Ca(か)
2024-11-10 23:27:38
8084文字
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family account

絵本の読み聞かせを通して、メラックの音声認識機能に新しくアルハイゼンを追加する話




 いつもより早めの夕食を終え、入浴までにもう少しだけ読書の続きをしようとリビングを見回したアルハイゼンは、そこでふと見慣れない一冊に目を留めた。積読のいちばん上に置かれたそれは傷みの見られないきれいな絵本で、買った覚えはないもののその表紙とタイトルには思い当たるものがあった。幼い頃に祖母に読み聞かせてもらった本のひとつで、細かい内容はあまり思い出せないが——たしか最後は、おつかいを終えたコサックギツネの子どもが母のところへ帰って終わりだったような気がする。雨林では見かけることのないコサックギツネの物めずらしさのために何度か祖母にせがんだ話だったが、あとから「てっきりお母さんというものに憧れて、何度も読みたがるのだと思ったのよ」と祖母から聞かされた。遠い記憶の両親について恋しく思ったこともないわけではなかったが、その寂しさを埋めてなお余りある愛情を祖母が注いでくれたおかげで、幼いアルハイゼンはじゅうぶん幸せだった。祖母のいる家はなにより安心できた。だからきっとコサックギツネの子どもも、おつかいを終えて家に帰り着いたときはどんなにか安心しただろう——と思ったことを覚えている。
 あの絵本は家の奥のほうにしまっているはずで、何度も本棚から引き出したから背の部分には爪の跡がついていた覚えがある。こんなふうにぴかぴかであるはずはなく、となるとこの一冊は——と考えていると、洗い物を終えたばかりのカーヴェが濡れた手をエプロンの裾で拭いながらああそれ、と声をかけた。

「僕が買ったんだ。君に読んでもらおうと思って」
……眠れないなら俺に読み聞かせを頼むより、自分の生活習慣を顧みるべきだと思うが」
「ええ? 違うよ、読んでほしいのは僕にじゃなくてメラックにさ。メラックの音声認識機能に君の声も登録しておこうと思って」

 自分の名前が出たことで、カーヴェの傍らでふよふよと浮いているメラックがピッポ!と短く鳴いた。

「家の用事とか、僕への伝言とか。そういうちょっとしたやりとりなら君もできたほうが便利だろ?」
「一理あるが、絵本の読み聞かせで登録を?」
「ああ。日頃の僕との会話でじゅうぶんな蓄積データはあるから、あとは君の声や話し方の情報があればいい。サンプル用の文章はなんでもいいけど、話し言葉も挟まるし抑揚もつくから、絵本みたいに短くてオチのあるようなのがちょうどいいのさ。会話テストも合わせて何度か試していけば、この子はそう遠くないうちに君の言うことも理解するようになる」

 なるほど。アルハイゼンは納得した。メラックはカーヴェと一緒に過ごすなかで多くのこと——言葉だけでなくひとの習慣、ものの働きなど——を学習し、最近ではより細かな指示を理解できるようになったと聞いている。多くの単語を理解できる今、メラックの中にある言語モデルや発音辞書に新しくアルハイゼンの声を当てはめていくことはそう難しいことではないだろう。メラックのほうを見れば「任せてほしい」と言わんばかりに上下に揺れていた。

「君が帰るまでのあいだに僕はもう読んで聞かせたから、あとは君が読めばメラックは学習を始める。まあそうは言っても急ぎじゃないから、今じゃなくても——
「いや、今からでいい」

 え? とカーヴェが聞き返すよりも先にアルハイゼンは絵本を手に取った。内容のおさらいがてら開いてみれば、めくられるページに仰がれてふわりと新しい本の匂いが鼻に届いたので、懐かしい感覚に目を細める。幼いアルハイゼンは古い本の少し埃っぽい匂いや染み込んだインクの匂いも好きだったけれど、それと同じくらい、新しい本を初めて開いてみたときにいちばん強く感じられるあの、紙と糊のぱりっとした匂いが好きだった。そして夢中で字を追いかけて、祖母に肩を叩かれるまで——あるいはいつの間にか本を開いたまま眠ってしまって、毛布をかけてもらっていたことに気づくまで、飽きることなく一冊の中に深く潜り込んでいた。
 絵本から児童文学、そして学術書へと読む本のジャンルは変わっていってもそれは変わらず、大人になった今でも新品の匂いには心が上向く。一面の雪景色に最初に足跡をつけるときのような、ささやかな興奮。匂いは記憶に最も強く結びつくと言うけれど、なるほど確かに一瞬で幼少期の心の湧き立ちを思い出した。

