織に起こしてもらっている。端末のアラームよりもずっと高確率で起こしてもらえるが、真朱がそのまま兎織を抱き寄せてしまうことも多いので絶対にはなっていない。兎織もおとなしく腕のなかに収まってくれるので、なんとも穏やかでしあわせな二度寝を何度しただろうか。
「寝坊してもふたりでゆっくりできるし、俺はそれもいいかなー。先輩は?」
「んー
……
ちゃんとご飯食べてもらいたいし、悩みますねえ」
どうしようか、どうしましょう。
予定ともいえないたわいない話をしているうちに見えてきたマンション。丁度よく一階で停まっていたエレベーターに乗り、降りて数歩進んだところで繋いでいた手が離れる。
先にドアの前へ立った兎織が鍵を開けた。
「おかえりー、真朱さん」
少し端に掠れのある久世と、真新しい月村の文字が並ぶ表札のかかるドアを押さえ、兎織が真朱を迎える。
「ただいま帰りました。兎織さんも、おかえりなさい」
「んふふふ
……
ただいま!」
真朱と兎織が出会ってから約五年。
一緒にいることが当たり前で、これからもずっと一緒にいたい大好きなひと。
増えた当たり前を交わして、真朱は兎織と一緒に暮らす家へと帰った。
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