雄英高校のヒーロー科授業は私が想像しているよりも遥かに過酷な内容だったのだろうか。私たちのクラスで一番の問題児、藤見露召呂くんは普段以上にふて腐れた顔にガーゼと包帯まみれで、更に松葉杖まで引っ提げて帰って来たのだから。
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「どうせ藤見くんのことだし、あの体育祭で1位の……爆発の人と喧嘩したんじゃないの?」
「うっせー! あんな胸クソ悪ィ不良上がりのことなんざ思い出させんな!」
(あ、やっぱり喧嘩したんだ)
同じ帰り道を歩く中で問い掛けたところ図星だったのか彼は松葉杖の先端でアスファルトをバシバシと叩く。
「羽生子ちゃんと赤外さんと多弾くんもゾンビにしちゃったって。藤見くん、いつもの戦闘訓練だと味方の巻き添え出さないように気を付けてくれてるのに」
────何かあった?
その言葉に藤見くんはぴたりと歩みを止めた。
「……爆発野郎が。万偶数のことコケにしやがった」
「………………」
「あの野郎なんて言ったと思うよ?『たった3秒程度しか止められないショボい個性』だとよ。ふざけんじゃねえッ…!!」
地を這うように低い怒りの声が静かな住宅街の空気に消える。苦い表情を浮かべる彼に合同演習で何があったのか一通り察した。
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「個性:ゾンビウイルス」は非常にピーキーな性能だ。敵味方の区別なく場を大混乱に陥れるそれは人命救助では一切役に立たない。
更に戦闘訓練では積極的に使用しているものの、周囲に守るべき一般市民が存在する本当の戦いにおいて何も考えずにそれを使えるのかとなれば答えはノーとなる。その上ゾンビとなった者を操れるわけでもなく、藤見くん自身も彼らに噛み付かれるとめでたくゾンビの仲間入りとなってしまう。
とにかく不便さが目立つ。こんなこと言いたくないが正直なところヒーロー向きの個性とはお世辞でも言えたものじゃない。本人もそれを痛いほど理解している。
そして、その個性を持つ彼がヒーローになりたいと口にしたところで手放しで応援してくれた人間はどれだけいたのだろうか。
「そんな敵みたいな個性でヒーローになれるわけがない」
きっと大半の心ない人間にはそのように嘲られて終わったのだ。藤見露召呂が理想のままに語った夢は。
まあそんなことが本当にあったのかは知るよしもないが、とにかく藤見くんは個性の内容だけで個人を侮辱されたり物事を決め付けられることを極端に嫌っている。そしてそれは己だけに限った話ではない。陰険で不遜で捻くれた態度の彼だが、仲間を蔑むことは決して許さないのだから。
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「つまり頭に血が上って冷静さが吹っ飛んだから自分のチームもろともゾンビにしちゃったと」
「ああそうだよちくしょう!」
前置きが長くなったが要約するとそういうことになる。藤見くんはもう少し心に余裕を持った方がいい。良かれと思っての台詞は「うるせえ!」と切り捨てられた。
「世間の奴らは口を揃えて雄英雄英って騒いでるけどな…。俺は、雄英の引き立て役で終わる気なんざこれっぽっちもねえぞ…!」
藤見くんが自分以外の誰かのために怒ることができるのは彼がヒーローに憧れる心を持っているから。そして心無い言葉の棘が今も胸に深く突き刺さったままだからなのかもしれない。
「あァでもよ。遠征チームにお前いないのは正解だったな」
「なんで?」
「決まってんだろ。お前のことゾンビにしなくて済んだんだからよ」
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