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みすず
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Rabbit in the RooM
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秋麗
成立
ほろり。
吐き出す紫煙は長く一途に愛してきたショートピースよりも甘ったるいバニラが香り、煙草そのものとしては物足りぬはずであるのに、それを可しとする充足感に秋仁は目を細める。
「ほんとうに美味しそうに吸いますね」
感心したように、呆れたように、物珍しげにさえしながら言う麗に、秋仁は口角を上げながらまほろほろと紫煙を吐き出す。
「美人が火をつけてくれたからな」
美人と呑む酒と煙草はなによりも美味い。
伸ばした手で麗の後頭部を梳けば、煙草よりも分かりやすい香水のバニラが空気に乗った。香水と麗の肌が混じった香り。
この香りを知らなければ、秋仁はショートピースからアークローヤルに浮気することはなかった。隣を歩く相手のためにジャケットの形を変えるような、格好つけに似ている。
これを麗に聞かせれば、狡いと言われる回数も少しは減るだろうか。
親が副流煙で死のうが喫煙をやめる気のない愛煙家にしか分からぬいじらしさだと、秋仁は肩を揺らして笑った。
ほろ、ほろ。ほろり。
溢れる紫煙を不思議そうに「なんですか、急に笑って」と麗が顔を覗き込んでくるので、自然とその花顔が烟った。霞がかる美人の顔といえば風情もあるが、せっかくならばはっきりと見たくて秋仁はまだ長い煙草を灰皿へ押し付け、ひらりと紫煙を払う。
「俺がきみをどれだけ好きかと考えていた」
「そ、れは詳しくお伺いしたいですね
……
」
「目に見えるくらい好きだよ」
「
……
偶にははっきりと仰ってくださっても、いいと思いますけど」
はっきりでなければ分からないかなど、それこそはっきり分かっている。言葉にしなければ伝わらないことくらい、言葉にしなくても分かるというものだ。
ほんのりと切なさの混じる麗の声に、彼を腕に抱き寄せながら秋仁はそうだなあ、と呟く。
言葉を惜しんでいるのではないけれど、不安にさせてしまっているのならば自身はとんでもない悪人であると茶化さず真実として秋仁は思う。申し訳なさと不甲斐なさは噛み締めるべきだ。
「
……
煙草、残りはもう三本なんだが」
結局はぐらかすのかとじっとりした目に、ああ違うのだよ薄い背中を叩いて宥める。
「吸い終わってもまだ伝え終わらんかもしれんから、そのときはまた改めて言わせてくれよ」
惚れたとひと言では到底終わらぬことを語るから、どうか時間がかかっても最後まで聞いてくれよと、秋仁は抱き寄せた麗の苦労ばかりを背負ってきた細い肩に額を埋める。
この肩が更に凝るような想いがあるのだよ、と。
「何遍重ねたって一つも嘘じゃないから、信じてくれ」
神様に誓える。士業が専門で作った書類があれば、血判を押したって構わない。役所辺りに置いてるなら取りに行こう。
熱い肌から香るバニラを吸い込んで、秋仁はまずは最初にと言う。
「愛してるよ、麗」
どこをどうしてと理由をつけられるものもあるし、どれくらいなどとは限りをつけられないものもある。
ただ、どうしたって柏木麗を愛しているのだと秋仁は告げる。
──結局、煙草を点けるのは忘れた。
日々、神前で祈る神職の喉は早々枯れず、ちょっとやそっとで語り尽くせるほど想いも浅くない。
借りてきた猫のように大人しい麗をしっかりと腕に抱え直し、秋仁は滔々と続けるのだ。
あ。
秋仁は不意に「あ」と思った。
それは幸福にであり、痺れるほどの充足感にであり、視界が揺れるような喜びにであり。
「
……
愛してるんだ」
愛しながら尚実感した麗への愛おしさにであった。
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