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108utata
2024-09-18 22:46:08
8806文字
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供養
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太敦/マジョ
太敦
元データ:2021年?
漫画用に、状況が分かりやすいように書いているので文章自体は読みにくいと思います。
インスピレーションを受けた曲「魔女 すずきP」
《一章:えほん》
きづいたらこんなところにいた。
――
朝も夜も判らないくらい薄暗いここは、同じ空気がずっと留まるせいでどんよりしていた。
光差す鉄格子の淵から水が滴り落ちる音がする。石で作られた壁も床も、一日を通してひんやりとしていた。たまに、でこぼこが酷いところに触れてしまうと皮膚が引っかかって血が滲むことがあった。さらに、当然どちらも硬いから、ここに坐っているだけでも全身がすぐ痛くなってしまう。
目の前には金属で作られた堅固な柵がずらりと並んでいて、外には絶対に出られないようになっていた。
中には年端のいかぬ少年の細い首元と足元に繋がる枷鎖は、この場所の隅につなぎとめられていて、身動きを取ろうにも、邪魔になるし、カチャカチャと音が鳴るのが、寝るときは特にうるさく思えた。
隅で膝を抱えて、敦は坐っていた。
今日も変わらず一日が終わると思っていた。
「ねえ」
そんな声が聞こえた気がした。でも、ここに人が入ってくるのはこんな時間じゃなかったはず、と敦は顔を伏せたまま不思議に思った。それにこんなに高い声ではなかったはずだ。
「おーい」
左の方からそれは聞こえてきた気がした。
恐る恐る顔を上げると、敦よりもいくつか年上と思われる見知らぬ少年がこちらを見ていた。彼の姿はなんだか不思議だった。服装はなにもおかしくない、と思う。だけど、彼の顔にも首にもぐるぐると白い何かが巻きつけられていた。片目を隠した彼を、敦は今まで見たことがなかった。否、そもそも同じ年頃の人間に出会ったことがあるという記憶は思い出せる限り、なかった。
「
…
どこからきたの」
敦は久しぶりに出した、掠れた声で尋ねた。
「
…
普通に入ってきた」
「ふつう
…
?でも、ここ」
「鍵を開けただけ」
少年はぶっきらぼうに答えた。
「かぎ、もってるの?」
「持ってないよ。これで開けた」
少年はそう云って、敦に細長い針金を見せた。
「
…
すごい!!」
「別に」
敦の目は輝いた。いままでずっとどうがんばっても開かなかったここを、開けられる人がいるなんて
…
!
少年は厭な顔も嬉しそうな顔もせず、敦をなおも見ていた。
「ねえ、あのっ、じゃあ
…
ちょっとまってて!」
敦は部屋の隅から煤けていながら湿る一冊の本を取り出してきた。
「これ、よめる
…
?」
ここには何も物はないと思っていたのに、不思議なことにこの一冊の本だけがここにあることに或日気付いたのだった。それは、部屋の隅の隙間に挟まるかのように置いてあった。少年はたまたま見つけたのだった。見慣れないそれが気になって、一日に何度か紙をパラパラ捲って見るけれど、字が読めないから詳しいことは何も分からなかった。幸いなことに、絵が沢山描かれていたから、意味は分からずともなんだか見るのが楽しく思えた。
こんなにすごいことができるひとなら、きっとこのひとはこれがよめるはず、と敦は思ったのだった。
「なにそれ
…
本? なんで」
少年はその本の表紙をじっと見つめた。
「ここにずぅーっとあったんだけど、ぼく、もじがよめないから」
「
…
別にいいよ」
その言葉を聞くと、敦は一層明るい表情になった。
「ほんと?」
「うん」
「やったあ!」
ニコニコと笑って、敦は少年のすぐ横に坐った。
「これはなんてよむの?」
敦は本の表紙を指さした。
「マジョ」
「まじょ?」
