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さくらるな
2024-01-12 18:14:10
8204文字
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豪雨のち晴れ
支部のまとめに収録している、アオチリ小説になります。2人がお付き合いする切っ掛けとなった内容です。
※チリちゃんの元彼が出てきます。
※過去捏造してます。
チャンプルタウン。
この街はパルデアの大穴へ続く最後の門、ゼロゲートの近くにある。大穴には恐ろしいポケモンが数多く生息しており、いつゲートの外に出てくるか分からない。だが、街の住民は恐怖すること無く、平和な日常を過ごしている。
それもその筈、街の住民達は信頼しているのだ。
自分達の街のジムリーダーを。ゼロゲートの最後の砦として、全力で守り通す最強の
門番
ガードマン
を。
そんなチャンプルタウンの郊外に、そらをとぶタクシーが舞い降りる。
中から降りてきたのは、翡翠色の長い髪を後ろで結び、赤い瞳を持った女性だ。手には買い物袋を持っている。
「おおきになー!」
女性は手早く支払いを済ませ、タクシーの運転手とイキリンコにお礼を伝え、そのまま街とは反対方向に向かい歩き出す。
「さぁて、帰ってご飯作らんとなぁ。あん人、今日も遅いんやろか
…
。また無理しとらんと良いけど
…
」
そう呟きながら歩く女性、チリは多忙な夫のことを心配していた。上司(主にトップ)から次々に仕事を押し付けられ、物凄く面倒くさそうな、嫌そうな顔をする夫。それでも手を抜くこと無く全ての仕事を済ませていく彼は、まさに部署のエースとして相応しいだろう。・・・まぁ、本人は普通(シンプル)を好む男のため、エースなどとは呼ばれたくないだろうが...(本人曰く、営業成績はそんなに良くないとの訂正があった)
「んー...、せや!今日は肉じゃがとお味噌汁でも作ろか。あん人も好きやし、いっぱい作っとけば、お弁当にも入れられるし、一石二鳥やん!
あとは、おひたしと...」
と、今日の献立が決まり、ご機嫌で自宅へ向かう。
チリはここパルデア地方の四天王だ。使うポケモンは地面タイプ。どの手持ちも良く育てられているが、その中でも群を抜くのが、彼女の切り札であり相棒のドオーだ。地面・毒タイプのドオーは耐久性が高く、並の攻撃では歯が立たない。上手く試合を運べたとしても、いつの間にか状態異常にされ、そのまま倒されるという流れまで出来ているくらいだ。
ちなみに、先程から伝えているが、彼女は既婚者である。その事を知る人間は片手で数える程度だ。トップチャンピオンであるオモダカ、同じ四天王のハッサク、ポピー、もう一人の四天王のみが知っている5人だけの秘密。
まぁ、秘密にしている理由は彼女自身にあるのだが...。
隠している理由、其れは、チリがパルデアの人気者であるが故だ。バトルが強い。それだけなら普通の四天王と変わりないだろう。だが彼女は絶世のイケメンなのだ。"抱かれたいトレーナーNO.1"、"顔面600族"などというよく分からない称号を持っている彼女は、まぁ良くモテる。老若男女問わず告白され、苦笑いをしながら断る毎日。流石の彼女も疲れたのか、一度その内の一人と付き合った事がある。もちろん結婚前だ。
寧ろ、それが切っ掛けで夫と結婚出来たのだが。
その男性はハッコウシティに本店を置いている会社の社員で、恋愛に慣れてない様子だった事もあり、大丈夫だろうと踏んでいた。最初の方は普通に付き合っていたが、関係が悪化したのはそれから10日後の事だった。
いつもの様にリーグ本部での仕事を済ませ、用事に向かおうと外に出たチリを待っていたのは、恋人である男だ。今日も遅くなるから会えないとメールで伝えていた筈だが、何故ここに居るのか。と尋ねてみた。すると
…
「この前もその前も仕事が忙しいって言ってたよな?リーグの仕事ってそんな忙しいわけ?」
そうイライラした様な口調で話し掛けられ溜息を吐く。
「あんなぁ
…
。今はアカデミーの課外授業真っ只中でチャレンジャーが多いから会えへんって言うたやん。自分も"分かった"って頷いたの忘れたん?」
「それでも会えなさすぎだろ。
…
なに、浮気してんのか」
「
…
はぁ?何でそうなるんや。浮気なんぞする訳ないやろ。しかも出待ちなんかして
…
頭おかしいんとちゃうか?」
向こうから言われた言葉にカチンときて言い返す。浮気を疑うなんて失礼にも程がある。っつーか、面倒くさッ!毎日の告白が落ちつくかと思って試しに付き合ってみたけど、これはあんまりやろ!こっちにもプライベートとかあるんやが??