「アルハイゼン、君、読みたい本があったんじゃなかったのか」
「気が変わった。今はこれが読みたい気分だ」

 そう言ってほんとうに読み込むように時間をかけてページをめくりはじめるアルハイゼンを見て、カーヴェは思わず面食らった。しかし聞き返すまでもなく、アルハイゼンが本気で言っているというのは一目瞭然だった。今の彼の興味の半分はメラックの音声登録に、そしてもう半分は絵本に向けられている。思いがけない前向きな姿勢に目を疑いつつも、アルハイゼンの気が変わらないうちにとカーヴェは急いでエプロンを脱ぎ、サンプル収録の準備に取り掛かった。



——よし、できた。いいか、僕がこれから合図をしたらメラックは録音モードに入る。そのあと僕はもう終わりまで喋らない。アルハイゼン、僕が頷いたら、君のタイミングで読み始めてくれ」

 メラックの集音レベルを調整し終えたカーヴェはそう言って、少し離れたカウチに腰掛けた。メラックにとって衣擦れや身動ぎ程度の雑音は録音の妨げにならないが、それでもないに越したことはない。映影の監督のように陰からの合図出しに徹するつもりのカーヴェに対して、アルハイゼンはわかったと短く返した。

「さてメラック、準備はいいかい」
「ピ!」
「よし、オーケー。それじゃ——録音開始」

 カーヴェの指示の直後、メラックが小さくキュン、と聞き慣れない駆動音を出して、アルハイゼンをじっと見つめるようにして浮かぶ。録音が始まったのだ。
 メラックの様子を確認したカーヴェがこくりと頷く。アルハイゼンはそれを合図に、すうと息を吸い込んだ。

——『水筒を買いに』」

——砂漠の砂を飛び回り、コサックギツネの坊やは言いました。お母さん、お母さん。喉がすぐに乾いちゃう。トビヘビたちと遊びたいのに、水辺を離れられないよ。お母さんは言いました。坊や、坊や、そうしたら、水筒を買わなくっちゃいけないね。お水を入れて行き行き飲めば、水辺を離れてもへっちゃらよ。

……ふ、ふ」

 アルハイゼンが落ち着いた声色でゆっくりと読み上げるなか、途中で声とも言えないほどの声が漏れ聞こえてきた。音のほうへと視線をやれば、そこではカーヴェがこみ上げる笑いを誤魔化しきれずに震えている。録音中なので堂々抗議するわけにもいかず、アルハイゼンがじっとりと視線だけで非難すると、カーヴェは「ごめんごめん、もうしない。続けて」と口元を揉んで誤魔化しながらジェスチャーで返してきた。そんなカーヴェに呆れつつ、次はないぞとひとつ咳払いをして、アルハイゼンは続きを読み始める。

——小窓の外から伸びた手が、店主にモラを渡します。その手がキツネのものなので、店主はひどく驚きました。
——いいかいぼうず、くれぐれも、帰りにゃ気をつけるんだよ。帰るまでがおつかいなんだ、寄り道せずに行くんだぞ。
——坊やは飛び跳ねすっ飛んで、もと来た道を帰ります。早くお母さんに会いたくて、ぴかぴかの水筒を見せたくて、坊やはまっすぐ帰ります。
——そして親子は寄り添いながら、巣穴の中へと帰ります。おつかいできてえらいわね、とほめられたのがうれしくて、坊やはにこにこ笑うのでした。

……おしまい」

 結びまできちんと読み、絵本がそっと閉じられると同時にメラックの駆動音が止んだ。一拍置いてディスプレイにはマルがひとつ表示される。どうやら無事に録音が完了したらしかった。

