駆動マキナmk-2
2024-10-26 12:05:28
3635文字
Public hrak
 

最果ての空席/#4 おやつかつまみかスライスチーズ

hrak夢/💥/名前変換なし

 個性:ソードビット。

 あいつの背後で羽みてえに浮かんでる(平常時は纏められている)クソ頑丈な8本の刃。カロリーを動力にしてっからあいつが飯を疎かにしてりゃただの板っきれ。もちろんそんなことは天地がひっくり返ってもありえねえわけで。

 主人の意思の元に高速で飛び回る変幻自在の八刀流。切っ先からはビームをぶっぱなす。オールレンジで暴れまくるやりたい放題のマルチウェポン。それだけに飽きたらずビット同士を組み合わせて三角や四角を作ってバリアを張る。……近中遠全対応の攻撃手段はフツーに強ェとは思う。だが地味そうなこのバリアも相当にイカれてる。

 8本全部使った八角形のバリアは有り得んくらい硬い。戦闘訓練の時は正面から突っ込むより背後に回るか頭上を取った方が手っ取り早ぇな………なんて考えてたのにあいつは四角錐、要するにピラミッド型のバリアで全方位に対応するようになった。

 四角錐も八角形と同じビット8本フル使用だからクッソ硬ェ。A・P・ショット・オートカノンを死ぬほど撃ち込みまくってようやくヒビが入るレベルだ。まだ試したことはねえがダメージ蓄積ゼロの状態かつ強度最大出力ならあれはハウザーを耐える可能性だってある。

 しかもバリアは浮遊移動する足場としても転用できる。使用ビットの数が多けりゃ多いほど機動力が上がる。訓練で同じチームだった時にその有用さは嫌ってほど理解した。

 前に戦闘訓練であいつがやってたピラミッド型バリア状態での突撃。あれはもう硬化使った切島がデクや飯田よりかは遅いくらいのスピードで突っ込んでくるようなものだった。そんで相手チームの半分野郎が氷結で迎撃しようとしたらロケットみてえに急上昇して回避。バリアの側面を形成してた4本をバラして高所からその4本ビットのビームで反撃。退くべきと判断した途端にピラミッド型に戻ってUFOみてえに飛んで離脱。

 考えりゃ考えるほど自由度がおかしい。あいつの発想の数だけ手札が増えていく。ここまで言ってアレだが俺デク並みにあいつの個性分析してんな。マジキメェ。そして初めての戦闘訓練であいつの戦う様を見た時、俺はこう思った。


───なんだあれ。


 火力だけなら俺のが上だって自信はあった。だがそれ以上にあいつはできることが多かった。近接できます、飛び回る刃だしビームも撃つから中距離も遠距離もできます、バリア張れます、バリア足場にして空飛べます。ふざけんなクソが、じゃあ何ができねえんだと内心キレそうだった。

 とにかく、格下と侮っていたデクに負けたショックと八百万の正論すぎる指摘と半分野郎への劣等感でボロカスだった俺のメンタルはとどめの死体蹴りを喰らったようだった。だがそれは俺が勝手にダメージを受けただけだ。あいつに非は何もない。



 訓練を終えた後の総評の時、あいつはいつだって俺から距離を取って障子や口田みてえな口数少ねぇ奴の傍にいた気がする。ペアの時は隣にいたが。

 俺とペアや同じチームになった時は結果を出そうと全力のクソ真面目。入学して間もない頃からあいつは可能な限り俺と連携を取ろうとしていたはずだった。だが、思い通りにいかねえことばかりでイラついてばかりだった俺はそれを無下にしてたと思う。

 それでもあいつは他の奴らみたいな困り顔や呆れ顔、そういう表情を見せたことはほとんどなかった。平然。平常。自然体。ずっとそういうニュートラルな振る舞いで、今思い返してみるとあいつの反応だけあまりにも淡白で異質だった。そのくせ───

「切島くん今日肉丼?」
「おう! 大盛りで頼んだ!」
「いいねー、私も肉丼にしよ。同じ大盛りで温玉付けるかな」

「飯田くんの『エンジン』ってオレンジジュースが燃料じゃん。他の柑橘系のジュースは試したの? グレープフルーツとか」
「む、そんなことを聞かれたのは初めてだな……。うむ、個性が発現した後に色々な飲み物を試して、その時に恐らくは飲んだはずだ。だが最も効果があったのはオレンジジュースだったよ」

「砂藤くんは糖分で個性を使う。私はカロリーで個性を使う。そこに何の違いもないと思うんだけど」
「いや違うぞ!? 糖分とカロリーは別物だぞ!? だいぶ違うからな!?」
「違うか、そっか。まあ分かってるけどね」
「分かってるのかよ! 安心した!」

