駆動マキナmk-2
2024-10-26 12:17:59
4304文字
Public hrak
 

最果ての空席/#6 其処に座するは人か鍋か

hrak夢/💥/名前変換なし

 身構えている時には死神は来ないと言うがそれは多分死神に限った話ではないと思う。例を挙げるなら敵だったり地震だったり。静電気やゲリラ豪雨。肘を手すりにうっかりぶつける痛いやつ。そして───呼び出しだ。

 「例の件」があった次の日。場所は共同スペース。時刻は午後4時半を回った頃だった。

「おい、夕飯になる前に俺の部屋来いや。話がある。逃げたら殺すスルーしても殺す忘れたら千兆回ブッ殺す!!」
「? ? ? ? ? ?」

いまの わたしは うちゅうねこ。
うちゅう を せおう うちゅうねこ。
びっぐばん から はじまって。
さんぐれいざー くいんてせんす。
すーぱーのう"ぁ は ぜんめつひっす。
まくろこすもす ぐらんどくろす。
たすけて わくわく あーぜうす。
ぶらっく・ほーる で ぜんはかい。
ほわいとほーる しろいあしたが まってるぜ。 にゃーんてな。 そーなんす。

「分かったな? すっぽかすんじゃねえぞ」
(ウワー)

 宇宙まで飛んでいった思考がようやく戻ってきて言われた言葉を理解する。
 あえて複数の第三者がいる前で言ってきた。強硬策取ってきた。策士か? そうだ策士だ。爆豪勝己という人間が短気な性格であることは我らA組では周知の事実だが間違っても彼は単純な力押しのオデ系脳筋蛮族猪武者原始人バーサーカーなどではない。
 相手の個性や戦い方、戦況などを冷静に分析するインテリ才能マンなのである。しかし私との個人的な出来事でしかない「例の件」でここまで大胆な犯行に及ぶとは思わなかった。やることが汚ねえぜ。

「エッ何何何!? どうした爆豪!?」
「部屋来い!? ヘヤコイ!? バクゴーが!?」
「わわ、あわわわわわわ……せせっ、せっ、青春やァ……!?」
「あんなにも堂々と女子を自室に呼び出すなんて暴挙……オイラ……オイラ……!! 許せねェなァ爆豪ォォォォォォ!!」

 さっすが「個性:爆破」の爆殺王(没案)だ。放火するだけしていなくなった。辺り一面炎上汚染都市もかくやの燃えっぷりである。熱いぜ熱いぜ熱くて死ぬぜ。

 とりま火消しだ。大興奮してる上鳴くんと芦戸さんと麗日さん、そして血涙を流しながら半狂乱で怨嗟を撒き散らす峰田くんをどうにかしよう。

「いやー爆豪くんに限ってそれはないでしょ。十中八九、この前の戦闘訓練のことじゃないかな。私同じチームだったし」
「でもあの時……特に失敗はしてなかったはずだよ? むしろサポート完璧にこなしてたと思うけど……
「そうそう! バクゴー乗せた足場リアで高くまで飛んでって、最後にバクゴーが飛び降りて地上を一気にドッカーンって!」
「あっ、あー! あれか! 海外のアクション映画っぽかったよなー! ムキムキのオッサン主人公がヘリから飛び降りる感じで!」
「バクゴウ……ユルザネェ……

 お、話題がいい感じに逸れてきた。そのまま楽しく映画の話をしていてほしい。峰田くんはもう放置安定。足音を抑えてわいわい賑やかな共同スペースを出るとそこには困り顔でこちらを見る切島くんがいた。

……悪ィ。さっきの爆豪のやつの聞いちまって。えっとさ……どうすんだ?」
「あそこまで大々的に呼ばれちゃったなら行くしかないと思うけど……正直言うと行きたくないかな」

───でもあんなに怖い顔で「すっぽかすな」って超デカい釘刺されたし。約束破って怒髪天の爆豪くんに何遍もシバき回されるくらいなら大人しく行ってくるよ。

「そうすれば一発爆破するくらいで許してくれるかもしれないし」

 そう言って切島くんに背を向け男子寮へ向かおうとしたら「待ってくれ」と呼び止められた。

「えっと………爆豪は……そりゃあ短気な奴だよ。……でも、でもさ。俺から見たあいつ、お前にキレたり怒鳴ったりって……最近はほとんどないんだ。だから、殴るとか絶対にねえと思うから……!」

───あいつの話、ちゃんと聞いてやってくれ。



「じゃ、お邪魔します」
「待ってたぜ。ビビらずちゃんと来れて偉ェじゃねえか」
「そう、ありがとう。じゃあ用件は?」

 昔懐かしい部屋王決定戦。不参加で終わった爆豪くんの部屋は綺麗に片付けられていた。彼はベッドに腰を掛けていたが私が部屋に入るの見るや否やすっくと立ち上がる。

「まず昨日のことに関しては……悪かった」
「えっ…………うん、」
「ンだその微妙な反応は! 俺だって謝るわクソが!」

 まさに人間瞬間湯沸し器。猛犬のように吠える爆豪くんの両手がボンッッ!と音を立てた。寮生活が始まってからは親の顔より見た爆破。だからこそ先ほどの静かな声の謝罪はどうにも異質だった。怒りはすぐさま引いたようで眼前の彼はハァと小さく息を吐く。