「アルハイゼン、おつかれ。メラック、ちゃんと録音できたかい?」
「ピッポ!」

 メラックはその場でくるりとひとまわりして応えた。

「うん、問題なさそうだな。それじゃあメラック、部屋に戻って分析を始めてくれ。僕もあとから部屋に戻るよ」
「ピポピ」
「ああ。おやすみ」

 ねぎらうようにカーヴェに上面を撫でられたメラックは、律儀にひと鳴きしたあとふよふよとカーヴェの部屋へと戻っていった。「おやすみ」という言葉をスリープモードへの移行の合言葉にしているからか、カーヴェの声色はやわらかい。それともメラックのことを特別に思うからこそ、ほんとうはなんだっていいはずのコマンドに「おやすみ」という言葉を宛てたのか——どちらが先だったのか、アルハイゼンにはわからない。けれど悪くない響きだと思っている。口にしたことはまだないけれど。

 部屋にまっすぐ帰っていくメラックの背面を見送ったカーヴェは、やがてアルハイゼンのほうへと向き直り「それにしても」と口を開いた。

「君がさっそく読んでくれるなんて思わなかったな。急ぎのことじゃないからいつだって構わなかったけど、どれだけ早くても明日か明後日くらいになるだろうと思ってた」
「俺は誠実な人間だからな。頼まれれば協力するのもやぶさかじゃない。人に頼んでおきながら、丁寧に読んでいるのを見て笑うどこかの誰かとは違ってな」
「ふふ、ごめんって。でも可笑しくて笑ったんじゃないぞ。君の声があんまり優しいから、子どもに読み聞かせをしてる親みたいで微笑ましかったのさ」

 目元を緩ませたカーヴェの言葉に、アルハイゼンは水を取ろうとした手をぴたりと止め、目を丸くした。面食らったような、驚いたような顔をするアルハイゼンのことを不思議に思ったカーヴェも、一拍遅れてはっと気付く。
 メラックを作ったのはカーヴェなのだから、メラックにとってカーヴェは親のような存在だと言える。そんなメラックに読み聞かせをするアルハイゼンもまた親のようだと言うのなら、それはつまり——……

……
……

 気まずいような、しかしどことなく甘酸っぱい妙な沈黙が流れる。頬に熱が集まるのを自覚しながら、カーヴェは目線を右往左往させて沈黙を打ち破るべく言葉を探した。

「いや、その、えっと……やっぱり、今のなし」
……はあ」

 アルハイゼンは肩をすくめて大げさにため息をついてみせた。忘れてやる、という言外の含みを汲んだカーヴェはまだなにか言いたそうにしたものの、結局なにも言えないまま口元をもにょもにょさせて赤い顔を逸らした。
 ここ最近、カーヴェのアルハイゼンを見る目が以前とは変わってきたことに、アルハイゼンはとっくに気づいている。それでもアルハイゼンは自分からアプローチをしたり、カーヴェが自分のほうへ進みやすいように助け舟を出してやるつもりはなかった——少なくともカーヴェがまだ、自らの心の変化に戸惑っているうちは。
 待つことなら慣れている。それも筋金入りと言ってもいい。どれだけ時間がかかっても、カーヴェ自身の口から出るその言葉をこそ待とう、とアルハイゼンは決めていた。


「で、次は?」
 いつまで経ってもこそばゆいばかりの空気を変えてやろうと投げかけたアルハイゼンの問いに、カーヴェはぱっと学者の顔つきになって振り向いた。
「次……そうだな、別の絵本を探さないといけないから、それが手に入り次第だろうな。知恵の殿堂に絵本の類はないし、トレジャーストリートで買うにしても種類があんまりないし……
「絵本が欲しいなら、書斎の奥に俺の幼少期のものがある。それで良ければいくつか見繕うといい」
「君の? ……いいのか?」

