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みすず
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Rabbit in the RooM
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秋麗
焦がした魚も愛しているという話
住まいを共にする以前、秋仁の自宅に出入りするようになってから麗はよく食事を作ってくれるようになっていた。
当たり前とは思わずいつもありがたくいただいていた秋仁であるが、彼も台所仕事を放棄したわけではない。尽くしたがりの気があるからか、完全に代わろうとすると仕事を取り上げられたような顔をする麗なので、休日や疲れているときに「いいから休んでろ」と強行する形になってはいるが。
やや久しぶりとなった秋仁の用意した夕食は、おこげのついた豆茶飯と浅蜊の旨味が存分に染み出たお吸い物、味噌の甘味が引き立つ鰆の西京焼き、旬の滋養たっぷりな蕗とたらの芽の天ぷら。春であった。
「秋仁さんってやっぱり和食が好きなんですか?」
さくさく音を立てながら天ぷらを飲み込んだ麗が、思案顔で問うてくる。今年のたらの芽はやたらと大きい。元より小さな麗の顔が際立っているのをお吸い物を啜りながら眺めていた秋仁は、彼もまたやや考える顔をした。
「やる気を出して作るとこういうものになりやすいだけで、なんでも食べるよ」
「なんでものなかから好きなものを教えてほしいんですけど。お酒とおつまみ以外で」
答えになっていないと麗がつんと唇を尖らせる。
「
……
ぶり大根?」
「和食じゃないですか」
「そうだな。言っていて驚いた」
「なんですかそれ」
面白そうに笑った麗が「季節になったら作ります」と今から張り切った様子を見せるので、秋仁は「それは嬉しいな」と口角を上げる。
表面的なものではなく、世辞の一片も含むところなく、ほんとうに嬉しかった。春の季節に冬の話が当然に出てくるのだ。共にいることが約束されていて、喜ばないような薄情ではない。
「
……
きみが好きなものも覚えるよ」
洋食でも、中華でも、と真っ先に思いつくものは若者に対する偏見かしら。
「
……
秋仁さんが料理上手くなっちゃうと、俺のやることなくなりそうなんですけど。俺、まだ時々魚焦がすし
……
」
麗は複雑そうだが、西京焼きを口に運べば素直に「美味しい」と呟く。なによりだ。
「まあ、知ってますけどね」
さてどう返すかと秋仁が考えている短い間に、麗は得意そうに続ける。
「
……
なにを?」
「俺が焦がした魚、秋仁さんが文句言ったことないじゃないですか」
「言わんだろ」
「嫌な顔もしないじゃないですか」
「しないだろ」
なにを当たり前なことを言っているのかと眉を上げた秋仁に、麗はほんのりと頬を染めながら視線を自身の持つ塗り箸へ逃がす。対ではないが、秋仁と揃いのものだ。麗が住まいをこちらへ移した際に秋仁が用意した。輪島か若狭か、華やかなものが似合うけれど煩わしいなら堆朱はどうかと、紅や簪を選ぶように悩んだのを麗は知らないだろう。
「そういうの、秋仁さんなりの『愛してる』なんでしょ」
一秒。呼吸が止まる。
視線を秋仁の顔へ戻した麗がびっくりするほどきれいに笑うので、もう一秒呼吸が止まる。
「俺、ちゃんと知ってるんですよ」
繰り返されて、秋仁は堪らない気持ちになった。
決して多弁ではない秋仁に、麗がもどかしそうにすることがあるのは分かっている。だというのに、あるいはその上で、彼はそこにあるものを真っ直ぐ指差すように秋仁の愛情を信じてくれているのだ。
ああ、まったく。己のなんと不甲斐ないことか。
「
……
苦労をかけるな」
「あはは! それも『愛してる』なんでしょう? 俺じゃなきゃ分かんないですよ
……
分かんなくていいんですけど」
「きみにしか言わんよ」
「絶対ですよ」
念を押す麗に苦笑しながら秋仁は頷く。言わないとも。
「秋仁さん、やっぱり俺作ってほしいものがあるんですけど」
「なんでも作るよ」
「あ、やっぱり一緒に作ってほしいんですけど」
「ああ」
麗が喜ぶのであれば、なんだってしよう。なんだってしてやりたいのだ。
「ええとですね──」
愛しているから。
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