駆動マキナmk-2
2023-05-12 16:30:32
4304文字
Public 雑多
  888123

404 NOT FOUND

岩男EXE/亡霊速

ネクロネクロネクロネクロネクロネクロ あなたは亡霊ナビというものをご存知だろうか。それはネットナビがデリートされた際に発生する現象である。

 バトルに敗れたナビのデータの残骸が消えずに電脳世界に残り、亡霊のように特定のエリアを漂う状態となって近くを通りかかったナビに襲いかかるのだ。そのように厄介な性質だから結構な頻度で被害報告が出る。そして私は今からそんな厄介な亡霊ナビを探しに行くのです。

 申し遅れた。私の名前はネクロ。正式名称はネクロ.EXE。対亡霊ナビに特化した感じでマスターに製作された自立型ネットナビです。どうぞよろしく。

 そして今私が歩いている電脳空間、コトブキエリアではこんな噂が囁かれている。

「コトブキエリアのとある一角を歩くと恐ろしく素早い何かに襲われる」というものだ。辛うじて逃げ延びたナビの証言では赤い色をしていたらしい。初めて捜索する相手がこんな強そうなのとか正直不安でしかないが……ええい、亡霊ナビを擬似的に再現した個体による接触シミュレーションを思い出せ。とりあえず攻撃はされない……はずだ。されなきゃいいなあ!攻撃されませんように! うーんやっぱり不安だ! まあ仮に私がデリートされてもバックアップで復活した私が上手くやるでしょう!







《メットー!》
「はいオジゾウサン。はいバチアタリ」
《メッ、メト~!》

 目標のポイントに到着したが全然出ない。時折ちょっかいを出してくるウイルスをバスターや所持チップで撃退してばかり。襲ってくるウイルスはそこまで強いものではないがこうも連戦続きだと細かいダメージが溜まってくるものだ。

「ちょっと休憩

 座り込んでミニエネルギーを摂取しつつ考える。ここまで居座ってるのに何故現れない? 場所はここであっている。

「接触シミュレーションの亡霊ナビ再現体は私に攻撃してこなかった…………攻撃対象と見なされていないから……襲われない……出てこないって感じ、なのかな

 なら呼んだら出てくる? そんなばかな。
だがまあやらないよりかは試しにやってみる方がいいだろう。

「お、おーい、亡霊さーん? 私あなたに会いたくてこのエリアに来たんですよー、いたら出てきてくださいなー」

 …………………………。返事はない。当たり前かと溜め息を吐いて立ち上がる。もう少しして成果がないなら一旦帰還しよう。最近はネットマフィア・ゴスペルの悪い噂をよく聞くし物騒な事には巻き込まれたく────がしり。「へ?」

 唐突に肩を掴まれて振り返ると、そこにいたのは───

「っ、あ、でっ、でたあああああああッッッ!!?」

 眼前に真っ先に飛び込んできたのは鮮やかな赤のボディ。両手首と額に黄色いブレードが付いている非常に端整なお顔のナビが此方を見下ろしていた。

(気配が全然なかった! “コトブキエリアの一角を歩いてると襲ってくる恐ろしく素早い何か”ってもしかしなくてもこのナビ!?)

 見つめあうこと約5秒。しかし相手が攻撃をしてくる様子はない。

「えっと、こんにちは……?」
………(頷く)」
「亡霊ナビってあなたのこと?」
………(頷く)」

 その口は真一文字に結ばれているが最低限の意思疎通は可能なようだ。助かった。
亡霊ナビはあくまでもデリートされたネットナビの残留データなので言語機能は持ち得ていないのだろう。

 さて、出会えたのは良いがこれからどうするべきか。







 気付いたら自分はここに在った。分かっていたのは己がかつてクイックマンという名のネットナビだったということだけで、この一帯に近付く者をひたすらに叩きのめし続けていたら自分のいる場所はこう囁かれるようになった。

「あの路地には亡霊がいる。迂闊に踏み込むとデリートされるぞ」

 亡霊。実に的確な表現だ。次第に訪れる者は減ったが、それでも時折身の程知らずが好奇心でやって来る。


……うーんと……確かここら辺だよね、」


 今日も何か来たのか。ならさっさと終わらせるだけだ。無防備な背後を取るべく来訪者えものを見据えた瞬間だった。

「ッ

 腕が震え出し、脚部は凍り付いたように動かなくなっていく。

 何故? このざわつきはなんだ?

 あれに攻撃してはいけない。攻撃したくない。

 あれに触れたい。眼前の存在を攻撃するしかない自分が?