「ふざけんな!お前の為に、俺がどんだけ金使ってきたと思ってんだ!」
「いやいや、勝手に服やらアクセサリーやら買って渡してきたの自分やんか。チリちゃん欲しいとか一言も言っとらんし、寧ろ迷惑やから辞めてって言うたやん。しかも自分、ウチがトイレに行っとる間に財布からお金抜いとるやろ。知らんと思ったか?」
そう睨み付けながら言えば押し黙る。そう、この男は浪費癖が凄いのだ。平社員の癖に、ウン十万するアクセサリーを大量に買ってプレゼントしてきたり、明らかに平社員の給料では泊まれない様な超高級ホテルのロイヤルスイートルームとか普通に取ったりする。まぁ、そういうアレな行為をシた事はないが、そもそもシたくない。あまりにしつこい時は、バクーダを間において寝てたから手を出す隙もない筈。
それに財布からお金が抜かれているのも事実だ。最初の方は、なにかで使ったかな?と気付かなかったが、決まって彼と食事に行った日に無くなっている。しかも毎回。流石におかしいと思い、カバンの中にカメラ付きのボールペンを忍ばせておき席を立った。そしてトイレの個室に入り、スマホロトムを開いて動画を確認していれば、案の定彼が鞄を漁り財布からお金を抜き取っていたのだ。
勿論、証拠写真は撮ったし動画も残っている。窃盗罪で警察に突き出しても良かったのだが、正直に言ってくれれば許そうと思っていた。流石に今まで通りの関係を続けるのは不可能な為、その場で別れを告げさせて貰うが。
「言い返さんって事は事実なんやな?まぁ、今更隠した所で、ちゃーんと証拠は押さえてるさかい、逃げられんやろうけど」
と言いながら正面にいる彼・・・いや男を冷ややかな目で見据える。
「悪いけど、チリちゃんなぁ犯罪者と付き合う気ないんよ。自分が素直に謝ってくれれば許そう思っとったけど全然謝らんし、なんなら逆ギレしてくるし。それに、昼ご飯食べる暇も無いくらい忙しいのに、メールの返事毎日考えて返すこっちの身にもなってみ?正直もう無理や。自分とはこれ以上付き合えへん。別れよか。その方チリちゃんも自分もええと思うねん。
今までくれた贈り物は、後日箱に詰めて会社に送りますので届いたら受け取って下さいね。それでは失礼します」
そう一方的に告げ、スマホの操作を始める。空飛ぶタクシーを手配しスマホを仕舞えば、元恋人は下を向きプルプルと震えていた。
「すみませんが、これ以上は営業妨害なので帰って貰えますか?」
と、懇切丁寧に伝えれば男は憎悪に満ちた顔でこちらを睨み付けてきた。
「はぁ。逆ギレしないでもらえますか。そもそも、こうなったのは貴方のせいですよね?」
「・・・さい・・・」
「は?」
「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!!さっきから聞いてりゃ好き勝手言いやがって!別れる?ハッ、別にいいさ別れても!お前みたいな男女と付き合ってた俺が馬鹿だったわ!大して可愛くもねぇしヤらせてくれねぇし、お前女以下だっての!こんなんなら、あの時無理やり犯して既成事実作っときゃ良かった!」
その後も罵詈雑言の嵐をぶつけて来たが、何処吹く風で聞いていた。すると、本部の前での騒ぎを聞き付けてきたのだろう、リーグ職員が走ってきた。
抵抗する男は職員に引き摺られ本部の中に入っていった。
「自業自得や、屑が」
そう吐き捨て踵を返し本部へ戻る。連れて行かれた以上、あの男の事をトップに伝えなければならないからだ。タクシーをキャンセルし、ため息を吐く。
「あーあ、折角食事に誘われたに行けんやん・・・」
と呟いてスマホのメッセージ画面を起動する。
『お疲れさんです。
アオキさんすいません。ちょい急用が入って、リーグに戻らないけなくなって・・・。多分終わる頃には日付跨ぎそうなんで、今回の食事は見送りって事でお願いします。ほんますんません!今度はこっちから埋め合わせします!』
