駆動マキナmk-2
2019-03-29 20:00:34
1610文字
Public 雑多
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さよならどうか良い終末を

エクシーズ次元の女の子とカード名にP(ペンデュラム)の付いてなくてバニラの方の竜魔王の話

■■■■■■■■■ その日、全てが地獄と化した。

 特別でもなんでもない当たり前の日常を根底から破壊したあの集団が憎い。暴虐の限りを尽くした分際で俺の所有者に何を償えるのだ。カードに囚われた者が帰ってきても命を落とした者は決して帰ってこないというのに。

 崩れ落ちた瓦礫によって二人の人間が赤く圧し潰された光景に血を吐くような慟哭を聞いた。凍える夜が訪れる度に薄い毛布の中から啜り泣きを聞いた。全てが終わった果てに再会を果たした者たちが抱き合う中、ただ一人の「私にも返してよ」という微かな吐き捨てを聞いた。

 己が憎い。実体の無い存在であるが故に所有者の涙を拭うことすら叶わない我が身が堪らなく憎い。娘よ。俺を所有する人間の娘よ。燃え盛る街の中で唯一無二の父母を喪い、それでも泥に塗れてでも逃げ続けたお前を俺は横行する理不尽からも陳腐な結末からも庇護することができなかった。





「こんな世界もうどうでもいいや」

 少しずつ復興されていくハートランドの外れ、瓦礫に溢れて未だに手付かずの地帯へ特に何の目的も持たずに訪れた彼女の熱の無い声が晴れ渡った空へ溶け消えた。言葉の意味を理解した途端に意識の果てでざわりざわりと熱が目覚めて自身の存在の輪郭が鮮明になっていく。

ぶちり。ぶちり。ぶつん。

 身体に纏わり付く不可視の抑圧を力任せに引き千切る。邪魔をするな、目障りだ消えろ。俺は今度こそ彼女の願いを叶える。それが人の道理に反する行いだろうと人でない俺からすれば知ったことではない。感情に意識に思考に自我。もはや彼女以外の存在に己が有するものを費やす必要性は消え失せた。

■■■■■■よ。我が所有者。お前がこの世を疎むなら、お前をこの世から引き離せるならば、俺は俺を喜んで使い潰す。

 そして俺は自身と彼女を隔てる最後の境界線、眼前に在る四角の枠を躊躇いなく踏み越えた。





 もう使うことなんて無いと思っていても捨てることは到底できずにいたデッキケースから影が落ちた。舗装の砕けた地面に黒い水溜まりが無音で広がり、声を出す間もなく立ち上ったそれが人影を形成する。これは白昼に見る夢なのだろうか。昔まだ平和だった頃にデュエルでこれでもかと愛用していた彼の名前を私が知らないはずがない。

……………ベクター?」

 青年にも少年にも見える整った顔立ちをしたドラゴン族の名前を紡げば無風の景色に白銀の髪が靡く。外套のように身体を覆い隠す竜翼は日の輝きを呑むほどに黒い。ゆっくりと開かれた赤眼が静かに笑った。

「如何にも。俺はお前の、お前だけの竜魔王だ。なあ我が所有者。父も母も帰らぬ者となった娘よ。お前の遺恨はいつか晴れるものなのか?」
…………できない。無理だよ」
「ああ、そうだろうな」

 デュエルもソリッドビジョンも無いまま現れた自分のモンスターとごく自然に言葉を交わす。それは幼い子供でも分かるくらいの異常な事態だったが、とうに感性が擦り切れた自分の心では驚きや疑問の念など湧かなかった。

「許さない。忌まわしい。認めたくない。許容できない。恨むべきじゃないのにカードから解放されて再会できた人たちが恨めしい。私には家族を返してくれなかったこんな世界、大ッ嫌い」
……そうか。ならば、」

どうかこの悪しき竜に拐われてはくれないか。

 涼やかで落ち着いた低音が響き、鋭利な爪を有する人外の手が差し出される。それは魔王の名を冠する者に相応のひどく禍々しいものだ。

「行こう。■■■

 その手が恐ろしい形でも向けられる微笑みはどこまでも穏やかで。たとえ向かう場所が地獄の底や黄泉の国だとしても彼の手を払い除ける選択肢なんて私には無かった。


 無人の郊外に颯爽と風が吹き抜ける。忘れられたように地面に落ちていた白紙のカードを一枚、蒼い空へ連れ去っていった。