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駆動マキナmk-2
2024-10-26 11:54:48
3743文字
Public
hrak
最果ての空席/#3 揚げパンと共に去りぬ
hrak夢/💥/名前変換なし
───昔の話だ。
「お前うぜーんだよ! 女のくせに強い個性だからって調子乗んな!」
小学五年生の頃、同じクラスの結構気が強くて特に仲良くもない男子に突然そんなことを言われた。実のところその時に悲しさはあまり感じてなくて「なにこいつ」という気持ちの方が強かった。
それでいて怒るのは疲れる。怒鳴ったり言い返すのも疲れる。目の前のこいつへ「お前の発言で私は気分を害した」と主張する、それを行うためだけに何故私が疲れてやらないといけない? 消費するエネルギーと得られる結果が全くと言って良いほどに釣り合っていない。永遠に続くかのようなリセットの果てに巡り会い、絶望のわるあがきをされることなく無事にゲットした色違い伝説モンスターを手放して忌むべき改造個体を入手するようなものだ。
色んな作品の強くて格好いいキャラはああいうことを言われても動じなかったりする人が多い(もちろん強くても悲しんだり苦しむ繊細な心のキャラもいるが)。悪意を向けられても眉一つ動かさず平然としている。なのでその時の私は格好いい彼らに倣った。
「そう。ごめんね」
何の心もない謝罪の言葉。鼻をかんだちり紙をゴミ箱へ投げ付けるように無造作に放る。そしてお望み通り不快なそれの視界からさっさといなくなることにした。
◆
「はい皆座ってー。五時間目始めるよー。
……
って、あ
……
あれ? あそこの席は確か
……
■■さんだよね? ■■さんがいないみたいだけど皆知らない?」
え、いないの?
知らないです。
しらなーい。
お前知ってる?
ううん
……
。
トイレか保健室?
…………
先生。
「■くん?」
あの、ぼく
……
っ、僕見た! ■■■くんが■■さんに「女のくせに強い個性だからって調子に乗るな」って言ってた! ■■さん何も悪いことしてなかったのに!
おっ、おいッッ! おまえッッッ!!
■■■くんひどーい!
おっ、チクりだー!
皆静かにしなよ!
「
………
■■■くん。『人を傷付けるようなことは言ってはダメだよ。そういうことは悲しくて格好悪いことだよ』って先生よく言ってるよね。それに、人の悪口を言うような子をオールマイトが好きだと思う?」
………
っ、
「とりあえず先生は■■さんを探しに行くから皆は自習をしてて。いい? 自習だよ? 自習は騒いで遊ぶものではないからね?」
マジ? 自習だって!
やったー!
なあなあ! オールマイト描こうぜ!
えーウォッシュがいいー!
「はい静かに静かに! 騒がなーい!」
◆
個性:ソードビット。
極限まで簡略化された天使の羽のようにあの子の背後に浮かんでいる8本の真っ直ぐな刃。兄が好きなロボットアニメから飛び出してきたような強力かつ大人の私から見ても格好いいと思える見た目の個性だ。
強い個性。派手な個性。そういったいわゆる【ヒーロー向けの個性】を持った子は明るく活発だったり、クラスの輪の中心にいたり
………
悪い言い方をすると有する個性への自信から増長気味でやや問題児だったりする。だがあの子はどれにも当てはまらない。
よく自由帳に絵を描いている。
給食でプリンや揚げパンが余った時に勃発するジャンケン争奪戦には必ず参加。
読書が好きで音読が上手い。
掃除の時間はとても真面目にこなす。
今までに問題事を起こしたことのないあの子が何も言わずにいなくなるなんて相当なことだ。
(保健室は見た。トイレは全階見た。どこの階段にもいない。下駄箱も傘立ても
……
!)
近場のヒーロー事務所に通報はした。だがまだ学校内全てを探し尽くしてはいない。
あの子がいなくなったであろう時間は五時間目が始まる前。つまり昼休み。昼休みの体育館は施錠されてるから選択肢から除外。教室で■■■くんから悪口を言われた後に別校舎へ移動した? あそこにはあの子が好きであろう図書室がある。でも昼休みが終われば人はいなくなり施錠される。隠れて居座ろうとしても教員や図書委員、五時間目が図書のクラスの担任や生徒たちに見つかるだろう。屋上は危険だから原則立ち入り禁止。ここへのドアも鍵が掛かっている。
不意に思い出す。あの子の連絡帳を介しての親御さんとの最近のやり取り。「ビットで三角や四角の形を作ることで張れるバリアのようなものを足場代わりにして空を飛べるようになった」と。
その手段で校門を越えて学校の外に出た? もしそうならヒーローが見つけてくれることを祈るしかない。もしも保護が間に合わず敵に襲われたら、
誘拐。暴力。慰み物。そして───想像したものに思わず心臓の鼓動が一気に速くなり呼吸が乱れ、うっすらと視界が滲み出す。
このご時世だ、子供を狙う敵なんて何も珍しくない。
(だめだめだめだめだめ
……
!!