 あれと語り合いたい。言語機能などないのに。

 あれの傍にいたい。この区画から出たことなどないのに。

 知らない、知らない、知らない、知らない。自分はこんなもの知らない。空っぽの内側がひどいエラーを吐き散らす。こっちが一方的に認識しているだけでもこんな状態なのに、もし相対してしまったら本当にどうにかなってしまうかもしれない。早く帰ってくれと息を殺して物陰に潜んだのにやって来たナビはこっちの気も知らずに声を張り上げる。

「お、おーい、亡霊さーん? 私あなたに会いたくてこのエリアに来たんですよー、いたら出てきてくださいなー」
「───」

 その言葉を理解した途端に奥底から激しい熱が湧き上がって自分の中の何かが焼き切れた。

 オレに会いたくて来た? オレを求めて?
ああそんな、せっかく耐えて隠れていたのに。そこまで言われてしまったらもう姿を現すしかないだろう。

 軽く地を蹴って後ろに降り立っても気付く様子のない彼女の肩をオレはしっかりと掴んだのだった。







 マスターからは亡霊ナビに出会ったらなるべく連れ帰ってきてほしいと頼まれている。「壁ドン顎クイして『私のモノになれ』くらいの強気でやればいけるいける!」と言われたが初対面の相手に対して流石にそれはどうなんですかマスター。というかこの身長差じゃ壁ドンも顎クイもできませんよ。

…………
(うぇぇ……視線の圧が凄い直視できない)

 今もこうして向かい合ってる瞬間も亡霊ナビである彼の情報は私の記憶データに蓄積され続けている。……もういっそのこと一人で帰ってもいいんじゃないだろうか。そんな不真面目な考えが浮かんだ瞬間だった。

………!」
「ひえ、」

 女性型の私よりもがっしりとした手が頭の横に置かれてそういえば背後が壁だったなーと思い出す。更にもう片方の手で顎を上げさせられて───真っ赤な彼とぱちりと視線が逢った。怒ってるとも苛立ってるとも違う切れ長の澄んだ緑の眼。これは……なんだろう…………焦れている? 言葉を発してはいないのに「オレのモノになれ」といった感じの台詞が聞こえてくるようで……って、というか待ってなんか近くないですかちょっと待って待って待って待っ、







こいつは……えーっとデータ照合データ照合……数週間前におくデン谷のダム爆破騒動を起こしたゴスペルの一員が有していたナビの亡霊っぽいね。爆破は未遂で終わったらしいけど。名前はクイックマンだって。

あの、その情報源って……。マスターちょっと前にオフィシャルのサーバーにハッキングしましたよね? ゴスペルの襲撃直後でドタバタしてる中にインビジブル123*ガン積みフォルダとシノビダッシュをたんまり持たせた私をこっそり送り込んで。

そうだねえ。したねえ。

あれってこの為だったんです?

てへぺろり。

本当にこの人はもー!!







「ほい解析終わりっと。お疲れー。それじゃまたあとでねー」

 彼───クイックマンのデータ解析を終えてPETを充電器に接続したマスターは夕食の準備をしに台所へ向かっていった。静けさの訪れた空間の中でその場に座り込むとクイックマンも同じようにして私の横に腰を下ろす。このナビさっき自分が何をやったのか忘れたわけじゃないだろう。こっちはまだあのふにっとした感覚が唇に残っているというのに。

「あ、あの、クイックマンって亡霊ナビになる前のことは覚えてないの?」

 またあの少女漫画や乙女ゲーのような挙動をされるのではと思い、咄嗟に話題を挙げると彼は小さく頷いた。

「亡霊ナビになる前の、自分のオリジナルのこと、知りたいと思ってる?」

 今度は首を振られて否定される。デリートされる前の自身に関心は無いようだ。亡霊と称されるくらいだから恨みや未練が渦巻いてるような感じなのかと思っていたが意外にもさっぱりとした思考をしているのかもしれない。







 ネクロ。それが彼女の名前。オレを求め、オレの元に現れたオマエの名前。

 だがオレを探しにコトブキエリアを訪れたのは正確にはネクロの製作者が亡霊ナビの研究をしてるとかで、彼女はその手伝いでやって来た……というのが実情のようだった。
 それを理解した時のオレの心境はそれなりに複雑なもので文句の一つくらいは伝えたかったのだが、ネットナビの残骸データから生まれて言語プログラムを持たない身では無理な話だった。

 まったく、眼前の存在をデリートするのに対話機能など必要なかったのに、今となってはそれがないのがこんなにももどかしいとは。

「あ、あの、クイックマンって亡霊ナビになる前のことは覚えてないの?」

 こちらの考えなど知るよしもないネクロから投げ掛けられた問いにオレは頷くことで肯定の意を示す。

「亡霊ナビになる前の、自分のオリジナルのこと、知りたいと思ってる?」

 いいや、特に興味はない。今度は首を横に振る。オリジナルのクイックマンにはオペレーターがいたようだが、このクイックマンオレはソイツとはもう別物だ。

「ミ゜ッッッ」

 華奢な身体を抱き寄せると怯えたように鳴いてじたばたしてきたので逃げられないよう腕に力を込めてしっかりと閉じ込めてやる。なるほど、溜飲が下がるとはこういうやつか。

 電脳世界の片隅でただ刃を振るい続けるだけだった寄る辺のない亡霊。そしてこれからは亡霊ナビを律する存在である彼女に連れ添う亡霊。オマエはオレを“そういうもの”に変貌させたんだ。オレを狂わせたバグらせた責任はしっかり取ってもらう。








 そしてネットマフィア・ゴスペルの壊滅から数ヶ月後。


「そうだネクロ、ちょっと頼みがあるんだけど。クイックマンだけだとデータが足りなくなってきてさ。また適当に亡霊ナビ探してきてくれる?」

 これを切っ掛けに、ぴかぴか光る無愛想な亡霊ナビどうぞくが増えるのだがそれはまた別の話だ。