「そう。
…
不思議な力を持っていて、それを操る人」
硬い表紙を捲ったのだった。
『或る処に人々に大層恐れられていたマジョがいました。
然しその姿は誰も見たことがありません。森に棲んでいるという噂だけが流れていました。』
「うわさ
…
?」
「そう。次に進むよ」
「うん」
『或る日或る村の少年が森に入ってから姿を消しました。村の人々は彼方此方を探しましたが見つかりません。
遂に少年が見つかった時にはひとつきが経っていました。ですが
――
』
少年がそう云いかけた其の時だった。
ガシャン、と重い音とともに、鍵を開けてこちらに向かってくる足音がした。
「行かなきゃ」
「でも、どこに
…
」
「
…
」
「ねえ また来てくれる?」
不安げに敦は見上げて尋ねた。
「たぶんね」
それを聞いた敦はぱあっと表情を輝かせた。
「じゃあ」
不思議な少年は一言つぶやいたかと思うと、敦がまばたき一つする間に、この場から消え去っていた。
なんだったんだろう、と思いながら、この先に来るだろう事態に耐える為、膝を抱えて顔を伏せた。
カツリカツリ。
――
まだ生きておるのか。
そんな罵りが降り注いだ。
――
お前のような禁忌の子はとっとと消えろ。
冷たい声が部屋に満ちた。
《二章:ないとめあ》
ざわざわと騒々しい観衆の声。囲う人々は鋭い目で此方を見ている。厭な視線だ。身体の芯まで貫かんばかりの視線で。指の端まで冷え切っていく。「
…
ッ」。群衆の中に誰か、自分の知っている人を見た気がして、必死に手を伸ばす。でも届かない。波にもまれて遠ざかっていく
――
。
「
…
誰か
…………………
!!」
ばっと起き上がった。冷汗がだらだらだった。心臓は痛いほど激しく脈打ち、頭はくらくらする。絶えず息ははあ、はあ、はあ、と荒いでいた。喉が焼けるように痛い。
「起きた?」
そんな敦に呼び掛ける声がした。声のする方を向いてみると、そこには以前見た包帯の少年が此方を見ているようだった。
「君、魘されていたね」
「な、なんでもないよ」
敦は焦ったように返した。
「然うだったらいいね」
その少年は声の調子を変えず云う。
「うん」
出会っているが少し時間は経っているが敦はいまいちこの少年との接し方が皆目わからなかった。此方に寄ってくる気配があると思ったら其処迄こちらに寄ってくる素振りを見せなかった。だからと云って離れる訳ではない。
「
…
そうだ、あの、よければこのほん、またよんでくれる?」
「いいよ」
やっぱりこの少年が拒むことはないのだ。敦は不思議に思いながら、そっと少年の側に坐った。
「じゃあ続きから」
『無事に見つかつたのです 然し、無事ではありませんでした
彼は様子が可笑しいのです そう、狂つていた
理由はすぐ側に居ました そうです、マジョです マジョが呪いをかけたのでしょう
直ぐに捕まえて、やっつけました
少年は直ぐに周りの人によって恢復が試みられたという 』
「
…
まじょさんやっつけられたんだ
…
」
「少年の様子が可笑しかったから、手っ取り早く屹度隣に居た此奴の所為だ、っておもうのは普通じゃない?怖かっただろうね」
「
…………………
そうじゃない」
ぼそりと小さな声で敦の口から転がった。零れ出た瞬間、敦はドキッとしてハッと口を手で覆った。
――
何故そんなことを思った?
「嗚呼そういえば。なんで君は此処に閉じ込められているの」
ぱたんと本を閉じる音がして恐る恐る敦は顔を上げた。彼は何も気にする様子がない。この少年には気付かれていないようだった。
敦は再び視線を下に戻した。
「わかんない」
「
…
」
「きづいたら、ここにいたから
いつからなのか、どこなのかわかんない」
「ふうん」
感情の読み取れぬ声で反応して、少年は壁に寄っかかった。
「別に良いんだけど。あともう一ついい?」
「
…
うん」
「なんでさっき、そうじゃない、なんて思ったの?」
「
…
!」
敦は目の前が真っ暗になった。なんで、なんで、若しかしてきこえていたの?なんてこたえればいいの?
