駆動マキナmk-2
2023-06-13 20:27:41
5124文字
Public 雑多
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404 NOT FOUND 5

岩男EXE/亡霊速/亡霊光

ネクロ「あなた、コサック博士ですよね」
……ワタシを知っているのか?」
「ええ。……あなたとあなたが作り出したナビが一方的に嫌疑を掛けられたのが許せなくて科学省に辞表を叩き付けただけの偏屈な頑固者です」

 荒れた風が吹き寄せる。道端に落ちていたコーヒーの空き缶がカラカラと音を立てて転がっていった。

「お会いできたのがこんな緊急時でなければ素直に喜べたのですけれどコサック博士、あなたこんな天候でどこへ向かう気なんですか? そちらは港です。船くらいしかありませんよ」
………君が科学省に勤めていた身であるならばプロトの名は知っているだろう?」
「ネットワーク技術の第一人者、光正博士によって試験的に作られた初期型インターネット。そして電脳世界の全てを喰らい尽くさんとした大災害も同然の怪物。心底忌まわしい名前ですね」

 障波ブロックにぶつかった高波が粉々に砕け散りコンクリートを濡らした。曇天の彼方から雷鳴の低い唸りが聞こえてくる。

「WWWの狙いはそのプロトを復活させることなんだ。世界中のインターネットにプロトバグを撒き散らし、各国の軍事コンピューターを暴走させ終末戦争を引き起こそうとしている……
「! 前々からとんだ大迷惑犯罪集団だとは思ってましたけど……正真正銘のアホ共でしたか」

 普段と異なる空気を察知したようなのか海鳥たちはけたたましい鳴き声を上げて騒いでおり、幾つもの白い羽根が宙を舞った。

「当時のプロトはナビやプログラム、あらゆるものを喰らって動きが鈍ったところを防衛プログラム・ガーディアンによって封印された。だが奴等は……どのような手段を取ったかは知らないがフォルテの協力を得ているんだ! フォルテならばガーディアンを破壊するのも不可能ではないかもしれない! ワタシは彼を止めに行かなければならないんだ!」
……………ああ。生きていたんですね、彼は。ならわたしも同行させて頂けませんか?」
「何を言っているんだ! 無関係な君を巻き込むことなど
「まあ落ち着いてちょっと聞いてくださいよ」


 どうして。

 その問いに答える者は誰もいない。


「科学省に所属していた頃のわたしは、あなたとフォルテの仲にとても輝かしいものを感じていました。人間とネットナビの理想的な関係性の一つだとも思いましたね」
「ハハハ……そこまで言ってくれるとは。当時のワタシに聞かせてやりたいな……
「そして、優れた性能故にミスやエラーへ厳しい指摘を行っていたフォルテへ反感を抱いていた者たちなんて至極どうでもよかったんです」
……………
「結局のところそれは間違いでした。わたしはフォルテの理解者を増やすべきだった……彼が孤立することに無自覚に加担した。……ほら、わたしにも責任はあるし、無関係でもないんですよ」


 それでも。どうして。

 問わずにはいられなかった。


「さぁさ来たぞWWW本拠地ー。うへー汚水垂れ流してきったねえなあ………ってこれはN1の時の……選手がジゴク島に向かう時に使ってた船じゃん。先客でもいんのかな。まあ考えてもしゃーないか。行きましょうコサック博士」

……………クイックマン、フラッシュマン、ごめんね。マスターは年に一回くらいこういう突拍子もない行動をやったりやらなかったりするんだ……。腹を括ってね……
「(唖然)」
「(呆然)」


 どうしてこうなった!!


