さん
2024-01-13 23:18:24
4361文字
Public 没供養
 

続かないデぐ♀

デ生存if謎時空|もう何でも許せる人向け|急に終わる
レムレムシフトで体から意識だけ引きはがしたら漂白キャンセルできるのでは?という妄想が爆発した産物。進めてくうちに(これ帰還したら元に戻るんだよな……)とじわじわ耐えられなくなって書けなくなったもの。半年くらい前に書いてたやつ。
レムレムで生身の人間が引っ張られるって前提からしてだいぶ強引なので、細かいこと気にならない人向け。
せっかくたくさん覚えてられるのに眠るのがもったいなくて三徹するデとか、それ原因でテンションおかしくなったり限界超えてぶっ倒れたりなデとかも想定してたりはした。

 気がつくと草むらに転がっていた。
 デイビットはむくりと起き上がり、周囲を確認する。抜けるような青空、一見のどかな草原、隣に転がる藤丸立香。
 想定外の風景だ。どうにも判断がつきかねる。
 カルデアとの通信を試みるが、ノイズが走るばかりで応答はない。敵性生物の気配がないことを確認してから、デイビットは立香の肩を揺すった。
「うん……? あれ、デイビット……?」
「ああ、おはよう藤丸」
「おはようございます?」
 立香は起き上がると、さっきデイビットがしたのと同様に周囲を見回した。何か考え込むような仕草をしながら目を瞑ること数分。にわかに目を開くと、気の毒そうにデイビットを見つめてきた。
「デイビット……
「うん?」
「たぶんだけど、レムレムシフトにデイビットを巻き込んじゃったみたい……ごめん」
「レムレム…………これがそうなのか。不可抗力だ。藤丸が謝ることじゃない」
 時折、立香は意識だけ特異点に飛ばされることがある。居合わせたサーヴァントが引っ張られることは何度かあったと記憶しているが、生身の人間が引きずられる先例は記憶になかった。原因不明とはいえ共に来てしまったものは仕方がない。立香がひとりきりで特異点に放り出される事態にならなかったことは素直に喜ばしいことで、同行者が自分であることも幸運と捉えた。立香を信じて待つ以外にできることがなかった過去の事例が脳裏をよぎる。少なくとも、今回は共に対処に当たることが可能だ。
 カルデアに通信を試みたものの繋がらなかったことを立香にも共有しておく。やっぱり、と彼女は苦笑した。
「来てしまったからにはすべきことをしよう。特異点を修復すれば帰還できる、という認識でいいな?」
「うん。みんなにも心配かけちゃうし、ぱぱっと解決しちゃおう!」
 立香はニッと笑って、デイビットに右手を差し出した。
「よろしくね、デイビット!」
「ああ、任された。まずは集落を探そう」
 デイビットは立香の手を取って立ち上がると、そのまま歩き出した。ふぁ!? と立香が戸惑う声がしたが、敢えて無視する。彼女は握手のつもりだったとわかっているが、構うものか。ひとつくらい役得があってもいいだろう。
 柄にもなく舞い上がっている己を自覚しつつ歩を進める。無論情報収集は必須だが、まず拠点を確保したいところだ。備えが全くない状態での野営は色々と厳しい。
「藤丸、意識を失う前に何かしら兆候はあったのか」
「うーん……今回は特にないかなぁ。デイビットは?」
「何も」
 素材の所持数チェックも兼ねて立香と倉庫の整理をしていたのは覚えているが、特に異常はなかったように思う。隣でリストにチェックを入れていた立香が突如体勢を崩し、咄嗟に抱き留めた辺りでデイビットの記憶は途絶えている。
「これが度々起きるのか君は……難儀だな」
「あはは……もう飛ばされてもいつものやつかーって感じになってきちゃった。慣れちゃいけないことなんだろうけど……
 まぁ原因さえわかれば何とかなるから! と立香は前向きだ。デイビットは立香に歩調を合わせながら空を仰ぐ。日の高さから行くと午前十時前後か。日没までかなりの余裕があるのはありがたい。
 退屈しのぎに他愛のない話をしながら、立香のペースに合わせながら進む。普段はあまり話す機会のない、なんでもない話をするのはなかなかに新鮮だ。自分が記憶していないだけの可能性も高いが。……同じ理由でこちらから提供できる話題がさほどないことは残念に思う。
 どうにか街道らしきものを見つけ、休憩を挟みつつ歩く。太陽は少しずつ高度を下げ始めていた。デイビットは敵性生物に全く遭遇しないことに疑問を覚えながらも、立香の話に相槌を打っていた。簡易召喚に問題が生じていないかを確かめる機会が欲しくはあったが、穏やかな時間の代償としては些末なことだ。最悪、自分が対処すればいい。通信が繋がらない現状、観測者の目はないのだから。
「あ、街が見えてきたね」
 長かったあ、と立香がほっとしたように呟いた。一方デイビットは路銀をどうしたものかと思案する。立香ともども身ひとつで飛ばされてしまったため無一文。今まではどうしてきたのだろう。
 ……などと頭を悩ませていたが、街に入るや否やトラブル発生。土地に呼ばれたサーヴァント達も姿を現して事態は急速に転がってゆき、夕刻には宿で顔を突き合わせ明日の動きを相談することになっていた。ここに着くまでの緩やかな時間は夢か何かかと思うほどの目まぐるしさだ。
……藤丸、いつもこのような急展開なのか?」
「ここまでのは珍しいけど、割と……
 デイビットは頭痛を堪えるように眉間をつまんだ。これを五分間に収めるのか……困難だがやるしかない。
 立香にはバレないよう、そっとため息をつく。これから決まる行動指針を含め明日の活動に支障がないよう記憶を選別すると、立香とのやりとりはほとんど残せない。毎夜味わっているだろう落胆を繰り返すだけとわかってはいても、惜しいと感じることに変わりはない。それでも今日はイレギュラーなレイシフトに巻き込まれた事実を記憶するために、ほんの少しだが立香の姿を残しておける。それだけでも僥倖だと思わなければ。
 デイビットが好意を寄せていることを、立香は知らない。伝えるつもりもない。そのくせあの手この手で彼女の隣を確保しようと行動してしまっている自覚があった。起床して前日の記憶に立香の姿がなかった日は特にひどい。記憶に残せなくとも毎日顔を合わせていると理解した上で制御できていないのだ。どうしようもないな、とデイビットは自嘲した。
「あのねデイビット。とばっちりで来ちゃったデイビットには悪いんだけど……一緒に来てもらえてすっごい安心してるんだ、わたし」
 デイビットの渋面をどう受け取ったのか、立香は神妙な顔で見上げてきた。
「デイビットが一緒だったからすぐ切り替えられたけど……わたしひとりだったらしばらく動けなかったと思うんだよね。手がかりゼロだったし……今日中に街に来れたかすら怪しいし、着いてすぐのアレだってもっとこんがらがってたかもだし」
「そんなことは」
「ひとりぼっちじゃなくて……デイビットがいてくれてすごく心強いし、なにより嬉しいと思ってる。あ、巻き込んじゃって悪いなってちゃんと思ってるよ、ほんとに!」
 デイビットの胸中を知るべくもない立香は、少し照れたように頬をかきながら笑った。彼女が何の気無しに紡ぐストレートな言葉は、こちらに向ける信頼は、デイビットにとって好ましいものだ。
「ここにいることに不満は全くない。心配は無用だ。……存分に頼ってもらいたい」
 このやりとりも数時間後には漂白される。今のうちに伝えなければなかったことになる感情を言葉にしておく。慕う気持ちもほんの僅かばかり、彼女に伝わらない程度に乗せる。好意を表明するのは単なる自己満足だ。故に、伝わらないくらいが丁度いい。
 立香はいつものようにニッと笑って、めちゃくちゃ頼りにしてるからね! とストレートな言葉を放つ。デイビットも立香に笑みを返した。
 これも、消える。惜しいと感じた事実ごと、このまま今日に置いていく。
 デイビットにとって意味があろうと、立香にすればほんの些細な会話だろう。何であれ彼女の記憶に残りさえすれば、それでいい。