「お前に聞きてえことがある。誤魔化さず正直に答えろ」
……何かな」
…………お前は、」

───お前は「どうでもいい奴には、嫌われるよりもしつこく好かれる方が気持ち悪ィ」って考えてたりしてねえか。

……………………うん、そうだね。嫌いならお互いに距離を取って関わらなければいい。でも好意ではそうもいかない。こっちがどれほどうんざりしても延々と付きまとわれる。それ、私は凄く鬱陶しいと思う」
……そうか。まあ、ンな気はしてた」

 爆豪くんが目を瞑り、数秒の沈黙。そして開かれる瞼。赤い瞳と視線が交ざる。その表情は寂しさが滲んだ自嘲と言えるものだった。

「それでもやっぱ無理だ。俺はお前が好きだ。お前にキメェって思われたとしてもこれは捨てらんねえ」
………………どうして?」
「わかんねえよ……ンなもん」


───これはSNSの色んな人のアカウントを眺め続けた恋愛未経験の小娘の考えに過ぎないが。

 私が考えるに恋ってやつは楽しくて苦しい。鮮やかで汚い。尊くて浅ましい。対極の要素が混在してると思っている。

 常春の国のような暖かで幸福な恋をする人を見た反面、手酷く裏切られて終わった恋も見た。嘆きに満ちた呟きを最後に更新の途絶えたアカウント。それこそが私の恋愛に対する価値観を決定付けた。
 そして、恋愛は悪意や裏切りで終わってしまうものも存在するのだとしても料理は違う。知識。お金。手間。時間。試行錯誤。掛ける要素が多ければ多いほどそれは「美味しさ」で応えてくれる。
 私が恋をするのならその相手は【食】という概念そのものなのかもしれない。だがまあそれを口外する必要はないだろう。

………私は。……私は、爆豪くんのこと『そういう対象』としては見ていない」
「そうか」

「とりあえず今は爆豪くんの気持ちに応えることはできない」
…………そうか、」

 再び訪れる無言の時間。だがそれに昨日の「例の件」直後の気まずさのようなものはなかった。

……ま、お前がそう思ってんなら別に構わねえ」

「この場で返事しろなんざ言わねえ。『俺がお前を好きだから、お前も俺を好きになれ』なんてクソ身勝手なことはもっと言わねえ」

「『同じA組ってだけの人間』から、こうやって面と向かって会話できる程度になれるだけで充分だ。俺がお前を好きだってことは……頭の隅にでも放り込んどけ」


───話はこれで終わりだ。もう戻って構わねえ。


……………爆豪くん」
「なんだ?」

「敵連合は未だ健在してる」
……あぁ」

「始まりはUSJ。次に保須のヒーロー殺し事件でチョロっと報道されてた脳無。更にショッピングモールで緑谷くんに死柄木弔が接触。そんでそこから林間合宿襲撃。ノンストップで神野事件」

「それ以降目立った動きはなかった、けど……
……………

 二人分の呼吸の音が泡のように湧いては消える、湧いては消えるを繰り返す。

「ついこないだニュースでやってた。大阪のヤクザの……ハッサイカイ? オーバーホールって奴。そいつの身柄を護送してる途中で起きた襲撃事件で久しぶりに名前が出た」

 報道の中で砂の個性のヒーローが殉職したと伝えられていた。死因は焼死。十割超えて百割方、蒼い炎の森林火災男の仕業だろう。

「焼きすぎて黒焦げになった餅よりもキナ臭い。彼らはそう遠くない内に大きく動く。私はそう考えてる」

───まあ要するにさ。

「戦闘及び救助訓練、個性伸ばし、必殺技開発、その他もろもろで『俺たちはもっと強くなる。俺たちの戦いはこれからだ!』……的な感じで頑張ろう、改めてよろしくってやつだよ」
「オイ打ち切りエンドしてんぞ。………ったく、飯食ってる時は頭のてっぺんまでどっぷり幸せに浸ってるくせに、真面目な話題になると別人レベルでクソ冷静になりやがって。いいぜ。明日の放課後、自主トレ付き合え」
「うん。いいよ」

 以上のやり取りをもって私の中の「得意ではない相手」のカテゴリから爆豪勝己という人間は除外された。彼がこの先「そういう対象」に属することになるかは知らない。未来の可能性の話は未来の私に丸投げするとしよう。


 私の世界。その最果て。きっとそこには誰も座ったことのない椅子が一つ、今もぽつんと在り続けている。





「ああそれとついでに思い出したわ。明日の自主トレでハウザーぶち込ませろ」
「 」

 平然とした表情の爆豪くんの口から時速200kmの直球どストレートで放たれた殺害予告。イヤーッ! ハウザーインパクトナンデ!? 忍殺ならぬ爆殺メンポのヴィランスレイヤー。殺戮者のエントリーだ! バクゴウ=サンの個性ジツ! ニトロ汗大引火! 敵は打ち上げ花火めいた勢いで爆発四散! サヨナラ!

………やめよう爆豪くん、個性は人を傷付ける道具じゃない。私と個性バトルで勝負だ」

「やめようとか言っときながら戦うんかよ! しかもなんだよ個性バトルってよ! 要するにただのドンパチじゃねえか!」

「でもヒーローが実質やってることだよ」

…………………そうだな………つーか話脱線させんな! お前のノーダメ状態のビット8本バリアがハウザー耐えるか確かめさせろって意味だ!」

「あぁ、そういう検証なら構わないけど……それはそれとして言葉が足りない。爆豪勝己に50点減点」

「減点すんなや! 教員じゃねえお前にンな権限あるわけねえだろうが!」

「『登り始めたばかりだからな。このはてしなく遠いヒーローへの道を……!』私たちの勇気が世界を救うと信じて……!」

「打ち切りエンドしてんじゃねえええええ!!」