ある日の昼下がり、突如家の外から獣に似た咆哮と、人々の悲鳴が聞こえてきた。なにが起こったのか理解できず動けなくなっている私に、慌てた様子の両親は私の手を引っ張り、奥の部屋へと走り急いで机の下に押し込み机を布で隠すように覆った。
布の向こう側から、静かになるまで声をさず、絶対に出てきてはいけないと言われ、顔こそは見えなかったが、両親のあまりに必死な声に黙って頷くことしかできなかった
それから扉が壊される音、動物のような鳴き声と、両親の悲鳴が聞こえてきた。
思わず声が出そうになる口を両手で押さえた。
鳴き声と物が壊される音が離れた部屋の方から聞こえてくる。"奴ら"がこの部屋にきて、自分が見つけられてしまうのは時間の問題だ。
フー、フーと口を押さえた指の隙間から漏れる呼吸音に込み上げてくる涙。煩いほどの鼓動に心臓が飛び出るのではないかとさえ感じた。
大きな音とともに、部屋の扉が破壊されたのがわかった。
見つかったら殺されると、幼いながらも頭の片隅でなんとなく理解していた。
死にたくない、このまま見つかることなくやりすごせれば…
そんな願いも虚しく、布のちぎれる音とともに小鬼達が目の前に現れた。
全身に血を浴びた醜い姿に恐怖で身体が動かなかった。
小鬼が錆びついた剣を振り上げてた。私はもうダメだと思いながらもかたく目をとじ、耳を塞いでその場にうずくまった。
だが、いつまで経っても痛みは襲ってこない。
恐る恐る目を開け小鬼を見上げると、その身体からは銀色の刃が突き出ていた。
刃が勢いよく引き抜かれると小鬼は断末魔をあげ絶命し、跡形もなく消えていった。私はなにが起こったのか理解できずにいると、目の前に1人の男が立っていた。武具を身につけた男は先程小鬼に突き立て血に染まった剣を血振りして鞘に収めた。
「おい、怪我はないか。
悪かったな、助けるのが遅れちまって」
男は私の前にきて膝をつき、目線を合わせる。茶色の短い髪と金色の鋭い目、顎髭を蓄えた30代くらいの男がニカッと笑い、私の頭に手を置いた
「怖かったな、もう大丈夫だからな。」
多少乱暴ながらも、頭を撫でられて緊張の糸が切れたのか、私はそのまま意識を失ってしまった。
目が覚めると白い天井が視界に広がり、その横で男が私の顔を覗き込んでいた。
「お、やっと気がついたか。気分は悪くないか?」
まだ頭がぼーっとしているが、暫くしてから頷くと男はそうか、と息をついてからゆっくり話し始めた。
レスタニアは当時白竜の力が弱まっており、魔物達が各地に出没し人々の生活を脅かしていた。神殿レーゼから近いテル村も例外ではなく、魔物の襲撃を受けた。
そこを救ってくれたのが偶然村の近くにきていたこの男だったのだ。男は覚者といって神殿にいる傷ついた白竜と、人々を魔物の脅威から守護する役割を担っている。
今回の襲撃は神殿側も対応が遅れ、騎士団の派遣が遅れてしまったこともあり、自分の両親を含む何名かは犠牲になってしまったという。
この男が近くにいなければもっと被害が出ていたのだろうと騎士団の人も後にそう語った。
「すまなかったな…父ちゃんと母ちゃんを助けてやれなくて
お前が落ち着くまで、好きなだけここにいていいからな?」
両親の遺体は葬られていてその姿を見ることはなかったが、優しかった両親の笑顔や幸せだった思い出が脳裏に浮かんできた。もう二度とあの頃にはもどれないのだと、行き場のない感情の波が押し寄せて涙が溢れた。ひたすら声をあげて泣いた。
その間も男は黙って私の背中をさすっていた。
その後私は村に帰ることはなかった。
両親との思い出が詰まった場所にもどるのは自分がつらくなるだけだと思い、この男のもとにおいてほしいと頼み込んだ。どの道今の自分が頼れるのはもうこの男しかいないのだ。
男は暫く黙りこみ色々と考えた後、私を受け入れてくた。
「小娘のめんどうは苦手なんだが、まぁなんとかなるだろ。んじゃよろしくな」
これからどうするのか正直不安しかなかった。けれど両親が助けてくれたこの命を大切にしなければならない。私は男の顔を見上げ、差し伸べられた手をとった。
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.