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リース
2019-05-22 10:55:29
4039文字
Public
ドラゴンズドグマ
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ある覚者の記憶
DDON自宅覚者の育て親の話
別アカに載せたものをこちらに再掲
※戦闘描写や少しだけグロ?要素あり
「おっさんって今何歳なの?」
飯を食っている手を止めた娘は、武具の整理をしていた俺の背中にむかって問いかけた。覚者が歳をとらないことを彼女に話したのはつい最近のことだった。となればこんな疑問が出てくるのも必然だろう。
「俺か?はっ、何歳だと思うか
……
っておい、「おっさん」って何だよ。」
聞き捨てならない言葉が含まれていて、俺は思わず手を止め彼女の方を振り向いた。
「昨日会ったお兄さんが言ってたから。」
そう言われて昨日の記憶を辿っていくと、ある1人の青年覚者の顔が思い浮かんだ。
「ファビオ
…
!あいつのせいか
…
。」
俺はため息をつきながら右手で顔を覆った。昨日はたまたま、酒場で商売をしているファビオのところへリースを連れていったのだ。まぁ、彼女は俺の後ろにほとんど隠れて会話を聞いていただけだから、ファビオのことをそんなに見ていなかっただろうが
…
俺に対する呼び方がうつったのは絶対あいつの影響だ。
『へぇーおっさん、隠し子でもいたのかよ』
『おい、あんま言うと冗談でも叩っ斬るぞ。』
そんな他愛もないことを言いながら取引していたのを思い出した。
「いつもみたいにお兄さんでいいんだぞ?」
「やだ、私もおっさんって呼ぶ。」
そう言って娘は食事を再開した。このことをファビオに知られたら大声で笑われそうだと思った。絶対に知られてはならない。
この娘の名はリース。一年程前テル村を通りかかった際、ゴブリンに襲われていたところを助けたのだ。俺が訪れた時、一緒に暮らしていたリースの両親はすでにゴブリンに殺された後で、俺があと少しでも遅れたら殺されていたところだった。
身寄りがなくなったリースを引き取ろうと思ったのは、もう少しのところで彼女の両親を救えなかった後ろめたさなのかはわからない。だがそんな俺の提案に、リースは少し考えた後、俺の手をとったのだ。
それからというもの、俺の自室に住まわせて一緒に暮らしているのだが、どうにも娘の扱いというものがわからない俺は、最初の頃からだいぶ苦労させられたものだ。こういう時、嫁がいればまた違うのだろうと思ったところでどうしようもない。覚者になったあの日から、妻子が欲しいなどという思いは捨てたのだ。
白竜の覚者として選ばれた俺には、子どもはおろか、一緒に老いていくことができない相手と知りながら、結婚することができなかった。
それなのに現在はリースと出会い、共に暮らしているのだから運命とは数奇なものだとしみじみ思う。
そしてリースに剣の稽古をつけようと思ったのも、今だ毎夜両親のことを思い出すのか、泣きながら寝ている姿を見ていられなかったのかもしれない。そう、それは俺の身勝手な理由だった。
俺は魔物共によって心に傷を負わされたリースに、戦いの道を進ませようとしていたのだ。それでも彼女は文句も言いつつ毎日の稽古に必死に食らいついてきた。
荒療治ではあったが、実際彼女は稽古を始めてから塞ぎ込むことも少なくなった気がする。それにリースは筋もよく、覚えも早い。覚者になったら、きっと強い剣使いになれると思った。世間ではこういうのを親バカというのだろうか。
**
そして、リースの年齢が20を過ぎた頃、彼女は白竜に選ばれ覚者となった。
ああは言ったが、この永久とも言える時間を、覚者として生きるよう仕向けた自分を、リースは恨んでいるだろうか。
今となっては娘同然の存在である彼女を、こんな果てのない道に引きずり込んだことを申し訳ないと思う気持ちもある。子に危険な道を歩ませるなど親として失格かもしれないが、それでも親として、覚者としてこいつの隣にいることができるという喜びの方が優っていたのだ。
やたらと猪突猛進で危なっかしくはあるが、リースはもう子どもではない。今までのようにずっとそばについていることはできないが、少なくとも、戦い方と生きる術はある程度教え込んだつもりだ。
いずれは相棒となるポーンや、仲間の覚者達とも協力して様々な経験を積むだろう。けして楽な道ではない。下手をすれば道半ばで命を落とすかもしれない。だが、そうして覚者としても成長していくリースを、時には守りつつそばで見守っていければ、親としてこれ以上の喜びはない。
リースの存在は、覚者となってからずっと孤独だった俺にとっての希望だったのだ。最も、本人にそんなことを言ったことはないし言うつもりもない。俺は結果的に彼女の不幸に乗じて、自分の孤独を埋めるために利用したのだから。
それでも、俺のこの十数年間はとても幸せな日々だった。危険な任務がいくつもあったが、なんとしてもリースのもとへ帰らなければと死ぬ気で戦ってきた。長いこと留守にしたり、重傷を負って帰った時も、怒りながら泣いて俺を迎えるリースの姿が、帰る場所がある幸せを俺に教えてくれたのだ。