「
…
なにも、なにもしてないから
…
!」
それしか言いようがなかった。
「何で然う思ったの?だって、書いてあるんだよ、少年の様子が可笑しくなっちゃったって」
「わからない、わからないけど、ちがう
…
!」
「ふうん」
「
……
わかんないけど
…
」
敦は縮こまって云った。
少年は少し困った顔をしてから、敦の方へ微笑みかけた。
「少し、教えてあげる」
「
…
なにかしってるの?」
「
…
勿論」
敦は不思議に思いながらも気になった。
「君は
…
禁忌の子だ」
「
…………………
え?」
何度も何度も浴びせかけられた怒号がフラッシュバックする。なんで、なんでこのひともそんなことを、いうの
…
?敦は不安で堪らなかった。
「悪者だからだよ、君がそんなことを思うのは」
困惑する敦を他所に、少年は滔々と語る。
「だって、このマジョって、君のことなんだもの」
「!」
何を言っているのかわからなかった。急に、自分がまじょだなんて。そんなはずはない、そんな記憶はない。それにこんな姿で
…
何かの間違いだって信じたかった。
「
…
忘れて仕舞うのは仕方ないけどね。怖かったんだろう?怖ろしかったんだろう?自分で記憶を消そうとしたくらいに」
「ちがう」
「よくあることだよ、別に責めてるわけじゃないから。君は何も悪くない。唯、君が
…
」
突然そのまま少年は云い澱む。口を動かすものの喉からは何も出てこない。何時もの無表情から想像もつかない様な苦しそうな表情を浮かべる少年は、ぽんと、敦の頭に手を置いた。
「
…………………
君が”私”を忘れて仕舞ったことが、悲しいんだよ」
「
…………………
あ
……………………………………
」
敦の脳裡に刹那に蘇る。
⦅三章:うつつ》
――
木々が生い茂っている。その森の中心で、敦は人目に付かぬようひっそりと暮らしていた。
そんな或る日。斜陽が濃く影を作る。何時ものように外でふらりと探し物をして歩いているとがさりがさりと何か此処に分け入ろうとする音がする。敦が少し身構えると、其処には一人の青年が坐り込んでいた。
「
…
如何して此処に
………
此処は貴方のような人が来るところじゃ
…
」
小さい声でおもわず呟いた。彼は此方を振り返った。
「「
…………………
!」」
黒い蓬髪の青年と目が合った瞬間、何とも云えぬ衝撃が敦を貫く。人間が現れたからじゃない、押し殺した声が相手に聞こえていたからではない、別の、何か。
青年もこちらをぼうっと見るばかり。
「
…
迷ったんですか」
敦は絞り出すような声で問うた。
「
…
嗚呼、うん」
調子の狂ったような機械のような応答。
「
………
そう、ですか」
敦は逡巡する、如何すべきか。
「あの、もうすぐで暗くなってしまいますし、今日は此処に泊まって、明日発つのは如何ですか」
「あの、御免なさい、何もないんですけど
…
」
敦は申し訳なさそうに家に入れた。
「
…
十分有難いよ。あの、君は
…
」
「敦です」
「敦、君。君は此処にずっと一人で住んでいるのかい」
「はい」
「
…
凄いね」
「いえ、そんなことは
………
!」
真逆迫害されてここまで来たなんて云える筈もない。多分この人はこの近くの町の人間だろう。この身がバレる訳にはいかないのだ。バレたら屹度。
「貴方は如何して此処に
…
」
「太宰でいいよ。私は
…………………
自殺をしようとしていたらこんなところに来てしまっていてね」
「はあ」
「土地勘がなくて困っていたから助かったよ、敦君」
全くもって意味が分からないけれど、目の前の太宰と云う人間はしれっとしていた。態々嘘を吐く必要性もないだろうし嘘にしてはあからさまなのだから一周回って信用してもいいかと少し思った。
「はあ
…
取り敢えず、寝室は後で紹介するので此処の椅子にでも
…
」
「(椅子)一つしかないけど君は?」
「僕は大丈夫ですよ、坐ることはあまりありませんから」
「でも寝台は?」
「貴方が使ってください。お疲れでしょうし。
…
僕は大丈夫なので」
「それじゃあせめて一緒に寝ようよ。私も色々して貰うのは申し訳ないからね」
