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リース
2021-06-13 05:54:35
5903文字
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モンハン
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スズメのお話。
モンスターハンターライズのマイハンター、スズメの幼少期。
よその子のお家に引き取られるまでのお話。
拾夜さん家のクロガネさんとカイレンくんをお借りしました。
スズメは狩りを終えて帰還した後、自宅の台所で夕餉の支度を始めていた。
今日は義弟のカイレンも家に来ていないため一人飯。ハンターになる前に自立してからは毎日と言っていいほど家に来ていたが、最近は少しずつこんな日が増えている。
今晩のおかずは、狩場に出た時に釣ってきたサシミウオ。
準備しておいた七輪の炭が赤くなってきたのを確認して網を敷く。その上に切り身にしたサシミウオを乗せたらオトモアイルーのマメに焼き具合を見ててもらうよう頼んだ。
よく脂が乗っていている身はその名の通り生でも食べられて狩場でも役立つが、軽く下味をつけて焼くと香りも強くなり、ホロホロとした身が口の中で溶けて非常に美味である。そして何より白米に良く合う。
この焼きサシミウオは、昔スズメの母親がよく作ってくれていたものだ。
料理が得意とは言い難い母親の作るご飯を食べるのが、幼いスズメの楽しみだった。
スズメの両親であるツグミとヒバリはこのカムラの里で生まれ育ったハンターであり、結ばれて夫婦になる前から常に一緒に狩場を駆けていた。
それからスズメが生まれて5年ほどの月日が経った頃、二人は再び共に狩場に赴くようになっていった。
スズメは両親の雇ったオトモアイルー、ユキと一緒に居るとは言え、まだ幼い我が子を家に残してくることに申し訳なさを感じつつも尚狩りをすることを選んだ二人。
両親が狩場から帰ってきたのを出迎え、狩りの出来事を楽しく聞いていたスズメにとって、ハンター業は憧れであると同時に、家で一人待つ孤独を感じさせるものでもあった。
それでも、一緒に狩場に向かう二人の姿を見ていたスズメは最後まで「行かないで」と口にすることが出来なかった。久々に狩りへ行けると嬉しそうに言っていた母親を見ていたスズメには、二人の背を見送ることしかできなかった。
今回の狩りも3日以内には帰ると言われたから、二人の帰りをユキと待っていた。
そして今朝で3日目。
いつものように朝食を食べていたところに突然の来訪者。
"スズメの両親のツグミとヒバリが、狩場で命を落とした。"
大社跡へ狩りに出ていた両親の死を知らせにきた、ギルドマネージャーのゴコク。スズメはその言葉を暫く飲み込むことが出来ず、息の仕方も忘れて立ち尽くしていた。
二人の遺体は里の近くの墓地に弔われることになった。
ゴコクは予定が過ぎても帰らないツグミとヒバリを案じて、捜索を依頼していた。そこで大社跡に派遣されたハンターが見たものは、倒れたヒバリの上にまるで庇うように覆い被さっていたツグミの姿だったという。
モンスターに食われることはなかったが発見時の損傷が酷く、遺体にはずっと布がかけられていたため、スズメは両親の最期の姿を見ることができなかった。
正確には大人達がそうさせなかった。
"ハンターが命を落とすことは珍しくない。"
"スズメくん可哀想に
…
"
そんな里の人達の言葉をどこか遠くに聴きながら、葬儀が終わった翌日も、スズメはもう二度と会えない二人を想って涙が溢れた。
6歳ながらも両親の死を理解したスズメにとって、孤独の身となった事実はあまりにも耐え難いものであり、そんなスズメを見ていたユキはただ黙って寄り添うことしかできなかった。
***
布団に包まっていたところをユキに促されて数日ぶりに家の外に出た。すっかり登った陽の光を浴びながら、澄み渡った空を見上げた。
聞こえるのはタタラ場から鉄を打つ音と店に立ち寄る人たちの話し声。いつもと変わらないカムラの里の風景をスズメはただぼんやり見つめていた。
店が軒を連ねる通りを、たまに両親と一緒に歩いていたことを思い出し、また目の奥が熱くなりかけた時だった。
突然、スズメは後ろから何かがぶつかってきた衝撃に襲われ、思わず倒れそうになる。
何かと思い少し後ろを振り返れば腰にしがみついてる幼子がいた。まだ2、3歳ほどだろうか、瑠璃色の短い髪の幼子はスズメの腰に埋めてた顔を上げ、にぱぁという効果音が似合うほど眩しい笑顔を向けてきた。
一方スズメは何処の子どもだろうと困惑する。どこかで見たような覚えがあるが、迷子だろうか。
弟や妹がいなかったスズメは、こういう時どうしたらいいかわからなかった。
「えっと
……
「おーいカイレン!!」
スズメが声をかけようとすると、それをかき消すような大声が聴こえて思わず体が跳ねる。
声の方を見ればこちらに向かってくる大柄な男が一人。
遠目に見ても大きいなと思っていた男が、近づいてくるうちに本当に大きいことに気づいたスズメは咄嗟に腰の幼子に腕を回して身構える。
「悪かったなぁ。うちのカイレンがぶつかってきたろ。
大丈夫だったか?」
そう大声で話す男の笑顔には見覚えがった。
男はスズメと目線を合わせるためにその場にしゃがみ込んだ。
「
……
お前スズメだろ?
