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kaede
2024-11-11 12:52:46
3963文字
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ポッキーの日の燐音くんとニキと一彩くんのはなし
一彩くん愛され燐一・ニキひい
⚠️はなしの中でポッキーの日と明言してないことに今さら気づきましたが細かいことは気にしないでください
「ここはお兄ちゃんの俺が先に決まってンだろ」
「お兄ちゃんならお兄ちゃんらしく、年下の僕に譲ってくれていいと思いますけど?」
「おめェのお兄ちゃんになった覚えはねェよ」
「ていうか小さい頃からそうやって一番を独り占めしてきたんでしょ? だったらたまには僕が先でもいいじゃないすか」
「おめェ、俺っちがそんなお優しい人間に見えるのかよ」
「見えませんけど」
「ンだと!?」
「自分で振っておいてキレるのやめてくれません!?」
そんな会話が僕を挟んで行ったり来たりするのを、しばらくは黙って眺めていたのだけど。
二人が
……
兄さんと椎名さんが仲良くしているのを見るのは好きなんだけれど。
好きという感情それだけで心が満たされていたはずなのだけど。
最近は、少し、もやもやした異物が混ざってしまうことがある。
一緒にお茶しよう、と兄さんと椎名さんに誘われて、たいていは僕たちの部屋のソファに三人並んで座って、僕を間に入れてくれた二人の楽しそうなおしゃべりを聞かせてもらう。
いつも通りの、僕が大好きな光景なのに。
好きな気持ちはちゃんとあるのに。
最近は、もやもやの方が増えてきているような気がして、僕はそれが、少し、落ち着かない。
兄さん。
椎名さん。
何度も二人に呼びかける準備をしているのに。
「だいたいよォ、このポッキーを用意したのは俺っちなんだよなァ〜」
「割り勘で買うって言うから出したお金じゃ買えないですよね、このお菓子の山。パチンコで交換したやつですよね。ってことは実質僕が買ったのと同じじゃないすか」
「元手を増やしてでかい利益を得る、って戦略だよ、戦略」
「人のお金でギャンブルなんて最低っす」
「言っとくけどおめェの金は使ってねェから」
「じゃあ返してくださいよ!」
「へ〜え、ニキくんはこのポッキーを食う権利を放棄するってワケだ。返したら一切出資してないことになるもンなァ」
「あれ? そういうことになっちゃいます? それは困るっす!」
二人の会話があまりにもシームレスで、入り込む余地がない。
……
ううん、本当は。
膝を抱えて黙り込むことしかできないのは。
「ごめんな、一彩」
「ごめんなさい、弟さん」
「
……
え?」
僕の前を素通りするだけだった会話の先が急に僕になったから、びっくりする。何か聞き逃したことでもあったろうか、と記憶に残っていた会話を頭の中で反芻してみたけれど、やっぱり、僕の話は一切していない。
なのに、どうして?
胸の辺りでぐるぐるしていたもやもやが、あたたかいふわふわになる。
「ほったらかしにしてごめん」
「ほったらかしにしてごめんなさい」
そう言って、兄さんと椎名さんが僕の髪にキスをする。
少しだけ、泣いてしまいそうな、そんな気持ちになった。
悲しいからじゃなくて。
ずっと寒いみたいになっていた心が、二人の熱で少しずつ温まって、もやもやがふわふわになって、体積が増えたからあふれて。
嬉しくて。
嬉しい。
嬉しい。
「僕、ほったらかしにされて、寂しかった
……
のかな」
「一彩
……
」
「
……
うん。二人があまりにも仲が良くて、僕が入り込む余地なんかないんだ、って思い知らされて、悲しくて、羨ましかったのかもしれない」
「弟さん
……
」
「でも今は、二人が僕のことを見てくれているから、寂しくないよ。とても嬉しいな」
仲の良い二人の間に入れてもらえていること、それだけでとてもありがたいことなのに、それだけでよかったのに、僕はいつからこんなにも、強欲になってしまったんだろう。
二人に放っておかれて寂しい、なんて。
そんな身勝手な感情を二人に見抜かれていたのが、恥ずかしい。
「兄さんたちは僕に、呆れたかな」
「何でだよ」
「悪いのは僕たちだけで、弟さんはなんにも悪くないじゃないすか」
二人のそれは、僕を気遣って出た慰めではなくて、本気でそう思っているようで、二人がそう言うなら、僕は。
僕は、寂しい、って気持ちをどうにか処分する必要はないのだろうか。持ったままでいいのだろうか。
「兄さん」
「うん」
「椎名さん」
「はい」
「
……
僕を放って、二人だけで仲良くしないで」
そう言ってしまってから、やっぱりこんなこと言うべきではなかった、と今さら思ったところで、数秒前に戻ることは永遠にできない。
できるのは。
「自分勝手なことを言ってしまってごめんなさい」
失言を謝ることくらいだ。
僕は立場をわきまえなくてはいけないのに。
「一彩」
呼ばれて、振り向くと同時に、兄さんの唇が僕の唇を柔らかく撫でる。
「俺たちの中心にいるのはいつだって、お前だよ」
「一彩くん」
後ろから掛かった声へ振り返ると、椎名さんの唇が僕の唇の上で弾んだ。
「君のことが好きで、だから取り合いみたいなことしちゃったんす。でも、それで君を悲しませるのは間違ってますよね」
僕が、中心? 取り合い?