そう打ち込み送信ボタンを押す。
「はぁぁぁぁ・・・、アオキさんからご飯誘われるの2ヶ月ぶりやったのになぁ・・・行きたかった・・・」
再度、深くため息を吐きながら、誘ってくれたアオキに対して心の中で謝る。
アオキというのは、チリと同じく四天王をしている男性だ。また、チャンプルタウンのジムリーダー、リーグ営業部と、二足どころか三足草鞋を履いており、非常に忙しい人物なのだ。また、ゼロゲートの門番も同時に務めている為、アカデミーの課外授業の時期は大忙しなのである。
…
主に無断でエリアゼロに入ろうとする学生を止める事なのだが。
無表情で猫背で声が小さくて、一見草臥れたおじさんにしか見えないが、当時のチリは彼の事が気になっていた。
バトル運びが上手くて、意外にも男らしくて、バトルに集中してる時のムクホークのような猛禽類を彷彿とさせる瞳がカッコ良くて、ご飯を食べてる時に見せる笑顔が可愛くて、優しくて、気が利いて、誠実で紳士で・・・。そんな人を好きにならない方が可笑しいというものだ。彼と結婚してからは、それに過保護が足されたのだが、それはそれで幸せなので、素直に受けいれている。
当時、片思い中だった彼に食事に誘われたのはチリにとって凄く嬉しかった。彼氏がいるのに受けていいのかと言われたら、うーん
…
となる。
だって、アオキはそういう意味で誘ってくれた訳ではないのは理解してるし、今回の食事も仕事の話込みで行くのだから、浮気もクソもあるまい。故に受け入れたのだ。・・・まぁ、そのくそ彼氏のせいで無駄になったのだけど。
ブブッ・・・。
不意にポケットに入れたスマホが振動し、相手を確認する。差出人はアオキさん。次いで、トップからも続けて届く。
アオキさんからは、
『お疲れ様です。食事の件はわかりました。
なにか困り事なら自分も手伝いましょうか?』
トップからは、
『お疲れ様です、チリ。いま外に居ますね?もし近くにいるなら私の執務室に来て下さい。先程連れてこられた男について、二、三お聞きしたいことがあります』
というものだった。アオキは兎も角、オモダカからのメッセージは、なんとなく怒りが滲み出ているような気がしてチリは目を閉じる。
・・・アカン、めちゃくちゃ怒っとるやん・・・。
きっと日付を跨ぐだけでは終わらなそうだ・・・と肩を落としながら執務室へ向かった。
ー
「今回の件はこちらで内々に処理しておきます。・・・ただし、今後同じ事がないようお願いしますね(ニコッ)」
「チリ気を付けるのですよ」
「・・・はい、失礼します・・・」
椅子に腰かけているオモダカとハッサクに再度頭を下げ、部屋から出た時には、既に日付が変わっていた。
部屋に入ったチリを待っていたのは、椅子に腰かけニコニコと黒い笑顔を貼り付けているオモダカと、ソファに腰掛け腕を組んで目を閉じていたハッサクだった。まさかハッサクまでいるとは思っておらず、ゲッと顔を青くする。オモダカからソファに座るよう促され、大人しく座った後から、重苦しい部屋の空気に 思ってた以上にやらかした・・・と冷汗を流す。
そこからはもう地獄だった。オモダカ、ハッサクの2人からこれでもかと怒られ、部屋を出た時にはクタクタだった。泣きたいのを堪えたチリちゃんを褒めて欲しい。
「
…
はぁ、やらかしたなぁ
…
。
つか、あの男がいけんねん!出待ちしとるし執着するし!あーもう!!最悪な日や!あんな男と付き合わんければ良かった!!」
と、ぼやきながらリーグの外へ向かう。
「確かにあんな最低な男と見抜けんかったチリちゃんも悪いし、リーグ職員として、四天王としての自覚が薄かったのも認める。ごっつ心配かけとるのも分かる。
…
けど、あそこまで怒らんでも良いやん
…
」
チリちゃんかて、もう大人やで。恋愛くらい好きにさせてや
…
。
と呟きながら下を向く。こんな落ち込んだのは初めてだった。