俺はクロガネだ。前にも会ったんだが覚えてるか?
ツグミとヒバリとは何度か狩りにも行ったんだ。」
スズメは縮こまりながらも目の前の大男、クロガネの持つ金色の双眸から目を逸らせずにいた。スズメが以前クロガネを見かけたのは、両親と近所に出向いた時だった。
あの頃は見上げながら話しかける両親と、その巨躯に違わぬ大きな声で笑うクロガネの姿に少なからず恐怖心を抱いていたものだ。
一方でクロガネは、目の前のスズメが怖がっているのに気づき、困ったように首の後ろを掻いた。
自分の体が小さな子どもにとって少なからず怖いものだと自覚しただけに、こればかりはどうしたもんかとぼやくクロガネ。
スズメを怖がらせないように落ち着いた声色で話かけた。
「なぁ、ちょっとウチに寄って話してかねぇか?」
「え
……
いや、ぼくは
……
……
ゆ、ユキに一言言ってから、なら。」
スズメは今だに腰にしがみついてはしゃいでいるカイレンと、クロガネを交互に見て狼狽えた。断ろうにも断れない状況に、スズメは頷くしかできなかった。
それに、また勝手に出歩いていなくなったらユキが心配してしまう。
「おー、いつもスズメと一緒にいるアイルーだな。
じゃあまずはユキのところに寄っていくか!」
そう言ってカイレンをひょいと抱き上げるクロガネ。
一方で抱き上げられたカイレンは視線が高くなったことできゃっきゃっと楽しそうに笑っている。あんなに高く持ち上げられて怖くないのだろうかと、スズメは内心震えていた。
それからスズメはクロガネと一度自宅にもどってユキに事情を説明すると
「クロガネさん家なら安心ニャ。
僕も少し用事があるから、よろしくお願いしますニャ!」
と喜んでスズメを送り出していた。止めて欲しかったと思っていたスズメは心の中でユキに助けを求めたが、そんな淡い期待は消え去ってしまった。
スズメの家を出て数軒分歩いたところにクロガネの家がある。カムラの里は広いものの、里の人間の居住区自体はそこまで大きくはない。
明らかにこの里の生まれではないとわかる容姿のクロガネと、その妻のアマメはスズメが産まれて少ししてからこの里へ移ってきた。そんな頃に時に先輩夫婦であるツグミとヒバリに出会って仲良くなったと言う。
促されるまま家に上がったスズメは、クロガネから両親の話を聞いていた。
スズメが知らない、ツグミとヒバリと同行した時の狩りでの出来事、二人の日常での出来事などを話すクロガネに、スズメはただ黙って耳を傾けていた。
そしてカイレンはと言うと、スズメの膝の上に寝転がりながら玩具を掴んで振り回していた。そんな遊びも飽いてきた頃、クロガネが何かを思い出したような様子で声をあげた。思わずビクッと跳ねたスズメに一言
「あー
……
悪いなスズメ。雑貨屋に取りに行くもんがあるから、ちょっとばかしカイレンのこと見ててくれ。少し遊んでてくれるだけでいいから」
「えっ!?あ
……
」
突然のことにスズメは返事が出来ず、家を出て行くクロガネを見送るしかできなかった。
暫くの沈黙の後、取り残されたスズメはどうしようとカイレンに振り向くが、当の本人はニコニコしてるばかり。
いきなり子どもを見てろとはどういうことだとため息をついたスズメは仕方なく、カイレンが危険行動を起こさないように側についていることにした。
「
……
しゅ、しゅじゅめ
……
?」
「スズメ。」
カイレンの舌足らずな言葉に修正するように言葉を重ねるスズメ。するとその幼子はもう一度「しゅじゅめ!」と繰り返す。今度はちゃんと言えたとばかりに自信満々な顔をするカイレンに、言えてないと思わず口元が緩むスズメがいた。
カイレンはスズメに持っている玩具を自慢したり、部屋に飾ってある写し絵を指差して何かを伝えようとしたりしている。時折何もない場所を見つめていることもあったが、スズメは気にせずカイレンの話に相槌を打っていた。
どんな些細なことにも楽しそうで、無邪気に応えてみせるカイレンの姿を見ながら、自分もこんな風に両親に構ってもらってたのだろうかと一人思うスズメがいた。
「しゅじゅめ!みてて!!」
名前を呼ばれてハッとすると、幼いカイレンは短い脚を動かしながら外でぶつかってきた時のように素早く動いて見せた。
自分の足で自由に動き回れるようになったのが楽しくて仕方ないのだろう。有り余る元気で走りまわる姿は不思議と見ていて飽きなかった。
「あ!危な
……
」
異変に気づいたスズメは咄嗟に立ち上がり走り出した。はしゃぐあまり土間に落ちそうになるカイレンを抱きとめて引き寄せたが、勢い余ってそのまま二人で畳に倒れる形になった。
急いで上体を起こしたスズメはカイレンに怪我がないか確認するが、当人はこれも遊びの一環だと感じて楽しそうに笑っている。
スズメは安堵の息をつくが、腕の中ではしゃいでいたカイレンは急に静かになり、スヤスヤと寝息を立て始めた。
先程まで遊んでいたと思ったら突然動かなくなった忙しない幼子は、クロガネが帰ってきてもスズメの膝で眠っていた。
「カイレンを見ててくれてありがとな、スズメ」
暫くして帰ってきたクロガネは嬉しそうにスズメの頭を撫でる。雑貨屋で商品を受け取った後につい色々話し込んでしまったという。子どもに大事な子どもを見させておいて呑気なものだと内心ぼやいたスズメだが、役目を任されたことに少しだけ喜んでいた自分もいた。
そんなスズメの様子を伺いながら、クロガネは静かに切り出した。
「
……
なぁ、お前さえよけりゃあこのままうちの子になんねえか?