「いえいえ、貴方はお客なんですからお気になさらないでください」
太宰は不満げだが、敦は必死だった。慥かに一応重さは太政ぶだろうけれど
…
若し悪く扱ったなら後で復讐されるという危惧があった。
「あ
…………………
基本的に自由に過ごしてもらって構わないんですけども、地下の部屋には絶対に入らないで下さいね。危ないので」
先程迄の穏やかな口調から一変して、冷たい云いようだった。
太宰が口を開こうとすると、敦はするりとどこかへ行って仕舞った。
(ああどうしよう)
あれから敦は後悔に襲われていた。心臓が激しく動く。自分の姿がバレるだけでなく家に迄招き入れてしまうなんて。なんでそんなことをしたのか、自分でもわからない。でも、一日だけ、だから。言い訳するように心で唱えた。
ふと外を見れば闇がじわじわと広がっていた。部屋もそれ以上の割合で闇に飲まれていたので、魔法を使って其の場を明るく照らした。しかしすぐに消した。そうだった、今日は一人じゃない。
今度はランタンをぽんと出して、普通の人に見えるように偽装する。魔法に頼らない生活をやらなくなって久しい今、当然実物は手近にない。こうやってそれっぽいものを出してみても一時凌ぎにしかならず、この家のどこかにある筈のホンモノをまず持ってこようと思った。
とはいっても大体場所の見当はついているので、見つけるのは難くなかった。埃を被った其れを手元に置くと、蝋燭を入れ火を灯す。
そうやって騒ぐ心を落ち着けてから、敦はもう一度太宰の前に姿を現した。
怪しまれぬよう、普通の人に見えるように。
「遅くなってごめんなさい。暗いままで
…
。晩御飯にしますね」
「君がそう云うなら」
太宰は怒る様子もなくにっこりと笑って答えた。
その後も太宰は不機嫌になる様子が無かった。敦は誰かと関わるのはもう随分となくてその所為で起きる粗相だってあるはずだが何も口を出さない。一人でどこかに行く様子もなく、ずっと敦の側に居た。
小さい寝台に二人でやっとのことで寝転がる。敦は太宰に背を向けた。すると敦の身体にするりと後ろから手が回されて、敦は慣れない感覚に身体を強張らせた。背に温もりを感じる。
「敦君」
「
………
」
「
…
ありがとう」
「
…
そんな」
敦は動揺して声が震えた。
「おやすみ」
その言葉を聞き敦は少し目を開いた。
「
…
おやすみなさい」
敦にとってそれは初めてかけられた言葉だった。
慣れない温もりを感じて目を覚ました。
敦がそっと抜けようとすると引かれる感じがして、振り返った。
「おはよう、敦君」
「
…
おはようございます」
慣れない言葉を発して敦は変な気分がした。けれど不思議なことに不快じゃない。
そうやってあっという間に時間は進んで、別れの時が近付いていた。
森のはずれ、町が近いところまで敦は太宰を連れて行った。
「一日ありがとう」
「いえ、屹度ここからなら道も分かりやすいとは思いますけど、帰り道も気をつけてください」
「
…
うん、分かった」
そう云うが一向にその場を離れる様子はない。敦の足も動かずのままだった。
この間一度も太宰の方を見れなかった。
無言の空間。
「
…
太宰さん」
「
………
」
敦はそう云ってから気まずそうにした。
「
…
ごめんなさい呼び止めてみただけです。それじゃあ」
「敦君」
「
………
」
「やっぱり此処は違う町だよ。私のいた処じゃない」
「でもこの周辺には此処以外「云っただろう、私は自殺しに来たってさ。その為の用意も全て終わらせて出てきた。本来ならばもう疾っくの疾うに私は死体になっている筈だった。だけどね、君に出逢った。君を好きになって仕舞った。莫迦みたいな嗤える話だけど。だから、いずれにしてももう私が居なくなったってそう変わらない」」
敦の言葉をかき消すように太宰はそう告げた。
「それは駄目です、貴方にはきちんと居場所があるでしょう。其処に戻らなきゃ
…
」
「ないよ、唯息苦しいだけだ。君と一緒だよ」
「
…
」
自分の状況が見透かされているようで、敦は黙った。