それってつまり、どういうことだろう。
「
……
ええと、つまり兄さんたちは、僕の話をしていた、ということ?」
確信というよりは、そう考えればそれなり辻褄が合う、程度の認識で問うと、二人はうんうんと大きく頷いた。
「おうよ」
「そうっす」
そうなのかな。
僕の名前は一度も上がってなかったはずだけど
……
。
でも、二人が嘘をついているようには見えないから、合ってはいるんだろう。よくわからないけど。
でも、これだけはわかる。
「僕は兄さんと椎名さん、二人とも大好きで大切だから、取り合いをされても困るよ」
どちらか一人なんて選べないし。
僕がそう続けると、兄さんと椎名さんはきょとんとした顔をお互い見合わせて、それから、ふっと吐息を漏らした。それだけで、部屋の空気が暖かく色づくような、優しい吐息を。
「
……
こりゃ一本取られたなァ」
「そっすね」
二人が何を納得し合っているのか、僕にはさっぱりわからない。でも、さっきみたいな寂しさは感じなかった。
それは多分、二人の手が僕の身体と、その中心にある心を温め続けてくれているからだ。
頭を撫でられたり、肩を抱き寄せられたり、手を握ってもらえるのがとても、嬉しい。
「でも二人同時にはできないっすしね
……
まあここは、一彩くんに免じて燐音くんに譲ります」
「いいのかよ」
「その代わり、次に何かする時は僕が先っすからね」
「つーかよォ、別にポッキー使わなくてよくねェ? どうせやるこたァ、ひとつなんだからよ」
「じゃあ何のためにポッキー買ってきたんすか」
「買っちゃいねェけどな」
「屁理屈はいらないんすよ」
「兄さん、椎名さん」
会話の途中で失礼かと思いつつ。
僕に触れている手がおろそかになっているように感じて口をはさむと、兄さんが目を細めて眉を下げる。
「いやいや、この話の中心はおめェなンだからよ、そんな顔すんなって」
「そうっすよ。燐音くんはやらなくていいらしいんで、僕としましょうね」
そう言った椎名さんの左手にはいつの間にか、ポッキーがゆらゆらゆれていた。
「俺っちに譲るンじゃなかったのかよ」
「ええと
……
何をするのかな?」
「ポッキーゲームっすよ」
「ポッキーゲーム? というと、最後までポッキーから口を離さない方が勝ち、という度胸試しのことかな?」
確か藍良からそんな話を聞いた気がする。
「言い回しが独特っすね
……
でもまあ、そういうことっす
……
って、つい食べちゃったっす」
なはは、と柔らかく笑いながらポッキーをもう一本取り出した椎名さんを見て、何がきっかけなのかは自分でもわからないけれど、ふと気づいた。
「もしかして、どちらが先に僕と勝負するかで揉めていたの?」
「まァ、そういうことになるかァ?」
兄さんの腕が僕の腰に回って、密着する面積が増える。兄さんとくっつくのは好きだから、嬉しい。
「そんなの、公平にじゃんけんで決めれば良かったのに」
「この人が公平なことすると思います?」
「ええと
……
」
そう言われると、答えるのがちょっと難しい。兄さんの人格を否定する気はないし信じてもいるけれど、狡猾なところがあるのは否めないから。
「だいたい僕は負ける気はないから、先攻後攻はあまり関係ないと思うよ」
だから少しずるいかなとは思ったけれど話の矛先を変えると、兄さんが僕の顔の横で笑った。
「へェ、じゃあやっぱポッキーいらねェじゃねェか」
「こういうのはムードが大事なんすよ。はい、一彩くん。僕と勝負っすよ」
口元に突き出されたポッキーを、ほぼ反射でぱくりとくわえた僕を見て、椎名さんが笑う。
その時になってようやく僕は、気づいた。
「だから最初は俺っちじゃねェのかよ」
「ゲームする気ない人は黙っててください」
どうして兄さんがポッキーはいらないと言ったのか。
どうして椎名さんが罠に掛かった獲物を見るような目をして笑ったのか。
お互いに譲らない度胸試しの最後が、どうなるのか。
今さら気づいたところで、兄さんにがっちり腰を掴まれているこの状況ではどうすることもできないのだけど。
どうする気もないけれど。
むしろ。
今なら兄さんの意見に賛成だ。とは思ったけれど、椎名さんがゲームをしたいなら、その気持ちは尊重したいから。
だから。
くわえたままではうまく喋れないから、ポッキーごと、唇を突き出す仕草をしたら、椎名さんは少しだけ驚いたような顔をして、でもすぐに意図を察して、反対側の端をくわえた。
だから、早く食べて。
今度は揉めたりしないで、二人で、仲良く。
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