けろか
2024-11-10 07:44:45
1579文字
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竹くくワンドロワンライ「寝言」

両片思いの室町竹くく🎋📛
お豆腐の国の夢をみる📛のお話です◻️👑

「何、八左ヱ門。まーた兵助探してんの?あいつなら部屋だよ」
「おお!ありがと……
 ごゆっくりぃ、俺はもう少し鍛錬していくから、とありがたい勘右衛門の声を背中に、忍たま長屋へ駆ける。
 兵助のことになると、身体が勝手に動いてしまう。いつからだろう、こんな気持ちを抱くようになったのは。
 彼が豆腐を作る時の真剣な横顔を、飽きずに目で追ってしまうし、集中して眉間に皺を寄せる仕草でさえ愛おしく思えてしまうのだ。
 兵助の部屋の前まで来ると、障子の向こうに人の気配はあるのに、普段なら聞こえるはずの物音が一切しなかった。いつもの本のページをめくる音も、硯で墨を磨る音も、筆を走らせる音もしない。
「兵助、へーすけ……?入るぞ」
 障子を開けると、兵助が机に突っ伏して眠っていた。
 陽射しに透けて、柔らかく彼の姿が映し出される。端正な顔立ちは解け、それはそれはあどけない顔で眠っていた。
 そっと近づけば、兵助の肩が心地よさそうに上下しているのかわかる。開かれたままの本の上には丸まった半紙。どうやら昼食後の勉強の途中で、眠気に負けたらしい。昨夜も豆腐作りの研究に熱中していたと言っていた。
「ん」
 僅かに空いた口から言葉が漏れた。むにゃむにゃと唇が動く。
「ここ、は……お豆腐の国……?」
 おとうふのくに?とは?寝言にしては随分と物語が具体的だ。まあ、兵助のことだ。夢の中にまで豆腐が出てくるのは当然かもしれない。
 にがりの滝が流れ落ちて、鰹節の花が舞い散る。豆腐の雲が空を漂って、道端には大豆がたくさん生えていて——。想像すればするほど馬鹿馬鹿しい光景なのに、今目の前で眠る兵助にとってはさぞ素敵な夢だろう。
 身じろぎとともに、黒髪が静かに揺れる。横顔が、夢の中で綻んでいく。
「お豆腐の皆さん……ありがとうございます」
 礼儀正しくお辞儀でもしているのだろうか、それとも笑顔で手を振ってるのだろうか?黒髪がぴょこんと嬉しそうに揺れる様子まで目に浮かぶ。
「うぇ」
 寝顔に浮かぶ表情が、微かに困ったように歪む。何か事件でも起こったのかもしれない。思わず、ごくりと唾を飲んだ。
「最高の豆腐を求心するその心を認め、僕をお豆腐王の妻に、?」
 ――は?豆腐に王様? 
 そりゃまあ兵助にとっては豆腐は神様みたいなもんかもしれないけど。ってそこじゃない。妻?!
「そんな、んん」
 眉を寄せて、寒いところにいる猫みたいに身を縮めている。兵助にとってはお豆腐王の妻になることは嬉しいことではないのだろうか?
「お気持ちは嬉しいです、でもだめです、僕には心に決めたひとが……
 心に決めた人――胸がずきりと痛んだ。ふざけた夢の中ですら、いや、ふざけた夢の中でも彼の心には誰かがいるのだ。豆腐を越える、誰かが。
「その人の名前?名前は――、」
 横顔が傾いて、うねる黒髪が頬を覆った。その名前を聞きたくて聞きたくなくて、手が伸びる。
「っはちざ……
 三文字、たったの三文字。でも八左ヱ門は、彼の唇が紡いだ一文字目だけで理解した。確信を持って、心臓がどくんと音を立てる。刹那、兵助の長い睫毛が震えて上がり、湖面のように澄んだ黒い瞳が現れる。己の姿が、ゆっくりとピントを結んでいく。
「八左ヱ門……
「兵助」
 視線が絡んだ瞬間、瞳の水面が揺れた。大きな双眸が何度も瞬き、頬に朱が差す。八左ヱ門も息を呑む。互いの心臓の音だけが、部屋に満ちていた。
 ***
「あれ?どうしたの、二人とも?顔で赤くして見つめあっちゃって……俺気ぃつかってめっちゃ鍛錬してきたんだけど、なんか進展あった?」
 結局八左ヱ門と兵助は照れくささに負け、お互いの鼓動を感じながら、何かが起こることもない時を過ごしたのだった。勘右衛門が帰ってくるまで、時間にして三時間である。