芹沢亀吉
2024-11-11 22:23:11
2741文字
Public 怪奇
 

「111」の謎

暴虐な軍国主義者の楠木武が恥をかく物語の通算111話目。残忍描写濃い目なので閲覧注意。

「またあの夢を見た。一体何だ?」

 そう呟く楠木くすのきたけし一等陸佐は髪の毛も口髭もボサボサかつ背中が汗だらけ、両目の下にはクマが目立つ。最近この一等陸佐は真っ白な空間に巨大な赤文字の「111」が映る夢を見ては目を覚まし狼狽えるのを繰り返している。

「あなた、大丈夫ですか?顔色が悪いですよ。」

「黙れ久代ひさよ!不倫女の癖に善人面するなぁ!」

 心配げな表情を浮かべる配偶者久代に逆上しぶん殴ろうとした武ではあるものの、彼女の姿がフッと消えた。実のところ武は久代に不倫したと難癖をつけ暴力を振るい続けた挙句撲殺しており現在彼女の遺体は重石を付けられ海の底。配偶者殺害並びに死体遺棄への後ろめたさから見えた久代の幻影をぶん殴ろうとした武は勢い余ってベッドから転げ落ち右足を捻挫する羽目に。

「楠木一佐、この捻挫は一体どちらで?」

「つべこべうるさい!口を動かす暇があるなら手を動かせ!この温厚な楠木を怒らせるな!」

 篠田山駐屯地内の医務室にて捻挫の手当てをしてくれている医官に怒鳴り散らす殺人犯楠木は幻影をぶん殴ろうとしてベッドから転げ落ち恥をかいた件を隠すのに必死なのだろう。前述したように家庭内暴力並びに配偶者殺害も隠蔽、さらに気弱な軽部かるべ孝士たかし一等陸士に暴力を振るい続けた挙句殺害した件は訓練中の事故として処理とこの外道は本当に隠蔽だらけ。

 途端に楠木の周囲が真っ白な空間になり目の前にまた巨大な赤文字の「111」が浮かぶ。

「う、うわああああ!」

 絶叫して廊下へと飛び出す口髭男を目の当たりにし、医官は開いた口が塞がらない。

 楠木は幹部自衛官故年収もそれなりの額とはいえ、少し前に全財産を株に注ぎ込み大損した身。そんな楠木が破産せずに済んだのは部下達と共に所謂特殊詐欺に手を染め何の罪もない民間人達から大金を騙し取ったからだ。軍国主義を信奉する楠木は「国を守るためなら一般人を何人犠牲にしても構わない」という姿勢故大金を騙し取られた民間人がどうなろうと心の痛みを全く感じない。それどころか「国を守る自衛官である自分に全財産を差し出すのは一般人の義務」とまで考えていてまさしく腐れ外道。ちなみに前述の軽部は特殊詐欺への加担を拒み逆上した楠木に首を絞められ命を落とした。

 その夜楠木は右足を引きずりながら信太山駐屯地近辺の自衛官用宿舎の一室へと向かう。その一室は内部がコールセンターのようになっていて、大金を騙し取るため標的の民間人に電話する「掛け子」の陸自隊員がズラリと並ぶ。

「楠木一佐、俺本日のノルマ達成しましたよ!ところでそろそろ俺の取り分を少しばかり増やして欲しいのですが。」

 楠木にそう話す湊川みながわまもる二等陸曹は以前軽部をいじめていた外道の1人。SNS上の高齢者叩きに感化され「老い先短い者が大金持っていても意味が無いから若者である自分が代わりに使う」などと自分勝手な考えから特殊詐欺に手を染めている。

「うむ、湊川よ。歯を食いしばれ。」

 そう言うや否や楠木は湊川の顔面に拳骨を叩き込んだ。

「そろそろ取り分を増やせだと!?湊川貴様図々しいにも程がある!この楠木は毎日汗をかけとは言ったが恥をかけとは言っとらん!そもそも我々の活動は大東亜共栄圏再興の軍資金を稼ぐためのものだと最初に言った筈だ!そんなこともわからんなら軽部と同じ目に遭わせてやってもいいんだぞ!」