 小鳥の囀りで目を覚ました。カルデアの環境下では発生しない事象だと思いながら、デイビットはむくりと起き上がる。寝心地の違うベッド、部屋の匂い。わしわしといつもどおりに手櫛で髪をセットすると、昨日の自分が圧縮した五分間が不自然に欠けていないかを確認するため瞼を下ろし。
…………は?」
 デイビットはすぐに目を見開き、ぴたりと動きを止めた。昨日が異様に長い。一昨日の記憶が、遠い。
 どういう、ことだ。
 隣のベッドを見る。すうすうと立香が眠っている。
『いやー残り一部屋しかないって言われた時はどうしようかと思ったけど、ベッドがふたつあって助かったよね! デイビットどっち側がいい?』
『特に希望はない』
『じゃあわたしこっち側にする! 明日から素材集めかぁ……最優先は木材だよね。どこでなにが集められるのか調べに行かなきゃ』
『具体的な段取りは明日にしないか。藤丸も歩き詰めで疲れただろう?』
『も、ってことはやっぱりデイビットも疲れてるんだ? かなり歩いたもんね……明日筋肉痛になってそう』
『準備はいいか、消すぞ。明日も早い』
『いいよ! でも寝られるかな……ほら、デイビットと安全な場所で眠るのって初めてじゃない?』
『そうだな』
『なんか変にワクワクしちゃってて……旅行の前の日みたいな』
……なら、寝付くまで何か話すか』
『いいの?』
『その程度、構わない』
『やった! えへへ……ありがと、デイビット』
 結局、十分もしないで立香は眠ってしまったのだが。よほど疲れていたのか、と苦笑しながら目を閉じたのを覚えている。
 覚えて、いる。
 ううん、と呻きながら立香が身じろぎする。差し込む朝日から逃げるようにうつ伏せになり、枕に顔を埋める。デイビットはそれを、呆然と見つめている。
 諦めた記憶が、残っている。
 デイビットは宇宙との交信を試みる。百億光年の彼方に意識を接続しようとする。
 宇宙は応えない。繋がらない。
 ああ、と声が漏れる。連続している。倉庫整理の些末な会話が、手を繋いで歩いた数時間が、打ち合わせ前の十数分が、取り上げられず残されている。手放したくないと感じた笑顔が、言葉が、確かに思い起こせる。
 立香が枕から顔を上げる。ぼんやりと辺りを見回し、デイビットに視線を止めるとぴたりと動きが止まる。さっと頬を赤くして起き上がると、照れ隠しのような笑みを浮かべて口を開いた。
「お、おはよう、デイビット」
――っ」
 デイビットはベッドから降りると、無言のまま立香を抱きしめた。
「で、デイビット……!?」
 立香は一瞬振り解こうともがいたが、すぐに動きを止めた。そろそろとデイビットの背中に腕が回される。
「どうしたの、デイビット……? いやな夢でも見たの?」
 ぽん、ぽん、と落ち着かせるように、立香の手が背中を叩く。デイビットは立香の肩に顔を埋めながら、ゆるゆると首を振った。
……いや、逆なんだ」
 おそらく、彼女と共に意識だけでここに来てしまった影響だろう。宇宙と繋がっている肉体たんまつと明確に切り離されたことで起きたイレギュラー。
「今、ひどく幸福な夢を見ている」
 このレイシフトを終えれば覚める、長い、長い夢だ。