「梅雨ちゃんって果物系のゼリーとコーヒーゼリーどっち好き?」
「ケロケロッ、その二択なら果物系ね。果肉が入ってるやつだとちょっと贅沢な気分になるわ。あなたは何のゼリーが好きなのかしら」
「イチゴとブドウとオレンジ。でもコーヒーも好きだよ。というか分かるー、果肉入り美味しいよねー」

「まさに『ビットの動力になるからカロリーゼロ』ってわけかー。つまり……ラーメンでもピザでもなんでも食い放題じゃね?」
「それは違うよ上鳴くん。私の個性はカロリーを消費するのであって脂肪は消費できない。他にも糖質とかプリン体とか。まあだから『揚げバターをドカ食いしてカロリー大量チャージだぜぇ!』なんて馬鹿な真似したらメタボ待ったなし。脂肪で血管詰まってお陀仏です」
「あっそっか、勘違いしてたわ。となると……高カロリーで脂質は低い食べ物が嬉しいって感じ?」
「そういうこと。それはそれとしてチーズとか好きだよ。大好きですけど」
「美味いもんな、チーズ。俺マックでダブチよく頼むし分かるわ」

 普通に笑って、普通に駄弁って、普通に馴れ合ってた。俺以外の奴らとは人並みか、それ以上の仲をしてた。だからといって俺のことをモブ扱い背景扱いしてるわけじゃねえ。あいつは俺をちゃんと爆豪勝己と認識してる。それでも俺一人だけが。「同じA組というだけの人間」みてえで。

…………なんだそれ)

 それを自覚しちまったら俺はもうダメだった。



 スライスチーズにブラックペッパーを軽く振り、くるっと巻いて頂きます。

…………かゆうま………

 すげェ! バンズとパティとピクルスと玉ねぎとケチャップ抜きのチーズバーガーの味がする。今度は刻み玉ねぎも乗せようか。

 だが玉ねぎはみじん切りにする前に薄切りにし、塩揉みして五分くらい水に晒すことで辛さをマイルドにさせてからだ。栄養がいくらか水に溶けてしまうが生の玉ねぎをそのままは流石にちょっと辛すぎるから仕方ない。

「何食っとんだお前」
「あ、爆豪くん。これはおやつです」
「スライスチーズにブラックペッパー? 酒のつまみじゃねえか……
「チーズは良いものだよ。手軽にカロリーが取れてこってりしょっぱくて美味しい。人間の脳は脂肪と塩分の組み合わせを『美味しい』と感じるから。私にとってチーズは人類の価値ある発明の一つと言ってもいいよ」
「力説しすぎだろ。ネズミかよ」
「うん。前世はそうだったかも」

───おやつは食べたし部屋戻るね。

 そう告げて私は爆豪くんにひらりと手を振って踵を返そうとした。

「待てや」
「え、なに?」
「お前よ、」

俺のこと好きじゃねえだろ。



 1、2、3、4。きっかり5秒。無言の時間が続いた。

……んー……。そうだね。『私の好きな人間』というカテゴリに爆豪くんは入ってないよ。ああでも私は爆豪くんを嫌っている訳でもないからね」
(こいつあっさり認めやがった……!)

 だが、焦り顔で情けなくどもりながら「そっ、そんなことないよ?」みてえなことをほざいて白々しい否定をする様は全く想像できなかったから俺としちゃあ想定内だった。

「なんでテメェは俺を避けるんだ」
「えっ……避けてたつもりはなかったけど…………嫌な気持ちにさせてたならごめんね、」

───ムカつく。

「うるせえ謝んな! 思ってもいねえ謝罪の言葉で誤魔化してんじゃねえぞ! いいからとっとと白状しやがれ!」

 そう怒鳴った途端、あいつの顔から表情と言えるものが抜け落ちる。そこにあったのは「面倒くせえなこいつ」とでも言うような真顔だった。

……理不尽にキレられたり暴言吐かれたら嫌だから。私の世界に私を嫌な気持ちにさせる人間の居場所は塵一つ分だってない。それだけだよ」

───それにさ。

「爆豪くんは『他人に好かれたい、嫌われたくない』なんて思考はそこまで持ち合わせてないでしょ。だからべつによくない? 私という人間一人に好かれてなくたって」
「は、」

 悪意なんざ一切ない、それでいて限界まで研いだ包丁よりも鋭利な言葉。同時に頭もブン殴られたようだった。俺は必死こいて震えを押さえながら声を絞り出す。

「流石に、オールマイトに嫌われたら俺も堪えるわ……
「あっ。あー……。まあ……それは……そうだね」
………なぁ、」

 理不尽にキレたり暴言吐いたりしねえなら、俺はお前の世界に入れるんか。