 楠木に脅され奥歯をガチガチ鳴らす湊川を眺めながら乃木のぎまさるが嫌らしく微笑む。この一等陸曹も軽部をいじめるのを楽しんでいた点は湊川と全く同じ。

「楠木一佐、湊川みたいな馬鹿は取り分無しで良いじゃないですか。」

「乃木、その湊川から聞いたぞ。貴様我々が汗水流して稼いだ軍資金をくすねてキャバ嬢に貢いでいたそうだな。湊川から証拠の映像と画像もちゃんと受け取ったから最早言い逃れの余地は無い!この不埒者がぁ!」

 楠木は青筋を立て怒鳴りながら精神注入棒を振るい乃木の顔面を打ちのめした、棒が折れるまで何度も何度も。そもそも一般人から大金を騙し取るのを「汗水流して稼いだ」と称するなど言語道断だが。

 数分後、物言わぬ屍と化した乃木の顔面はぐちゃぐちゃに潰れ、異性にモテたい下心から毎朝時間をかけ整えていた頭髪には血糊がべっとり。

「フン、軟弱者め。ほんの少し軍人精神を注入してやっただけなのにあっさりくたばるなど自衛官失格だぞ。おい誰かこのボロクズを片付けておけ!放っておくとウジ虫が湧いてくるからな!」

 自身が撲殺した乃木の遺体をボロクズ呼ばわり、この外道には最早僅かな良心さえ無いのだろう。

 突然楠木らがいる室内が真っ白な空間と化し、巨大な赤文字の「111」が浮かび上がった。

「か、身体が動かん!一体これはどういうことだぁ!」

 金縛りに遭い全身の自由を奪われ楠木らが狼狽える中、巨大な赤文字がズズズズと音を立てて動き始め特殊詐欺に手を染めた外道自衛官共が1人、また1人と全身を切り刻まれ絶命していく。シュレッダーに放り込まれた紙が細かく切り刻まれるのと同じように。

「来るなぁ!こっちに来るなぁ!この楠木は楠木正成公の末裔だぞ!他の雑魚共はいくら切り刻んでも構わんからこの楠木だけは止めろぉ!」

 そう叫んだ楠木はまず服と下着を細かく切り刻まれ、間髪入れずに運動不足と缶コーヒーの飲み過ぎが祟り贅肉だらけの裸体も細かく切り刻まれた。巨大な赤文字が服ごと全身を切り刻んだ他の自衛官と違い楠木だけは一旦全裸にしたのは恥をかかせたかったからだろうか。

 武が直接手にかけた人間は久代、軽部、そして乃木の3人、楠木らの特殊詐欺の被害に遭い自ら命を絶った人の人数は108人、それらを足すと111人。ここ数日楠木が見た巨大な赤文字の夢は命を奪った人数が111人に達すると呪いが発動するからその前に止めろという警告だったのだ。結局楠木はその警告を無視し発動した呪いにより詐欺グループのメンバー共々全身を細かく切り刻まれたのである。

 翌日楠木らの特殊詐欺の拠点に踏み込んだ捜査官達は息を呑んだ。部屋の中はあちこち血まみれ、天井にべっとりと付着した楠木の血肉は血文字の「111」に見える。血だらけのパソコンには詐欺の証拠が全て保存されており、楠木らの犯罪行為は瞬く間に世間に知れ渡った。誰が撮ったのか武が久代を殺害した瞬間、久代の遺体を海に沈めた瞬間、鬼のような形相の楠木が軽部の首を絞め命を奪った瞬間、更には全身を切り刻まれる直前の楠木の全裸姿もネット上に画像が拡散され世間に知れ渡りましたとさ。(終)