 クイックマンとフラッシュマンの声なき叫びがPETの中に響くことはなかった。







 WWWを食い止めるべくその本拠地に乗り込んだ若きネットバトラー、光熱斗、伊集院炎山、大山デカオ、荒駒トラキチ。大量のコンピューターが並ぶ部屋に侵入した彼らは先に進むためのエレベーターを発見したがどうやらそれは稼働していないようだった。

 プラグインして内部から動かそうにも肝心のプラグインをするための場所がどこにもない。そんな中、炎山は部屋の中央に鎮座する椅子のような装置をじっと見つめていた。

「この部屋のモニター類、全てこの椅子に接続されているな。これは一体何なんだ……?」

 複数のケーブルが繋げられたソレは見るからに怪しい。だからと言って手を出すのは年不相応な冷静さを有する炎山にはできずにいた。すると自分たちが入ってきた扉の方から聞き覚えのない声が響く。

「それはパルストランスミッションシステムだよ」
「誰だ!!」
「あっ、おじさん!」

 声の主は眼鏡を掛けた金髪の男性。その隣には年季の入った白衣を肩から羽織った女性が立っている。突然の乱入者に鋭い声を上げる炎山。しかし驚いたように、それでいてどこか安心した表情で男性へ駆け寄っていく熱斗の姿に少しばかり警戒を緩めた。

「光、知っているのか?」
「バブルウォッシュの事件の時に助けてもらったんだ。安心しろ、悪い人じゃないよ。それにすごいプログラムテクニックを持ってるんだぜ! だけどおじさんは一体誰なの?」
……………ワタシの名はコサック。元科学省の科学者だ」
「コサック……! 聞いたことがある。オレが知っている人物ならば完全自立ナビ開発の第一人者で科学省でもトップクラスの科学者だったはずだが」
「えーっと……おじさんがメチャクチャすごい人なのは分かったけど、そっちの人は?」

 男性の正体が想定外の大物だったことに流石の炎山も息を飲む。それでも熱斗にとっては“バブルウォッシュ騒動の時にプレスプログラムをロックマンのナビカスタマイザーに組み込めるようにしてくれた親切なおじさん”という認識の方が強いようだった。そんな彼は今度こそ見覚えのない白衣を羽織った女性へ視線を向けた。

「ああ彼女は、」
「助手です」
「じょ、助手やて?」
「そうです。助手です(視線でコサックに圧を飛ばす)」
……うむ。ワタシが科学省を去った後も変わらず慕い続けてくれているんだ」
「そうなんだ……

(す、すごいマスター……とんでもない大嘘なのにあまりにも堂々かつあっさりと言ってのけたからあまり疑われていない!)

 コサックの言葉を遮り即答した人物は訝しげなトラキチにも顔色一つ変えずに返す。間違いなく褒められたものではない行いなのだがPETの中のネクロは一周回って感動すら覚えていた。物言いたげな顔をしていたクイックマンとフラッシュマンは自分たちに言語機能がないことを思い出して諦めたように目を閉じた。

「あなたがコサック博士だというのなら何故このような場所に?」
「何個人的な用事だよ。それより君たちは先に進みたいんだろう? その手伝い、ワタシにやらせてくれ」

 炎山の率直な問いに簡略化した返答をしつつコサックは彼が注視していた装置の前に立った。

「コイツはパルストランスミッションシステムといって、人間を直接電脳世界に送り込む為のシステムだ」
「人間を電脳世界に送り込む? そ、そんなことができるの?」
「厳密には人間の脳波を電脳世界に送り込むんだよ。脳波とは一種の電気信号だからね。このシステムはその脳波を分析し、データ化して電脳世界に送り込むことができる」
「送り込んだ後はどうなっちまうんだよ?」

 “人間を電脳世界に送り込む”。それだけでも驚きを隠せない熱斗たちに告げられたパルストランスミッションシステムの内容は非常に衝撃的なものだった。

 データ化された脳波は電脳世界でもう一人の自分を構成し、電脳世界で見たこと聞いたこと全てが直接脳に送られる。そしてその感覚は現実世界の物と何ら変わりはない。それ故に電脳世界で怪我をすればそのデータが現実の脳に伝わり、生身の身体も傷付くことになるという。

 それを聞いて恐ろしい考えが浮かんでしまったのだろう、トラキチは青ざめた顔で身震いする。

「そ、それじゃあ電脳世界で死んでもうたらどうなっちまうねん……!」
「無論、現実の身体もタダでは済まない。元々科学省で生まれたアイデアだったが、あまりに危険なため開発は中止になったんだ」