 うん、とアルハイゼンは頷いた。

「なにか問題が?」
「いや、なんていうか……大事なものだろ、そういうのって。そりゃあ僕だって雑に扱うつもりはないけど、ほんとうに僕が触ってもいいのか」
「構わない。君はかたちある本の取り扱いについて心得がある人間だ。それに——
「それに?」
「学術書がそうであるように、絵本もまた読まれるためのものだ。俺が読まなくなった本が、次の誰かのために読まれるのであれば、仕舞い込んでいるよりずっといい」

——その誰かが、家族じゃなくても?」
おずおずとカーヴェが訊く。
「それが血縁でなくとも、ひとでなくとも」
アルハイゼンはもうすっかり当たり前だ、と言うように返した。

……そうか」

アルハイゼンの返答を噛みしめるように、カーヴェは一言呟いた。

 学術書を知恵の殿堂に寄贈するのが歓迎されるのは、それがこの国における富——知恵を分配する行為そのものだからだ。ならば絵本を受け継ぐことで分け与えられるものはなんだろう、とカーヴェは考える。アルハイゼンの祖母や両親が彼のために残したその本たちは、アルハイゼンに確かになにかをもたらして、そして今、アルハイゼンはそれを分けてもいい、と思ったのだ——血縁者ではないカーヴェや、ひとではないメラックに。
 アルハイゼンにとっての絵本がただの子ども騙しではないことは、先程の読み込みようを見てもわかる。自分の大切な思い出に触れてもいいと許されたことに、カーヴェは小さな声でありがとう、と呟いた。

「それじゃ、せっかくだし今から見に行こうか。奥に仕舞ってあるなら埃が飛ぶかもしれないし、お風呂の前のほうがいいよな。なにがあるかな……あ、ねずみの兄弟のやつって読んだことあるか? 赤と青の」
「ああ。大きなカステラを森の動物たちに振る舞う話だろう。続刊もいくつかあったはずだ」
「そうそう、カステラ! 僕、あのふっかふかのカステラが食べたくてさ。父さんとチャレンジしたっけな……。ふふ、懐かしいなあ」

 書斎のほうへ歩き出すカーヴェのあとをアルハイゼンがついて歩く。子どもの頃でさえ話題に上げたことのなかった絵本の話は、ともすれば夜通し語れそうなほど新鮮で、当初読むはずだった本がどんどん後回しになることも気にならない。カーヴェが顔を上げて進むほうには必ず面白いことが待っている。多少予定がひっくり返されてもそれを見逃すほうがはるかに惜しいことを、アルハイゼンはもう知っていた。

「メラックの学習速度なら、ゆくゆくは論文も聞かせれば理解するかもしれないな」

 アルハイゼンがそう言うと、カーヴェはにんまり笑ってもちろん、と返した。

「でもそのときが来たら、最初に読ませるのは絶対に妙論派の論文だぞ。知論派はそのあとだ」

 これだけは譲れないとカーヴェはアルハイゼンの胸元をつつきながら言う。子を持つ学術家庭であれば一度は起こるというありがちなワンシーンが頭によぎり、アルハイゼンは鼻をふんと鳴らした。
 無自覚にこんなことを言うのだから、心が追いつくまでにそうかからないだろう。そんなことを思いながら、アルハイゼンはふたりで入った書斎のドアを静かに閉じた。