カイレンもお前に懐いてるし、これからは兄弟として遊んでやってくれると嬉しいんだけどな」
真剣な様子のクロガネを一瞬ぽかんとした表情で見つめていたスズメ。意味を理解してハッとしたスズメは狼狽えた。
「で、でも
……
僕、何も持ってない。」
「んなこと気にしなくって大丈夫だ!
ほら、見てみろ!カイレンもお前から離れたがらないだろ
…
な?
…
何より俺がお前を家族として一緒に暮らしていきたいと思ったんだ。
どうだ、ここは一つ考えてみちゃくれねえか。」
クロガネの言う通り、カイレンは今だスズメの服を掴んだまま眠っている。ほとんど初対面のはずの子どもにこんなにも懐いていくれたカイレンと、クロガネの温かい言葉に胸の奥がキュッと締め付けられて思わず下を向いてしまうスズメ。
必死に泣き顔を見せまいとする彼の頭に、再びクロガネの大きな手が乗せられる。その衝撃で限界まで溜まった涙は重力に従って落ち、ポタポタと衣類に染みを作っていく。
すると雫が当たったのか、スズメの腕の中で眠っていたカイレンは目を覚ました。そしてスズメの異変に気づいたのかその顔に触ろうと手を伸ばす。
「しゅじゅめ
…
?いたい?」
目を丸くしているカイレンの言葉を受けたスズメはふるふると首を横に振り、優しくその頭を撫でた。たったそれだけのことで腕の中の幼子はまた無邪気に笑っている。
そんな二人の様子を、クロガネはただじっと見つめて目を細めた。
「俺たちはスズメを一人にしないしさせない。
これからは、ツグミとヒバリの分まで俺たちが側にいる」
スズメを撫でる手は、彼の肩まで伸びた髪が乱れるほどに少し荒っぽかったが、温もりと優しさを感じるその手をずっと受け入れていた。
そしてスズメは静かに誓う。
独りになった自分に再び家族をくれたこの人達へ、自分ができる最大限のものを返していこう。
「
……
スズメ、良かったニャア
……
。」
その頃、一部始終をこっそり見守っていたユキは嬉しそうに、そしてどこか寂しそうに目を細めた。
人は人に育てられるのが一番だからと、ツグミとヒバリの死後、スズメのことを頼まれていたクロガネ夫妻のところへ改めて頼み込みに行ったのは、他でもないユキだった。
ユキに言われるまでもなくそのつもりだったと言うクロガネに、ユキは何度も頭を下げていたという。
そしてスズメが家を離れる日。
ツグミとヒバリに雇われていたユキは、二人の死により一度契約が解消という形になった。同時にスズメがクロガネ家に引き取られることが決まり、ユキはスズメの元を離れる運びになった。
少ない荷物を包んで体に巻いたユキは、今にも泣きだしそうなスズメの手を取る。
「僕はこれから強くなるために修行に行くニャ。それで、もっともっと強いオトモになって帰ってくるのニャ。
スズメも
……
どうか元気でニャ。」
「ユキ!いやだっ
……
!!
行かないで
……
」
スズメはユキに抱きつき、柔らかい毛に顔を埋めて縋りついた。
弱々しく懇願するスズメの声に目を潤ませているユキも、グルグルと喉を鳴らしながら肉球でぽんぽんとスズメの頭を撫でる。種族も違う一人と一匹がまるで本当の兄弟のように暫く抱き合っていた。
「
……
これからは、我慢しすぎずそうやってちゃんと言うのニャ。
大丈夫。スズメは独りぼっちじゃないニャ。」
「
………
。
ありがとう
…
ユキ。」
ユキの言葉に、スズメは再び強く抱きついた。それがユキとの長い長い別れとなった。
物心ついた時から常にスズメの側にいたオトモアイルーのユキ。彼が里の外での長い修行を積んだ後、ハンターとなったスズメと再び巡り会えるのはまた別の話。
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