────元科学省の職員のワイリーならこの技術を知っていてもおかしくはないが。

 そう付け加えてからコサックはパルストランスミッションシステムに腰を下ろした。

「ワタシが今からパルスインして電脳世界からエレベーターを起動させてくる。行くぞ、パルスイン!」







 パルストランスミッションシステムで電脳世界にダイブしたコサックがプログラムを起動させたことによって止まっていたエレベーターは無事動き出した。後は現実世界に戻るだけ……誰もがそう思っていた。しかし事態は急変する。

「無力な人間が……ノコノコとこちら側に来るとは。命を捨てに来たかコサック……

 生きては帰さないと言わんばかりの殺気を放ちながら現れた存在。それはかつてコサックによって製作されるも、科学省からプロトに接続された電子機器異常の原因だと見なされ、ナビ精鋭部隊に追われた果てにデリートされたはずの世界最初の自立型ネットナビ・フォルテだった。

 瀕死の状態でインターネットを彷徨う中で数多のデータを喰らって生き長らえ、人間への復讐を誓ったのだとフォルテは憎しみに満ちた声で語る。その姿にコサックは内心で悟った。自身も、フォルテも、もう戻れないということを。

「フォルテ、やはりお前と再び相容れることはできないようだな……。お前は必ず人類の脅威となる存在。そうなる前にワタシと一緒に消えるのだ!」
「笑わせるな。人間風情に何ができるという?」
「確かにワタシは人間だが今は電脳世界にいるということを忘れてもらっては困る! 電脳世界ではこういうこともできるのだ!」

 コサックが両手を振りかざすと彼の元に膨大なエネルギーが集っていく。だがその光景を前にしてもフォルテが動じる様子はない。

「自爆するつもりか。愚かな」
「確かに愚かかもしれない。しかし、お前を作り出してしまった責任を取るにはこうするしか方法はないのだ!」
「それしきのパワーではオレをデリートすることはできん。朽ち果てるがいい、力なき人間よ!」

 エネルギーが解き放たれる寸前でフォルテは固く握り締めた拳を振り下ろした。ネットナビはおろか堅牢なファイアウォールすらも容易く粉砕する一撃。人間がそんなものを受けてタダで済むはずがない。コサックの絶叫が辺りに響く。

「コサック博士!」
「おじさん!! おじさん!! しっかりして!!」
…………ワタシはフォルテに何を求めていたんだろうか。世界初の自動プログラムナビ。ただ自分の力を誇示したかっただけなのかもしれない……

 薄れゆく意識の中、コサックは力のない声で紡ぐ。フォルテをデリートしてくれと。

「過去に戻れるのならば……人間のパートナーとして……フォルテを……
「おじさん!!」

 気を失ったコサックへ思わず手を伸ばそうとした熱斗を制止したのは彼の助手を名乗る女性だった。助手は冷静にコサックの脈を取る。

「うん……微かだけどまだ息はある。わたしが博士を安全な場所に連れていくから……君たちは早く先に進むといい」

 コサックの身を案じる気持ちはあったが熱斗たちは彼女のその言葉に従うことにした。自分たちはWWWを止めるためにこの本拠地へ来たのだから。







 一旦船に戻ったマスターがコサック博士を慎重に寝かせると彼はほんの少しだけ意識が回復したようだった。

「コサック博士!! ダメです動かないでください!!」
「ワタシは命を捨てるつもりでここに来た……だが彼らは違う。未来ある子供たちだ……。どうか、あの少年たちを……………………

 震える手がマスターの手を握り、そして瞼と共に落ちる。その身体に毛布を掛けたマスターは深く息を吐いてから船を出て、そしてコサック博士を支えながらゆっくりと歩いてきた道をPETを握りつつ全力で駆け出した。

「あーあーあーなーんでこんなことになっちゃったのかなあ!!」
「外出ダメなのに牛乳買いに外に出たマスターが10割悪いですね。反省してください」
「違います違いまーす! 悪いのは全部プロト復活なんぞ企むクソボケ共でーす! 絶対に五体満足で生きて帰ってホットケーキ作ってやるからなバーカ滅びろWWW!」

 そんな妙に締まらない叫びを聞いていた者は私とクイックマンとフラッシュマン以外には誰もいなかった。