リース
2020-01-20 05:51:50
2595文字
Public モンハン
 

彼が生まれた日

MHWにおけるうちの子(リース)の生い立ちについての話。
少しだけ暗くて重いです。リース当時7歳。

幼少時の、両親の記憶はほとんどない。

物心ついた時からずっと
両親と思われる2人の蔑んだ目と「気持ち悪い」という言葉だけはなんとなく覚えている。
この白髪と左右違う目の色が物珍しいと同時に、両親にはとても気味悪がられていたのだと。幼いながらもそう理解していた。それでも最低限の世話をしてくれていたのだから、自分を僅かでも気にかけてくれているのだと、そう思っていた。


程なくして、自分は見知らぬ男達によって荷車に乗せられていた。こちらを見向きもせずに男から袋を受け取った両親は、見たことないような嬉しそうな表情をしていた。
忌々しい存在がいなくなる上、金まで貰えたのだからこんなに喜ばしいことはなかったのだろう。



両親の顔を見たのはそれが最後だった。


荷車に揺られていると、突如轟音と男達の悲鳴が響き
何かにぶつかって転がった荷車から這い出た視界の先には、地面を灼く鮮やかな赤色と、澄んだ青い空に浮かぶ二つの巨影が飛んでいる。

赤い色を放つ影は、自分の存在に気づくと鋭い眼光で睨みつけてきたが、やがて大きな鳴き声で吼えると、もう一つの影と共にどこかへと飛び去っていった。



その後気づけば、森の中を一人彷徨っていた。

左の眉の辺りがジクジクと痛む。
恐らく木でできた荷車の破片で切ったのだろう。痛む箇所に触れた手には血が付着していた。

自分がどこにいるのかも、どこに向かっているのかもわからないまま歩き続け、徐々に体力は奪われていった。

遠くからギャーギャーと高い鳴き声のような音が森の奥から聞こえる。血の匂いのせいなのか、まるで自分に向けられているかのように近くなるその音に本能が警鐘を鳴らす。
自分はこの森を出る前に体力が尽きるか、その音の主によって殺されてしまうのではないかと思った。

それもいいかもしれない。
どうせここから出られたところで行く場所など何処にもないのだから。



諦めて立ち止まろうとした時、すぐ横の茂みがカサカサと音を立てた。
驚いて身構えるも、続けて聞こえた違う音に目を見開いた。

「!子ども?なんでこんなとこに

人だった。茶髪に、顔に同じく茶色の口髭を生やした男が茂みから姿を現した。動物の鱗や皮で出来た鎧のようなものを身に纏い、背には折り畳まれた大きな斧のような刃物を背負っていた。

「さっきの壊れた荷車と複数の人間の死体

それに今日はやたらとリオレウスやリオレイアが飛んでると思ったら大方ギルドの許可なしに卵を取りにきた奴らに、見知らぬガキ

そんなことを1人喋っている男は、やがてこちらを向くとつかつかと歩み寄ってきた。

「おい、お前。こっちへ来い。」

ぼーっと男の姿を眺めていると不意に腕を掴まれた。怖くなって振り解こうとしたが大人の力に敵うわけもなく、引きずられるように男の後をついていった。


そのまま森を抜けて辿り着いたのは、海の見える広い丘だった。

潮風が頬を撫で、雲一つない空と、陽射しを受けてキラキラと光る海が視界いっぱいに広がる目の前の世界をただ見つめていた。

すると今まで手を掴まれていたことも忘れていたのか、男が自分の手を離すとこちらを向いて膝をつき、目線を合わせてきた。
自分を見つめる金色の瞳と視線がかち合うが、不思議ともう怖くはなかった。

眉の傷に気づいた男は懐から綺麗な布と一つのビンを取り出した。ビンの蓋を開けると中の液体を布に染み込ませ、それをこっちの眉のところに当てがった。湿った布が傷口に染みて、たまらず頭を動かすと「じっとしてろ」と押さえられた。

しばらく布で押さえられた後、男は布を片付けて再びこちらを見た。

「お前、どこから来たんだ?あんなモンスターのいる森の中で何してた?てか、よく無事だったな。

モガ村のガキにしちゃあ……なんか、白いな。」

男は眉間にシワを寄せた。
おそらく髪の色だけでなく、自分の肌の色のことも指していたのだろう。

聞かれてもどう答えたらいいかわからず、ただ首を横に振る。男は困ったように息をつきながらガシガシと乱暴に頭を掻く。

元の場所にもどしてくるわけにもいかねーしなぁ。」

男は立ち上がると、ゆっくり歩き出す。
数歩歩いたところを見ていると、男はこちらを振り返る。

「来いよ。」

一言、男がそう言って差し出した手を見つめた。
男は首だけを海の方へ向けて喋る。彼の視線の先には、海に浮かぶ集落のような場所が見えた。

「あそこに見える村、わかるか?あれはモガの村って言って俺が世話になってるところだ。
これから彼処へ行くんだ。

取って食いやしねーから、俺と一緒に来い。」

そう続けて、再びこちらを向いて笑った。
自分に向けられた初めての表情。その笑顔に惹かれるように自然と彼に歩み寄っていた。

「そういや、俺はロルフ。モガの村に在留しているハンターだ。
お前の名前は?」 

聞かれて初めて自分に名前が無いことに疑問を抱いた。両親にはいつも"おい"とか"お前"って言われてたから。

……わ、かんなぃ

声を出すのが久しぶりすぎて
俯いてようやく絞り出すようにして出た音は、少し枯れて喉が痛かった。
男はまた困ったように口元に手を当てた。

……そうか。じゃあ
そうだな。リースってどうだ?お前の名前。」

「りーす

新しく貰った名前を、確かめるように反芻する。
すると「リース。」と言う男の声に反射的に顔を上げた。

「来いよ、リース。」
再び大きな手を差し出され、もう一度自分の名前を呼ばれると、身体の奥から表現できない何かがこみ上げてくるのを感じた。じんわりと染み込むように身体に入っていったそれは、今まで感じたことがない感覚だった。

その正体が知りたくて、自分もゆっくりと手を伸ばしてみた。恐る恐る彼の手を握ると、そっと握り返してくれた。

それだけのことなのに、目の奥が熱くなった。
胸が痛くて、震える唇をきゅっと閉じたら涙が溢れた。
次から次へとポロポロ溢れて、止まらなくて戸惑っていると今度は頭に固い何かが触れた。


ガントレットをつけた手で頭を撫でてきた男の手は、何故か温かく感じた。