「キミ、ボクとダンスをしてみないかい?」
たまに彼のキャンプに足を運んで来てみれば、この男はまた突拍子もないことを言い出した。
自分のために用意してくれたという"部屋らしき空間"に積まれた藁に腰を下ろしていた覚者は質問の意味を聞き返した。
「隊長って踊れるのかなぁって思ったのさ。
ああ、1人でじゃなくて2人で踊る方だよ。社交ダンスというのかな」
ほら、こうやって、とソネルはこちらを見てなにやらへんな動きをしていた。
前に貴族達の祝宴に招待された時に見た気がする。
いや、招待というか、体良く警護に使われただけのような気がしないでもないが
…。
着飾った何組もの男女がそれぞれの腰や肩に腕を回し、音楽に合わせて踊っていた。豪奢なシャンデリアの下で、彼らの身につけた宝飾が乱反射するその光景は華々しく見えた。
同時に、それが今の自分には無縁のものであると感じた瞬間でもあった。
「ああいうのは、やったことない」
「やっぱり!そうだと思ったよ!」
納得の表情を見せるソネルを睨みつけるがそんなの御構いなしというように彼は覚者に歩み寄る
「じゃあやってみようか。
ボクが教えてあげるからさ。」
そういうや否やソネルは覚者の手をとり立ち上がらせる。彼女が突然のことに目を白黒させていると、ソネルは覚者の腰に右腕を回し、左手で覚者の右手をとった。
「ちょ
…なんでダンスなんか
…!
それに
…」
「何故かって?それはボクがここに置いてある本をついさっき読み尽くしてしまったからだよ。
また新しい本を持ってきてくれるよう頼んだんだけど、まだ来る気配がないんだ、つまり」
つまり、暇つぶしだろ。
覚者はそう呟いた
そもそも暇つぶしに社交ダンスしようなんて発想がおかしいが、そこは彼のことだからと自分に言い聞かせた。天才の考えることはよくわからない、うん。
まぁ社交ダンスなんて踊る機会もなさそうだしいい経験だと思うことにしよう
「うんうん。何事も経験だよ、まずは立ち方からかなぁ」
肩の力を抜いてとか、顎を少し引くといいとか、暇つぶしのつもりだろうに何故か本格的に教えられていた。
そうこうしているうちに今度は足の出し方とか言って次のステップに進んでいた。
(なんだこれ
…)
ここは舞踏会場ではない。
ただの空き地に色んなものを寄せ集めてできた、キャンプというよりまるで子どもの秘密基地みたいな場所だ。そんなところで2人の男女がくっついてダンスの練習をしているのも奇妙な光景である。
「いやぁ面白いね隊長。
産まれたての動物みたいな動きだよ!」
人が必死にステップを覚えようとしているのに
1人で勝手に盛り上がってるだけだろ、とソネルを見上げた時だった。
「でもね、それだけじゃなくて
…」
ソネルは突然覚者の腰に回していた右腕を彼女ごと引き寄せ、左手をさらに後ろへ引いた。
当然彼女の身体は引っ張られ彼に密着する形になる。
「ボクがダンスを口実にこうしてみたかったって言ったら、キミはどうする?」
腰に回された腕に力が入ったのがわかった。
真剣な声色と、目の前の灰色がかかった翠色の瞳から目が離せなかった。
だがそれも、ステップを間違えた彼女の足がソネルの足指を踏みつける僅かな時間までであった。
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