リース
2024-10-11 13:50:39
3245文字
Public ドラゴンズドグマ
 

飲み過ぎ注意

DD2
覚者リースとその従者オルグの酒場での小話。
先日上げた話を加筆修正してます。
※ポーンが一般人と会話してる描写あり

ヴェルンワースから牛車に乗り数日揺られていると、隣国バタルとの国境に面する宿場町に辿り着く。
覚者リースとそのポーン達は、バタルに入国する前にこの関所宿場町で夜を明かすことにした。

「ここまでありがとう。そっちの覚者にもよろしく伝えといて。」

リースはここまで付き合ってくれたサポートポーン達にお礼の品を手渡し、リムストーンまで彼らを見送る。

パーティから二人も抜けて静かになった途端、人の騒ぐ声が聴こえて振り向くと、店の一角に人が集まっているのが見えた。
交易が盛んなことで有名なこの街には、小さいながらも毎夜は人々で賑わう酒場があった。

そこに反応したのは、リースよりも一回り近く歳上の外見をした青年、専従ポーンのオルグだった。彼は深い海のような色の髪を揺らしながら酒場を指差す。

「マスター。食事もまだですし、行きませんか。」

「オルグが行きたいだけじゃん。
まぁ、いいけど。」

今日はこのまま宿で適当に食べて休みたかったんだが、オルグに期待を寄せた目を向けられ、宿に行く前にその酒場に立ち寄ることになった。
リースとしてはオルグにはいつも助けてもらっているし、大の酒好きであるオルグの唯一の楽しみなのだから聞かないわけにもいかない。

そう思いながら店に入ればいらっしゃい!という店主の声が響き渡る。

えと、ミルクある?」

「はいよ、そっちのお連れさんは酒でいいよな!」

酒場の店主の言葉にリースの後ろに控えるオルグは勿論ですと言わんばかりの顔を浮かべている。

リースは覚者ではあるものの、見た目はまだ20にもならない青年である。本人的に酒は飲めないことはないが、あまり量は飲めない上に味が好きではないというのが正直なところ。それならミルクか極度に薄めた果実酒か水を飲む方がいい。
リースはミルクを、オルグは大きなジョッキにいっぱいの酒を受け取るとそれぞれ飲み始める。 

……っはぁ労働の後の一杯はたまりませんね。」

樽ジョッキに入った酒をあっという間に飲み干したオルグは、ジョッキをカウンターにおろしながら嬉しそうに声を漏らす。

オルグ、なんかおっさんくさ。」

そんなやりとりをしていると、オルグの飲みっぷりを見ていた店主は軽くつまみをサービスしてくれた。今日は特に繁盛しているらしく、店主も気前がいい。ありがたく受け取るとリースはミルクを片手に乾き物を口に運ぶ。軽く何か入れたら今度は飯でも頼もうかと、手を止めることなく考えていた。


「ちょ、マスター私の分まで食べないでくださいよ」

「オルグは沢山酒飲んでるからいいじゃん」

そんなことを言いながらオルグと取り合うようにつまみを食べていると、彼らの背後に見知らぬ男が近づき声をかけてきた。

「おっ、なんだぁガキがこんなところに


そう言ってリースに突っかかってきたのは、ジョッキを片手に持った中年の男だった。兵士の格好こそしていないが、その腰に剣を下げていることからどこかの傭兵だろうか。
なんだよオッサン。」

せっかく良い気分でつまみを食べてたのに台無しだ。リースはミルクの入った杯を下げて男を睨みつけるが、そんなのはまるで効果がないようにリースに近寄り顔を覗き込んでくる。リースが手に持つミルクの杯に視線を落とすとハッと嘲笑う

「一丁前に防具と武器を下げてても、ろくに酒が飲めねぇたぁな!
どこから来たら知らねぇが、酒場でミルクなんか飲みやがってまだ母ちゃんの乳が恋しいなら家に帰りな!ハハッ

酒が回っている男はツボに入ったのか、そう言うと一人で下品な笑い声をあげている。男につられるように近くの客からも笑い声が聴こえる。酒場でこんな酔っ払いの相手をいちいちしていてはキリがないのだが、それでもリースは聞き捨てならなかったらしい

