真朱と清白さん

チェリー

 真朱は片手の指先を唇に当て、じっと桜の手元を見つめる。
「新しく考えたんすよ」
 二つこんもりと丸く盛られたチョコレートアイスの挟まれるように、先端に生クリームをあしらわれたバナナが突き刺さっている。屹立していると表現するべきだろうかと、ふむふむ頷きながら真朱は考えた。
「甘いものを好まれる方に喜ばれそうですね」
「でしょう?」
 自信と軽妙さのある笑みを浮かべる桜に「才能が光っていますねえ」と頷きながら、真朱は彼から皿を受け取る。
 飲食物の試作品は余程のものでなければ試食が付きものであり、真朱の手に渡ったものは口に入れても腹に入れても全く問題がない。
「いただきますね」
 天高く聳え立つバナナはうっかりすると倒れそうで、放っておいてもアイスクリームが溶けて崩れる……萎えることだろう。早々に食べるべきであり、その最良の楽しみ方は品位と距離がある。娯楽だもの、鯨尺を襟から挿されるような気持ちは野暮である。
「あ、片手で持つべきでした」
「それはそれで有りですよ」
 皿を両手にバナナを咥えるという、つまりは犬食いしようとした真朱は垂れてきた横髪を耳にかけることができず、首を傾けながらバナナの先端を食んだ。バナナが倒れないようにと思えば動作は慎重に、ゆっくりとしたものになり、ぬるりと生クリームを舐めながら先端をひと口食べた真朱はほっと息を吐く。
「どうです?」
「達成感がありますね。ふた口目からは手がないと無理です。見ていて如何でした?」
 問題、あるいは本題。
 飲食物であるが、このチョコアイスバナナは味や量を競うものではない。
 桜はううん、と考えて「やっぱり、アイスがチョコなのにバナナがなあ……」と悩まじげな顔になる。ふとすると盛大に吹き出しそうな、大変真剣な顔である。
「雁首もチョコアイスにしますか?」
「滑って落ちます」
「チョコバナナにするのは手間ですしね」
「横置きでもいいんですけど、迫力が足りないと思いません?」
 迫力、と繰り返し、真朱はおもむろにバナナを倒す。根本はチョコレートアイスに挟まれたまま、皿の上で先端を失くしたバナナが一本寝転がった。 
「少々お待ちください」と言い置いて、真朱は冷蔵庫に入っているタッパーの一つを取って戻ってきた。中身を一つ取り出して皿の上へと転がせば、途端に桜の大笑いが響き渡る。
「チェリー……! チェリーなんですね、こいつ……! あー……ずる剥け版も作りたい。手間でもいいんでチョコバナナにしようかな……
 清白が悩んでいる姿をのほほんと見守りながら、真朱はフォークを手に取っている。
 直上的に表現するとアイスクリームとバナナで睾丸と陰茎を模して、さくらんぼで童貞の暗喩とした逸品。
 既に大事なところを奪われている下ネタデザートに、真朱の容赦なきフォークが尽きてられた。