ぽふむん
2024-11-09 22:43:53
1972文字
Public ワンドロ
 

逃がさない

#童しの版深夜の真剣物書き60分一本勝負
「刺繍」「新居」「換気」
鬼飼if

一時停戦共闘をすることになったのは良いけれど、蝶屋敷の子たちが鬼を怖がるので、かつての実家を二人の新居として使うことにしましたが……

すんごい廃屋になっていたので、回復作業しているうちに絆されてます。

童磨の背中の蜘蛛の刺繍は「逃がさないぞ」というしのぶちゃんの執念、怨念、情念です


安倍晴明が一条戻橋の橋の下に式神を住まわせたのがモチーフです。


何枚もの畳が寒空の下干され、その畳を叩く音がする。
かつてはそこそこ立派な屋敷だったのだろう。
その屋敷の畳を全てしのぶ一人で……となると、かなり重労働だ。
日が落ちれば手伝いの手が現れるのだが、夜になってからではこの作業をするには遅い。

その手伝いの手は、屋内の陽の射さない場所で拭き掃除などに励んでくれている。

かれこれ四年は放置されたままだった家屋。
人が住まなくなると一気に荒廃が進むとは聞くが、ここまでとは

ここはしのぶのかつての実家。
ここで両親と姉と、お大尽とまではいかないが、それなりに裕福に暮らしていた。

薬商だった
それがいけない。
確かに金に不自由はなかった。
だが

かつては、効くか効かないかよくわからない、草を煎じたもの。
怪しき原材料の薬を扱っていた。
今は科学的根拠はあるものの、副作用の強いもの。後の世では麻酔などに使われる、取り扱い厳重注意な危険な薬も、ある意味毒と理解しながら、規制がまだないことをいいことに容易く売り……成した財。
日頃病人がたむろし……

健康なものにとっては、恐ろしい、病と死の臭いが付きまとう場所。
恐れられ、嫌われもした。

姉の生前は、人が住んでいなくても、隠しの手を借り換気を行うなどの手入れをしていた。
姉が死に……
しのぶに相続されたはいいが

蝶屋敷で手一杯。どう扱っていいのやら図りかねた。
鬼殺の手段は、習って研鑽を積んで来ていても、こういうことは教わっていない。
今は屋内にいる男に教わりながら復旧作業中だ。
手伝って欲しいが、日にあたる必要のある仕事
仕方がない

「はぁ~やっと何とかなりました」
額の汗を脱ぐうと、奥から
「ははは、お疲れ様」
という男の声がした。

部屋に戻ると、室内は綺麗に掃除され、食事も風呂も完璧だ。
「あなたの方がおさんどんの能力にも長けているとは……本当に悔しい」
しのぶはむくれてみせた。
「ははは、こういうことをせずに過ごした期間が長かったツケだよ」
その言葉に童磨は笑う。腹が立つ。

「させたのは誰ですか!」
本気で怒るが 童磨は気にもとめない。
「えー、カナエちゃんの事は俺だけど、他は俺のせいじゃなくなぁい?」

その言葉にしのぶは、ぐっと言葉に詰まった。
たしかに、言われてみればそう。八つ当たりだから。
姉が居たら全部やってくれたのに……そういう想いの八つ当たり。八つ当たりに対する対応には慣れている童磨は、のらりくらり。
しのぶはこの男に八つ当たりは無駄なことを悟る

「り……料理は私だってそれなりに」

「見た目を気にしなければね」
「うるさい!見た目まで高級料亭みたいに完璧に作るな!」
「料理は味だよ。見た目はオマケさ。さ、召し上がれ」
「目でも味わうと言うでしょう!いただきます……あむっ……美味し♡」
「目でどうやって食べるんだい?ふふふふふ、たんとお食べ」

童磨の着物の背には女郎蜘蛛の刺繍が、妖しくランプの灯に映える。
しのぶお手製の刺繍は見事な腕前だと思う。
その女郎蜘蛛、見たものは今にも動き出しそうな錯覚を抱くだろう。




寒空に冴え冴えと輝るみ事な三日月
明後日には二人で任務に出ることになっている。
「今頃は水の剣士と猗窩座殿が戦闘中かな……あの水の剣士も大変だ」
腕利きの剣士相手なら、あんなにおしゃべりとは……
「つれないなぁ……猗窩座殿」

童磨は盃の中の稀血を口に含んだ
「ああ、しのぶちゃんの血……美味しい」
今はしのぶ手製の薬のおかげで少量の血のみで平気だ。
しのぶの血はその中でも格別だと思う。
だが、あの体格。
あまり取りすぎてはいけない 。
特別な美酒だ。
後ろに女がいることに気づいた。
「どうしたんだい?昼間重労働をしたんだ 。よく寝て疲れを取らなくては」

「なぜ来ない」
しのぶは、静かに怒っている。
確かに、童磨にとってしのぶの寝顔はご馳走なのだが、本人が嫌がるから、こうして月を眺めていたというのに
「えっ、来るなと言ったから行かない……
「来るなは来いだ!来いも来い」
無茶振りこの上ない。
思わず童磨はぽかんとする。
「何その禅問答」
「来るなと言ったら来い。寒くて寝られません」
たしかに今夜も冷える。

「体温で布団も温まっ……
「来いと言って居るでしょ!この歩く湯たんぽ!」
そういうや否や、しのぶは童磨の胸に飛び込んだ。
首筋の臭いを吸ってくる。
まるで、手自ら施した童磨の着物の女郎蜘蛛のようにしがみつく。

「怖い夢でも見たのかい?」
そう言うと、小さくうなづいてきた。
童磨は、しのぶを担ぎ上げ、寝屋に連れて行ってやる。
布団に入れると、自分も中に入り込み、しのぶの小さな体を包み込み、背を優しく叩いてやった。