「なっ俺だって酒くらい今日は気分じゃないから飲まないだけだ!」

と声をあげるが、男はそれが気に食わなかったらしい。笑うのをやめると再びリースに顔一つ分の距離まで詰め寄るが、リースも負けじとその場から動かない。

「威勢がいいなガキそこまで言うなら俺と飲み比べで勝負してみっか?
そうだなぁ負けた方が今日ここにいる全員分の酒代を払うってのは。」

そう言われるとリースも引くに引けず言葉に詰まる。それをわかっていた男はしてやったりと歪んだ笑みを浮かべている。

無様に負けた上に金まで払わされるなどたまったものではないが、ここで逃げ出す選択肢はリースには当然あるはずもなく。意を決して店主に酒を注文しようとした矢先だった。

もしよろしければ私が、我が主に代わりお相手をしてもよろしいですか。」

「オルグ?」

リースを庇うように男との間に割って入ってきたのは、先程まで黙ってことの成り行きを見守っていたオルグだった。男は急に現れた邪魔者に敵意の目を向けるが、思いの外がっしりした体つきをしたオルグに一瞬だけ面食らった顔をする。

なんだぁ、おめぇがこのガキのお付きってか?」

男はよほど辺境から来たのか、あるいは宿場町自体に情報が出回っていないのか、それとも酔いのせいで気づかないだけなのか、リースが覚者でオルグがその従者であるポーンだとは知らないらしい。
そのことを知ってか知らずか酒場にいる周りの客も、その様子を各々楽しそうに見守っている。


「主の始末は従者がつけなくてはいけませんので。いかがでしょう?やはり私では役者不足でしょうか?

それとも私のような若造相手に臆しましたか?」

そう言いながら、ジョッキを片手に紫色の目を細めて笑みを浮かべるオルグ。

それを見ていた客はオルグの煽りに盛り上がりを見せ、いいぞいいぞとはやし立てる声が聴こえる。中にはまるで男を焚き付けるように野次を飛ばす者もいた。

急に割って入ってきた優男に生意気な態度を取られた男は益々頭に血が昇り、どかっと席に着くとジョッキをテーブルに叩きつける。

「ッ舐め腐りやがって上等だぁッ!そこまで言うんなら兄ちゃんに相手してもらおうか!おい店主!!」

売り言葉に買い言葉だったのだろうが、オルグに捲し立てた男は横から酒を注がれると一気に飲み干す。

オルグも男の向かい合うようにゆっくり腰掛けるとリースを振り返る。

ではマスター。店主に言質取っていただきましたので、後は私にお任せを。
マスターはそこで飲んで見ていてください。」

少しだけ不安そうな顔をするリースにニコリと笑ったオルグは、男と同じ量のジョッキを嬉しそうに受け取ると、じっくり味わうように飲み始めた。

そして程なくして空になったジョッキをテーブルの隅に置き、手の甲で軽く口元を拭う。

嗚呼タダ酒とはまた格別に美味しいです。今日は本当についてますよ。飲み比べでなければもっと良かったんですが。」


そんなことを溢しながら、再び法悦に浸るような表情を浮かべていた。
そんなオルグの様子を見たリースは

……オルグ、こうなるのを待ってただろ」と一人呟いていた。


オルグの余裕たっぷりのペースに少々焦りの色が出てきた男は、それでも尚酒を煽る。
だんだん哀れに見えてきたその男に対し、オルグはほんの一瞬だけ、氷のような冷たく鋭い視線を男に向ける。

……今はマスターと人の目もありますし、これだけで見逃してあげますよ……今日だけは、ですが。」

確かな怒気を孕みつつも淡々としたオルグの声は、酒場の騒音にかき消された。





後日

その酒場に居合わせた客曰く、男が酔い潰れてもなお相手をしていた青髪の青年は、涼しい顔をして次の酒を楽しそうに飲んでいたという。

ある時、酒場に現れた銀髪の青年とその従者の男の噂は、関所宿場町を皮切りにヴェルムントとバタル両国にじわじわと広まっていったとか。