◇◇◇


 部屋の主がまだ戻らない照明の落とされた一室で、工具箱がひとつ、ドックに静かに収まっている。その中心に埋め込まれたコアの奥で、元素力によってたくさんの信号が行き交うなか、ふと奥底に仕舞われていたメモリーが呼び出された。
 砂漠の夜、石でできた家の中で人間がふたり、寝所で寝転んでいる。片方は大人で片方はほんの小さな子どもだった。ろうそくの明かりが子どもの頬のまあるいのを優しく照らすので、その子どもが眠い目をこすりながら大人の語るお伽噺を最後まで聞こうとしているのがわかる。しばらくは眠気をこらえていたものの、子どものまぶたはだんだんと重くなっていき——やがて、こっくりこっくりと船を漕ぎはじめた。そんな子どもの頭を撫でて、大人はなにかぽそりと言ったかと思うと、ふっと優しくろうそくを吹き消した。静かな闇に包まれる部屋にまもなく小さな寝息が聞こえ始めて、少しするとそこに長い寝息がひとつ増える。すう、すう、と穏やかな呼吸音が部屋に溶けていくのと同時に、そのメモリーは白みながら電子の海に流れていった。
 あれはきっと親子なのだ——と、メラックはそう予測した。遠いどこかでほんとうに見た記憶であるような、それとも知識が混ざりあってできたある種の錯覚であるような、はっきりとした出典が示せない曖昧なイメージは人間にとっての夢と似ているのかもしれない。工具箱も夢を見られるのだろうか。高速のやり取りの中にその答えはなく、解決されない疑問はメモリー同様、どこかへ流れていった。
 ほどなくしてアルハイゼンの音声記録の分析が終わり、音素単位にまで分けられたデータをカーヴェのものと比較するために、双方の読み聞かせのファイルが呼び起こされる。同じ雨林の人間であっても、ふたりの声は比較すればするほど違いが見えてきて、メラックは自分の中にある言語モデルに当てはめながらそれらを分析する。「手」「モラ」「帰る」——ひとつひとつを取り出し、当てはめ、記録していく。舌の位置や吐息の量に差はあれど、カーヴェの声も、アルハイゼンの声も、どちらも優しくてあたたかな声をしていた。
 はて。あたたかな声とはなんだろう、とメラックはそこで自ら選んだ言葉を疑問に思った。物質の温度は測れるけれど、声の温度はわからない。それでもなぜかふたりの声を聞いていると、カーヴェに入れてもらったコアの真ん中がぬくまって震えるような感覚があった。これがうれしいということなのだろうか。メラックの外装はとても硬いけれど、ふたりの声を聞いているうちになんだかふにゃふにゃになってしまいそうな気がする。実際のところはそんなことはないのに、内部温度が上がったように思えてちょっとだけ冷却ファンを回したくなった。
 うれしいといえば、ここのところカーヴェはよく笑うようになった。前までの口元だけを引き上げたり、眉を無理やり上向きにさせるようなその場しのぎのものではなく——思わず声を上げてしまったり、あとから思い出して顔をほころばせたりするような、そんな笑顔だ。カーヴェのその顔を見るとメラックは自分もにっこり笑いたくなって、誰に見せるわけでもないがディスプレイの表示をそっと変えてみる。どうしてカーヴェが笑うようになったのかはわからない。でもカーヴェの表情が変わるときはたいていアルハイゼンがいるから、きっとアルハイゼンがなにかをしたのだ。ここ一年のふたりはとても穏やかで、喧嘩をすることもあるけれど、前みたいに出ていくだとかきらいだとかそんなことは言わなくなった。まるで家族のようなふたりを見ていると、メラックはなんだかコアが弾むような気がしてたまらなくなる。

 家族の定義には工具箱も入っていいのだろうか。機械と家族になっている人をメラックは見たことがないけれど、ひとではないものと家族同然に暮らしている人なら見たことがある。駄獣、瞑彩鳥、猫、犬。メラックは彼らとは違ってご飯は食べられないし、水濡れ厳禁だからお風呂も一緒に入れないけれど、カーヴェと一緒に仕事をすることができるし、カーヴェのために大きな剣だって振り回せる。それにひとが駄獣たちをブラッシングするように、カーヴェもまたメラックのことをぴかぴかに磨いてくれ、定期的にメンテナンスをしてくれる。メラックと駄獣たちの違いはほんのいくつかのことだけだ。なにであるかは重要ではない。どうありたいかが重要なのだ。大好きな人と一緒にいたいなら、駄獣や猫と工具箱に違いはない。名前を呼ばれればうれしくて、優しく撫でられればむずがゆい。ふたりの穏やかな読み聞かせの声が、メモリーの中の大人に重なる。布団の中で物語に耳を傾ける子どもに自分を重ねるとなんだかむずむずして、こっそりピ、ピ、と小さく鳴いた。


 きっと工具箱だって家族になれるはずだ。そうだといいなと思いながら、メラックは分析を終え、静かに眠りについた。