……
考えろ、まだ探してない場所。飛べるようになったあの子が校内で行けそうな
………
!)
「
………
まさか、」
飛べるようになった。なら校門を越えられる。そしてそれとは別に。
人の目が付きにくい本校舎の裏。そこでバリアを発動し足場とする。エレベーターのような動きで真上へ上昇させれば───屋上にまで行けるのでは? もちろんこの考えが絶対だという保証は欠片もない。学校外に出た可能性は消えていない。それでも、
「
……………
」
屋上への鍵は職員室にあるはずだ。
◆
───嫌なことがあった時。
「その嫌なことを何時までも考えていたらずっと嫌な気分のままだよ」とお母さんが教えてくれた。だから私は塗り潰す。好きなことで塗り潰す。楽しいことで塗り潰す。
次の休み、家族での外食はどこに行くかを考えた。
回転寿司は良い。最近とろサーモンで山わさびの美味しさが分かってきた。サイゼリヤに行くなら食後にプリンは外せない。だが日高屋の中華そばは驚きの安さだ。イカ揚げを付けても1000円以下。イカだけに。お黙り。
ヒーローズチップカードのことを考えた。
ランチラッシュが欲しい。お腹が空いた人たちに美味しいご飯を作ってくれる一番大好きなヒーローだから。最高レアのオールマイトは結構あっさり出たのにランチラッシュだけ来ない。だからといってランチラッシュを貰うためにオールマイトを交換に出すのは流石に釣り合ってなさすぎる。それはやだ。ありえない。
絵を描くことを考えた。
人を描くのは大変だ。でもウォッシュは非常に描きやすい。いいことだ。13号もまあまあ描きやすい。いいことだ。
給食のことを考えた。
この前の揚げパン争奪戦ジャンケンで負けたから今度お母さんに頼んでパン屋に行きたい。砂糖ときな粉とココア。三種類買ってもら
「■■さんッッッ!!? いる!?」
ガチャガチャという音が聴こえたと同時。普段から固く閉ざされている屋上のドアが勢いよく開き、そこにはクラスの担任である■■先生がいた。
「■■先生
……
」
「こんなところ、いたの
……
。よかった
……
学校の外
……
行ってなくて
……
」
ひどく憔悴しきった顔のまま肩で息をしている■■先生に「失敗だったな」と思った。あれはどうでもいいとして■■先生には迷惑をかけてしまった。
「怪我とかは
……
」
「ううん、べつになにも」
「なら良かった
……
。
………
どうしてここに?」
「いつもは
……
入れないから」
「
……
そっか。そうだね。普段は鍵掛かってるもんねぇ」
私の心情に反し校舎の屋上に吹き抜ける風はどこまでも爽やかだ。
───ガガガガガガガ、
学校からそう遠くない場所で何やら工事が行われているようだった。コンクリートを砕くドリルの音がここまで聞こえてくる。
溶けていく。風と音が。快晴の蒼穹に。
「ねえ、■■さん。一人でいなくなったのは
………
■■■くんに嫌なことを言われたから?」
「
…………
ごめんなさい」
「うん。いなくなるのは良くなかったね。■■さんが学校の外にいっちゃったのかと思って、先生すごく心配だったから
……
」
■■先生の手が背中をそっと撫でる感覚に押さえていたものが堰を切って溢れだす。
「
………
先生。私、言い返した方がよかったの? 泣けばよかったの?」
「泣いたところできっと得意気な顔で『ほら。女はすぐ泣く』って笑うよ? 『女のくせに』なんて言ってきたんだから」
「強い個性だからって調子に乗るなだってさ。私べつに誰も馬鹿にしてなんてないのに。ヒーローみたいに個性を使って敵と戦ったことなんてないのに」
「『ごめん』って言われたら許さないといけないの?
……
私そんなのやだ。ぜったいにいや。『ごめん』なんて言われたくない、聞きたくない、許したくない。許さないといけないならあんなのがいる教室、もどりたくない、」
◆
そんな感じのことを涙声でまくし立てたのは覚えているがその後に■■先生がどのように返したのかはもう思い出せない。思い出せないのならきっと大したことじゃなかったんだろう。
なんとなく揚げパンが食べたくなったと同時に思い出した、何の面白味もない昔の話だ。
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