リーグを出れば外は暗く、雨も降っていた。置き傘を持っていたが、なんとなく傘を差したくなくてそのまま濡れて帰る事にした。冬の冷たい雨が髪を、服を濡らしていく。まるで今のチリの心情を現しているかのように。
…
こんな日は、彼に会いたい。
会って話を聞いて欲しい、それだけで構わないから。欲を言えば抱き締めて欲しいが、彼とは恋人同士ではない。彼は真面目だから、恋人でもない女性を抱き締めるなんて絶対にしない。コンプライアンス違反だの世間体を気にする人だから
…
。そんな硬派で誠実な所も好きな部分なのだが。
それに彼は普通を愛する人だから、自分の様などこにいても騒がれてしまう人は苦手な筈だ。現に、以前ハッサクさんと話している所を聞いてしまったの。
『
…
好きになるとしたら、ですか?そうですね
…
普通の方でしょうか。自分の仕事を理解し支えてくれる方が好ましいです。あと食べるのが好きな方ですね』
と彼は言っていた。
美味しい物を食べる事は好きだし、彼の仕事も理解している。でも、自分に《普通》という言葉は当てはまらない。
…
彼の恋人、奥さんになれる女性が羨ましいなと思いつつ、彼の隣を歩くのが自分だったらどんなに幸せかを想像しては打ちひしがれる。
会いたい。声を聞きたい。だが時間帯は深夜で、彼だって疲れてるのだ。こんな時間に起こす訳にはいかないだろうと思い、再度溜め息を吐く。
「チリさん!」
「
…
ア、オキさん?」
不意に名前を呼ばれ顔を上げる。そこに居たのは、いま一番会いたかった人。
「え、なん
…
なんでおるんです?忘れもんですか?」
「そんな事言ってる場合か!何故傘を差さないんですか!」
彼の傘が自分の上に差される。雨が止んだ。
怒られてもうた。こんな大きな声で喋るアオキさん初めてや。しかも一瞬やけど、言葉づかい砕けとるし
…
。
「メッセージの返事も無いし、何かあったのかと思って急いで行こうとしたんですが、生憎この豪雨でタクシーもそらをとぶも使えず、走って来たので少し遅くなりましたが
…
大丈夫ですか?ああ、こんなに濡れて
…
寒かったでしょう?」
と言いながら自分の上着を肩にかけてくれた。・・・暖かい・・・。それに、自分の為にわざわざチャンプルから走って来てくれたなんて聞いたら、勘違いしてしまうじゃないか。
「
……
すんません
…
ちょっとボーッとしとったみたいですわ!アカンなぁ
…
ほんと」
「
…
チリさん?」
「
…
ほんま
…
なんなんやろうなぁ
…
なんでこう上手くいかんのやろか
…
」
そう言いながら下を向けば視界がぼやけ、次いでポタポタと涙が溢れてきた。泣きたくないのに、とめどなく流れる涙を止める事が出来ない。もしかしたら、彼の声を聞き、姿を見た瞬間から、もう泣いていたのかもしれない。
「チリちゃんなぁ
…
、さっきまでトップと大将に怒られとってな?会えんこと伝えとったに、元彼に出待ちされてたんです。そんで口論になってリーグ職員に連れてかれて
…
っ」
聞かれてもいないのに、ポツポツと話し始める。泣きながら支離滅裂な事を言うなんて、彼を困らせるだけなのに。
「
…
チリちゃん可愛ないって。こんな男女と付き合うんじゃなかったって、言われてしもた」
「
…
」
「そらそうですよね。こんな中性的な顔やし、身長も高いし、女の子にしかモテんし
……
可愛ないですし
…
」
そこまで言えば、チリは何かに抱き締められた。暖かくて逞しくて、そして少しの汗の匂いと優しくて大好きな彼の匂いが鼻腔を擽る。目の前に広がるのは水色の雲柄のネクタイ。これはもしや・・・
「
…
アオキ、さん
…
?」
「
…
」
なんとアオキさんに抱き締められていたのだ。しかも差していたはずの傘は地面に落ちており、2人してずぶ濡れになっていく。
「あの
…
傘、差さんと濡れますよ?」
「
…
チリさんは」
「?」
