さん
2024-06-16 00:07:14
2566文字
Public 完成
 

無題

ファンタジーパロデぐ♀|何でも許せる人向け|R18要素への言及含む

渋に上げたファンタジーパロ( https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=21172719 )時空の短い話
最終頁のちょっと前くらいの期間のやつ
🔞描写は皆無だけどそれ前提で話したりしてる

 む、と唇を尖らせながら、リツカが眉根を寄せている。デイビットは木製スプーンで掬ったホワイトシチューの芋に息を吹きかけた。
 幾分冷めたところでリツカの口元に近づけ、口を開けるのをしばし待つ。開かれた唇がスプーンをくわえる。ゆっくりと引き抜けばリツカは不服そうな顔のまま、もぐもぐと口を動かした。デイビットはシチューの器に再びスプーンを沈め、念のため尋ねる。
「熱くなかったか」
……大丈夫、だけど……
「人参は平気か」
「食べれる、けど……
「わかった」
 鮮やかな橙色を半分に割り、掬い上げる。何度か息を吹きかけ、リツカの口元に運んだ。む、とまた眉根を寄せながら、デイビットが差し出したスプーンを口に含む。引き抜いたスプーンに何も残っていないことを確認し、再び器に沈めた。
…………あのさ、デイビット」
 こくりと人参を飲み下したリツカが、気まずそうにデイビットを見つめている。一方デイビットはまたひと匙シチューを掬う。ふ、と息を吹きかけて冷ます。
……どうした?」
「こんなとこで恥ずかしいよ! スプーン貸して、自分で食べるから……!」
「堪えてくれ。そうさせてやりたいが……閉店まで十五分弱だ」
「え……もうそんな時間……!?」
「口を開けてくれ」
 器の中身は半分ほどに減っている。急かすことにはなりそうだが、どうにか完食させてやれそうだった。あむ、とリツカがヤケになったようにスプーンをくわえる。こくりと飲み下す。デイビットはまたひと匙シチューを掬う。
 通常の人生三回分以上の年月で染みついた習慣を上書きするのに一朝一夕で済むはずもない。そのうえ道具を扱う機会そのものが消えていた影響が大きく、何をするにも幼子のように覚束ない。リツカが本来の肉体を取り戻して十日ほど。自分で食べさせた方が彼女のためになることは承知しているが、夕食をと滑り込んだ店は生憎閉店まで間がなかった。故にこうしてリツカの口に食事を運んでいる。今度は付け合わせのパンをちぎり、軽く浸してからリツカの口元に運んだ。シチューで柔らかくなった部分だけが齧り取られる。デイビットは残りをまたシチューに浸し、リツカの口元へと突きつけた。
 リツカには悪いが、こうして手ずから食事を与えるのがデイビットの密かな楽しみになっていた。無論、野営時など時間に追われずのんびりと食事を摂るリツカを眺めるのも楽しみのひとつではある。だが己がスプーンを差し出すのに合わせ、雛鳥のように口を開くリツカを眺められる時期はいずれ終わる。一度でもその機会を逃したくないと考えるのはごく自然な欲望だ。少なくとも、デイビットにとっては。
 慌ただしく食事を終え店を出た。リツカは余程恥ずかしかったのか唇を尖らせたままデイビットの腕に掴まっている。早速出たばかりの店の看板へと直進しかけたリツカを引き寄せつつ、今夜の宿へ向かう。
「なんだかお腹だけ膨れたみたいな感じ……
「随分と急がせたからな……悪いことをした」
 リツカはふるふると首を横に振る。街道沿いの宿場町。当然、軒を連ねている酒場であれば大概は夜更けまで開いている。時を気にせず食事を摂れはしただろうが、二重の意味で避けたかった。ひとつには、盛況であろう店内はリツカに不都合が多すぎる。ふたつには、己の心情として酔漢の目にリツカを晒したくない。アルコールで判断力の低下した輩は口さがない。揶揄い半分に何を言われるやら、とてもわかったものではない。
「食後のデザートはどうする?」
 この十日ですっかり習慣化したもの。ありふれた菓子。リツカの一番の好物。
「やめておくか?」
「っ……た、たべる」
 頬を染めながら俯いたリツカに、デイビットは機嫌良く口元を綻ばせた。
 屋根のある場所で眠るのは三日ぶりだ。旅程は無きに等しいが、最長でもひと月はかかるまい。一日二日のロスは許容範囲だ。
「出立は明後日にしよう。明日は休養と物資の補給に充てる」
「わかった。ぼくは留守番だね」
「いや、来てくれ。君の服を調達する」
「いま着てるので充分だよ!? 荷物なんて少ない方がいいに決まってる」
 リツカは白のシャツに黒のスラックスというシンプルな出で立ちで、青色のリボンで髪をひとつに束ねている。あのロイヤルブルーのチュニックを脱いだだけの装いだった。よく似合ってはいるが、胸を抑えつけることをやめたリツカには見るからに窮屈そうだった。ボタンが弾ける前にリツカが気後れしない範囲で新しいものを買い与えなければならない。それに。
「何かしら君を連れ出す理由が要る」
……買い物の練習? ぼくにはまだ早いんじゃ……
「抱き潰さないための意識付けだ」
「う……!?」
 驚いた拍子にリツカが足をもつれさせた。咄嗟に掴まられている腕を引き寄せ、抱き留める。人目がないのをいいことに、そのまま軽く唇を合わせた。触れるだけに留めて離れる。
……でっ、デイビット……!」
「このとおり、自制が困難になっている」
「説得力すごいね……
 どうやら己の前科まで思い出したらしいリツカがじとりと見上げてくる。デイビットはそのままリツカを抱き上げると、スタスタと歩き出した。
「っ、自分で歩くよ……!」
「察してくれ」
 それだけでリツカは静かになる。危険だと促せば、思い出したようにデイビットの首元へ腕を回した。やはりまだ周囲に触れることが可能な状態には適応しきれていないが、少しずつ良い方向に動き出している。触覚への欲求そのものは強いはずで、それを伸ばしてやれば比較的早く意識づけられそうだ。
「ゆっくりお風呂入りたいな」
「終わったらな」
「さ、先にがいい」
「待ちたくない」
…………綺麗になってからじゃなきゃやだ……! 恥ずかしいよ!」
「ではバスルームで」
「やだよ!? 真顔でそういうこと言うのやめてくれるかな!?」
「どういう顔なら許すんだ」
…………言っておいてなんだけど考えたことなかった」
 内容はともかく、応酬の温度はあの日々と変わらない。己が加減を誤れば失われていたもの。説き伏せなければ逃してしまっていたもの。それが確かに存在している現在を噛み締めるように、デイビットはリツカを抱く腕に力を込めた。