何故今、思い出すのだろう
戦況が思わしくない。
ここはグリッテン砦から少し離れた戦場。勢いづいたオークどもが咆哮をあげなだれ込んでくる。いくら斬り伏せても奴らは際限なく押し寄せてきてキリがない。この数年で、オークどもは今までにないほど勢力を広げ、戦いは激化していくばかりだ。まったく困ったものだ。まだ死んでやるわけにはいかないというのに
俺は口の端に垂れた血を腕で拭うと、剣の柄をきつく握り直した。
これ以上覚者達の士気が下がれば、この場の戦線は崩壊してしまう。そうなれば他の
…
いずれはリース達のいる砦内へも被害が及ぶだろう。隊長である自分がしっかりしなくてはと声を張り上げるが、それだけで状況が変わることはなく、部下の覚者達は次々と倒されていく。杖を携えた癒し手はいるものの回復が間に合っていない。
「この場は捨てる!!砦前まで退がれ!!」
もっと早く、この場を放棄してでも退がらせるべきだったが、今更そんなことを悔いても仕方がない。このままいたずらに犠牲者を増やすわけにはいかない。この場にヴァネッサ隊長がいれば、彼女の戦う姿にまた士気も上がったのかもしれないが
…
兎も角補給もある砦近くならまだまともに戦えると判断した俺は、生き残っている覚者達に指示を出した。
「隊長!!」
部下の声で振り返るとオークが巨大な剣を振り下ろしてきた。オークの臭いのせいで鼻がダメになったのか、やつの接近に気がつかなかった。
咄嗟に左腕に盾を構え、敵の動きを捉えながら攻撃を弾き返す。怯んだオークにすかさず踏み込み、右手の剣を突き出しその身体を貫いた。オークは断末魔をあげて塵となり、風に乗って消えていった。
「
…
はぁ
…
っはぁ
…
!」
あたりにはまだ大勢のオーク達がひしめいている。部下達だけでなく、自分の疲労も限界に近い。早く退がらせなければ。俺は荒い呼吸を整えてから深く息を吸って、ゆっくりと吐いた。
俺も撤退する部下に続いて踵を返そうとした時、1人の覚者を見つけた。双剣を携えた、銀色の髪を持つ青年覚者だった。彼は脚を怪我しているらしく、片足をずるずる引きずるようにして歩いている。髪色のせいか、リースの姿が一瞬だけ重なったように見えた。
「
…
!?おい、後ろだ!!」
頭が状況を理解する前に、俺は反射的に走り出していた。
青年の背後に1体のオークが迫っていたからだ。奴は武器を構え青年に向かって駆け出していた。
俺の声に青年は振り向くが、あの怪我では武器を構えることも逃げ出すこともできないだろう。俺が青年のところへ辿り着くのと、オークが武器を振り下ろすのはほぼ同時だった。
「た、隊長
…
!?なんで
…
!!」
激しい衝撃と同時に青年の悲鳴のような声が聞こえた。俺は左手で青年を庇い、右手の剣でオークの剣撃を受けとめた、つもりだった。
盾も構えられず、無理な体勢で青年の前に躍り出た結果、己の剣はオークの身体を、オークの剣は自分の身体に食い込んでいたのだ。
「グッ
…
!あぁっ
…
!!」
遅れて焼けつくような痛みが傷口から全身に広がる。オークは倒せたが、これでは傷ついた青年を守ることができない。膝をついた俺に青年は駆け寄るが、俺は懐から最後の回復薬を取り出して青年に無理矢理持たせた。
「い、いいかっ
…
これを
…
使っ
…
て
……
早く
…
隊と合流しろ
…
!」
「で、でも!隊長が
…
俺につかまってください!」
そう言って差し出された青年の手を振り払う。背後にはオークの群れが迫ってきていた。
俺が彼の目を無言で見つめると、青年は泣きそうになりながら唇を噛んだ。やがて意を決したように回復薬を飲み干し、振り返らずに砦の方へ向かっていった。
それを見送った俺は地面に崩れ落ちるように倒れた。
装備ごと斬られた左脇がジクジクと痛み、赤い染みが広がっていった。復活力も使い果たし、奇跡はもう起こらない。
俺はここで死ぬのだろう。今までの出来事が浮かんできて、これを走馬灯というのかと呑気に思っていた。
覚者になってから100年近く、これまで何度も死にかけてきたから今更死ぬのは怖くない。それでも最期に浮かんできたのはリースの顔だった。あいつの今日の初陣が終わったら、戦果の自慢を聞きながら、盛大に祝ってやろうと思っていたのに。
「嗚呼でも
…
あいつ、酒にすげー弱いんだった
…
」
初めて酒を飲んで酔いつぶれたリースの姿を思い出して口元が緩んだ。
俺が死んだら、残されたリースはどうなってしまうのだろう。俺の死を知ったら、あいつは悲しむだろうか、また塞ぎ込んでしまうだろうか
…
また、独りになってしまうのだろうか。
俺は空に向かって右手を伸ばした。あいつに届くはずはない。色々言いたいことはあったが、もう時間がないようだ。
「ごめん
…
な、リース
…
ありがとう」
最期に見上げた空は、雲ひとつない快晴だった。
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