「チリさんは素敵で可愛らしい女性です。とても綺麗で誰にでも優しくて明るくて気さくで負けず嫌いで。偶に無茶したりする時もありますが、それら全てが愛おしいと俺は感じます。貴女が笑顔なら自分も嬉しいですし、貴女が悲しんでるのなら傍にいて抱き締めて悲しみを分かち合いたい
……
と思ってるのですが
…
その、セクハラになったらすみません
…
」
アオキから言われた告白ともとれる言葉に、チリは一気に顔が赤くなる。少し身体を離し彼を見上げれば、珍しく耳を赤く染めた彼の姿が伺えた。
「
…
アオキさん、チリちゃんの事、好きなんです?」
「
…
あなたが思ってる以上には
…
はい」
そう言われ、空っぽだった心が満たされていく様な気がした。
「でも
…
チリちゃん、中性的な顔やから途中で飽きるかもしれんですよ?」
「まさか。
…
貴女に出会ったその日からずっと貴女しか見えてませんよ」
「っ、他の子より背ぇ高いし可愛ないし
…
」
「自分から見たら、身長なんて全然気にならないし、なにより可愛らしい女性にしか見えませんが?」
「
…
アオキさんの好きな《普通》やないから
…
」
「チリさん」
「っ、」
「それ以上は言わなくて大丈夫です。確かに自分の好みの女性は普通の方です。チリさんの様に誰からも人気があり、美しい女性は好みではありません」
「
…
なら
…
」
「
…
そう思ってました。
ですが、一緒に食事に行った時に貴女の素の笑顔を見て、綺麗だと思いました。バトル中に見せる真剣な姿も、不機嫌な時に見せる行動も、事務仕事に集中してる姿も、あなたの寝顔も。
…
いまは、チリさんの良い所も悪い所も全て引っ括めて愛おしいと思ってます」
彼からの真っ直ぐな返答に、また涙が溢れ出す。
そっと涙を拭ってくれる彼を見上げながら次の言葉を待つ。そして、その言葉に対しての返事は決まっている。
「
…
チリさん、貴女が好きです。ひと回り歳は離れてますが
…
、よろしければ俺と付き合ってくれませんか」
「っ、ぅ
……
、喜んで!!」
告白をしてくれた彼に満面の笑みで返事をすれば、そのまま胸元に顔を埋める。スリスリと擦り寄れば、ぎゅっと抱き締め返され、背中をぽんぽんと叩かれた。別れたその日に他の人と付き合うだなんて、どうかしてると思う。けれど、それがずっと好きだった人だとしたら話は別だ。
「一生傍におって
…
ずっと傍に」
愛おしい人を見上げながらそう伝える。
「可能な限りずっと傍にいますよ。これから先もずっとチリさんの傍にいますから。
…
だから、もう泣かないで下さい」
そう彼が続け、ゆっくりと顔が近付いてくる。そっと瞼を閉じれば唇に暖かい感触。直ぐに離れて行ったが首に抱き着き、もっとと強請る。それに応えるかのように、顔中に優しいキスの雨を降らせてくる愛おしい人の後ろ髪をくしゃりと握り、2人だけの甘やかな時間へと身を委ねていく。
いつの間にか雨は止んでいた。
ー
「
…
なーんて事もあったなぁ」
と、昔の事を思い出しながら呟きソファでゆっくりしていれば、玄関の開く音が聞こえ口元を弛める。
どうやら愛しい夫が帰ってきたみたいだ。
パタパタとスリッパを鳴らしながら玄関へ向かい、そのままギュッと抱き着く。突然抱き着いたにも関わらず、バランスを崩すこと無く抱き留めてくれたアオキさん。
彼の匂いをいっぱい吸い込んでは顔を上げ、
「おかえりなさい、アオキさん!」
と伝える。そうすれば、彼は頬を優しく撫でながら微笑み、
「ただいま、チリさん」
と返してくれた。そのまま、お互いに引き寄せられるかの様に口付けを交わし、暫く玄関で抱き合っていた。2人の左の薬指にはまっている指輪がキラリと光る。
その輝きは、どのテラスタルよりも眩しかった。
ーENDー
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