リース
2020-07-03 05:57:21
3802文字
Public モンハン
 

クロのお話。

MHW
サブキャラのエステルとオトモのクロの出会いの話


仕留めた獲物を持って住処に帰る途中だった俺は、森の中で人間の少女を見かけた。しかもまだ5〜6歳ほどの幼子だ。
遠くからでもよくわかる銀色の長い髪が、木々の間から差し込む陽の光でキラキラと輝いていたのがとても印象的だった。

モンスターも出没しているこの森は、土地に住む人間かハンター以外はあまり立ち入らない。
そんな場所に幼い少女が1人で彷徨いているのは唯ごとではない。捨て子かと思ったが、綺麗な身なりをしているところを見ると恐らく迷子だろう。


彼女は地面に座り込んで、顔を両手で覆いながら声を押し殺して泣いていた。遠くても耳の良い俺にはすぐわかるんだ。

大きな木の陰から暫く静観していたが、泣くほどに我慢していた声が段々と大きくなる様子に居た堪れなくなり、俺はゆっくりと彼女に歩み寄った。静かな森にしゃくり上げる声と草を踏み締める音だけが響く。


お嬢ちゃん、どうしたんだ?」

1メートル程の距離まで来ても俺の存在に気づかない少女に声をかけた。案の定声にびっくりした彼女は、恐る恐る俺の足元から視線を上に持っていく。顔を上げた少女は、深い海のような青い瞳を丸くしていた。

涙の跡と赤く泣き腫らした目でこちらを見つめ、暫しの沈黙の後

………

あいるーさん?」

俺の声を人間だと思っていた彼女は泣くことも忘れて、口をぽかんと開けていた。
その様子がなんだか愛らしくて思わず頬が緩んだ。そのまま怖がらせないように目線を合わせてから優しく声をかける

「アイルーはあまり見ないかい?

ここはお嬢ちゃんみたいな子が来る場所じゃない。
迷子になったのか?」

落ち着いた声色で話しかけると彼女はコクリと頷いた。

街のお、男の子に髪が、気持ち悪いって。
おばぁちゃんみたいだってこっちにくるなって……

思い出しながらポツポツと話し出した彼女は、そこまで言うとくしゃりと顔を歪め手で隠してしまった。
ここまでくる途中で転んだのだろうか、大粒の涙が指の隙間から落ちて土で汚れたスカートを濡らした。

なるほど、この娘は容姿を理由にいじめられ、逃げているうちに迷子になってしまったのだろう。
先程より声を漏らして泣く姿に胸がひどく痛んだ。
何も悪くない彼女に、どうしてそんな心無いことが言えるのだろう。彼女の頭に手を伸ばしてそっと撫でた。

「ひでぇこと言いやがるニャア。
こんなにキレーな毛色なのに。」

滑りの悪い肉球はくしゃくしゃとその髪を乱してしまったが、彼女はまた泣くのをやめてこちらを見た。

「ホント?アイルーさん

「ああ。嘘なんかつかねーよ。
俺のことは、そうだな……"おじちゃん"でいいぞ」

名乗ろうとしたが、やめた。
それを聞いた少女は少し驚いた後少女はクスクスと笑った。先程と打って変わって年相応な笑顔がとても可愛らしかった。

「ふふアイルーさん、声がおじちゃんみたいだもんね」

そう言ってまた笑った。
人間には獣人族の見た目年齢なんてわからないかもしれないが、これでも俺はそれなりのおっさんなんだ。

おじちゃん。街に戻りたいんだけど、道わかる?」

「ああ。ここは俺の庭みたいなもんだからな。
きっと両親もお嬢ちゃんを探してるだろうから、早く行こう。」

コクリと頷いてゆっくりと立ち上がった彼女のスカートの汚れをはたき落としてやる。見たところ怪我も無さそうだ。


時刻はそろそろ夕暮れに差し掛かろうとしていた。
夜は夜行性のモンスターも増えてより危険になるため、陽が落ちて暗くなる前に森を抜けなければならない。
小型のモンスターくらいなら追い払えるが、それも彼女を護りながらでは危険なことに変わりはない。

俺は彼女の手を取った。俺の肉球の感触が気に入ったのか、何度も握り返してくるのがわかった。リラックスした様子の彼女を確認してから、一緒に森の出口へと向かって歩き出した。 






「疲れたか?そろそろ着くからもうちっとだけ頑張ってくれ。」

「うん、大丈夫。」

なんとかモンスターにも遭遇せずに森の出口まで行けそうだ。俺の問いかけに先程より落ち着いた様子の少女はハッキリとした声で返した。少しの沈黙の後少女はまたこちらに話しかけてきた。
俺は目線を前方に向けたまま返事をする。

「おじちゃんはこの森に住んでるの?」

「ああ、今はな。昔は違うところでハンターをやってたんだ。」

興味を惹かれたのか、ハンターという単語を聞いて自分でも口に出す少女。
ちょうどいい話題作りだと思って自身のことを話してやった。あまり面白い内容ではなかったが、少女は興味深そうに俺の話に耳を傾けていた。

やがて再び沈黙が訪れた後


あたし、ハンターになりたい

その言葉を聞いた俺は思わず立ち止まりそうになる。今になってこの話はするべきではなかったかと後悔した

かつての自分の娘とあまりに同じことを言っていたから。
嬉々としてハンターになることを夢見ていたあの時の娘の顔が思い浮かんだ。


確かに、女でもハンターをやってる連中は大勢いる。
けどなお嬢ちゃん、ハンターはとても危険な仕事なんだ。

それにハンターになるニャー相当な訓練も要る」

「けど、あたしハンターになってみたいの。
モンスターと戦えるくらい、強くなりたい。」

真っ直ぐ前を見ながら話す少女の顔をちらりと盗み見る。
まだ幼い顔立ちの少女。その青い瞳からは強い意志を感じた。

そうこうしている内に空を覆う木が段々と少なくなり、夕陽が差し込んできた。

漸く森を抜けると小高い丘の先からは小さな街が見える。
日も傾き、街の人々が忙しそうに行き交う音がここまで聴こえてきた。

「あれがお嬢ちゃんの住んでる街かい?」

「そうだよ。ありがとうおじちゃん。」

そう言って安心した様子の少女は俺から手を離す。

目的は達成したことだし、もうこの娘といる理由はなくなったわけだ。
そして、それが少しだけ寂しいと感じている自分がいることに気づいてしまった。


……じゃあ、俺は戻るとするか。
もう無闇に森に入ったりするんじゃねぇぞ」

先程の話をまた持ち出される前に踵を返し、少女に背を向け歩き出した。
  



「おじちゃん!!」

自分を呼ぶ大きな声にもう一度振り返れば、スカートの裾を両手で握りしめながら、真剣な面持ちでこちらを見つめる少女がいた。口元をキュッと結び、何かを伝えようと決心したのか、少しして口を開いた。


……おじちゃん、あたしに狩りの仕方を教えてよ。
訓練も頑張るから

だからおじちゃんも、あたし達と一緒に行こう?」


その言葉に心臓を握りしめられたような感覚に襲われた。
彼女の言葉をゆっくり落とし込んでいると、まだ何か言いたそうな様子に、黙って彼女の言葉を待った。

「あたし、もっとおじちゃんとお話したい。ハンターの話も聞きたいの。
それにね、さっきおじちゃんの顔、とても寂しそうだったから

お父さんとお母さんなら話せばきっとわかってくれるから

だから

黙って聞いている俺の様子に、先程の固い決意は何処へやら、こちらを見つめて段々とおどおどし始めた少女の姿がおかしく見えてきた。

真っ直ぐで優しくて、きっとこの少女は両親に愛されて育ったんだろうな。そう思えてならなかった。その真っ直ぐな心を自分も見習ってみようと思った。

くくっ……ああ、わかったよお嬢ちゃん。
お嬢ちゃんがハンターになれるよう、俺も手伝ってやるよ。」


俺の言葉の後、少ししてからぱあっと花が咲いたように笑顔になった少女。今頃になって自分が名乗ってないことに気づいたらしい。

「あたし、エステルって言うの!
おじちゃんの名前も教えてよ」

「俺か?
そうだなぁお嬢ちゃんが付けてくれよ。」

その言葉の意味がよくわからなかった少女エステルは首を傾げた。

「俺はお嬢ちゃんのパートナー、オトモアイルーになるわけだ。
オトモとの契約の時はハンターから名前を付けてもらうこともあるんだよ。

だから、お嬢ちゃんが俺に新しい名前付けてくれ。」

そう言われたエステルは頷くと、考え込むように静かになった。うんうんと暫く唸った後

「クロ。

うん!クロってどうかな?おじちゃん半分黒いから!」

俺の黒白の毛色を見て名前を付けたのか、我ながらいい案とばかりにドヤ顔でこちらを見つめてくる少女にまた笑わされた。

「クロか。
ありがとな、エステル。

これからよろしくニャ。」




ハンターとしてかつての仲間たちと共にモンスターを狩った。
そして出会ったパートナーとの子どもに恵まれた。
充実した日々だった。けして楽ではなかったけど、彼女達との生活以外何も望まなかった。


だからあの日、彼女と子ども達を喪った自分にはもう思い残すことはないのだと思ってた。

けれど出会ってしまった。


こんな幼い少女に険しい道を進ませることになってしまったけれど後悔はしていない。どこまで出来るかわからないが、望む限り彼女を導こう。

そして今度こそ、最期まで傍に居よう。