「君だって帰る気配がなかったのに。思ってることは同じだろう?」
「そんなことは
…
」
「
…
敦君、どうか私を匿ってくれないかい」
敦は迷った。規則に従うべきか、心に従うべきか。こんなことで迷うことは初めてだった。普通は当然規則遵守なのだから。
――
人とは関わってはいけない、あれは危険な存在だと。だけど敦は揺らいだ。どうしても今まで感じたことのない感覚が忘れられない。それに、この人も居場所がないと云う
――
嘘は吐いていない、と敦も解って仕舞った。
幸いなことに周辺に人は誰もいないようだった。
「太宰さん」
敦は恐る恐る太宰の手を引いた。
もう少しだけ、時を止めるとまではいかずとも流れ方を緩やかにする方法があったはず、手を引きながらそんなことを思い出した。
「
………
だ
…
ざいさん
…
?」
混乱した様子の敦はその少年
――
太宰を見て目を白黒させる。
「あったことがある
…
? ずっとここにいたんじゃ
…
」
ズキズキと頭が痛んで思考を拒む。
「敦君!」
太宰が敦の名を呼ぶ。心配そうに、それでいて必死に叫ぶように。
…
敦は以前こんな声を、聞いたことがあると思い出した。
「なんでこんな処に
…
いるんですか?!だって、だざいさん
…
」
――
のがれられたんだとおもったのに。
⦅四章:ゆめ》
戻ってから敦は太宰と約束事をした。人目に付かないようにすること、存在が判明してはいけないこと。
蜜月を過ごす二人は徹底した。敦はそのためにひっそりと太宰に魔法をかける事さえあった。同時に秘密裏に時の流れを緩やかにするはずの魔法を探した。何処かに埋もれた書籍にあったはず。太宰の目を盗んで探す。
然しそれは突然壊れた。
帰りが遲い敦を探しに外に出た太宰は嫌な予感を抱きつつ、探しに出たがもう全てが遅かった。
彼は太宰の見知った人に押さえつけられていて、身動きが取れない。太宰もそれを眼前にして仕舞えばもう動けなかった。
それからの敦の記憶はあやふやで、数多の痛みを受けてから鮮明な記憶があるのはそれから暫くして視界が開けた時だった。
四肢が十字に括りつけられていた。ぐるりを見渡すと多くの人が居て怖ろしい形相と視線で敦を刺した。怒号と罵詈雑言が此方に向かうのを敦はじりじり痛みを絶えず受けながら聞いた。「禁忌の子」「王子を誑かしたマジョ!」そんな言葉が多く飛び交った。熱い。現在火炙りにされているようだった。
ぼんやり行き交う人々を見ていると其処に見知った影が見えた気がした。
名前を呼んだ。その影は勢いよく振り向いた。
太宰さんは無事だったんだ
…
その事実を知ってそのまま敦の意識は途切れる。
そして再び目を覚ますと其処は締め切った牢の中だった。そして敦はその全てを記憶の倉庫の遠くへ封じてしまったらしい。何も知らず太宰が来るまでずっと此処にいたという訳だ。
《終章:まほう》
苦痛に悶える敦を宥めていると気付けば彼は夢の中へ落ちていた。太宰はそれでも敦を撫で続けた。
「
………
ああ焦り過ぎたな
…
」
太宰の姿は相変わらず少年のままだ。片目も包帯に巻かれたままだ。
「
…
流石にこんなものを君に見せられないからね」
そっと其処に触れた。
――
連れ戻されてから太宰に自由はなかった、否元の生活に戻っただけだ。オウジとしての立場に戻っただけ。少しだけ違うのは監視の目が多くなっただけだ。
何やらいろいろ問いかけてくるけど全て流していた。愚問ばかりだ。
或る日城の側で奇妙な噂を聞いた。マジョが火炙りされていると。嫌な予感がした太宰は側の人間をはね除けうわさの中心部へと慌てて駆ける。
人混みが酷い。前に進むのがやっと。厭な空気が漂う方へ向かう。
あらゆる言葉を投げつけられる中心へやっと向かうと人混みの向こうに白髪の見知った彼がはりつけられているのを見たきがした。目を見開く。
少し目が合った気がした。そして名を呼ぶ声が聞こえた気がした。弱弱しい様子の敦を見た。
何故か彼は笑った。
そして力が抜けた。
太宰は立ち竦んでいた。呆然としていた。もう此処迄来たら打つ手がなかった。
火は増々勢いを強めた。天まで焦げ尽くすよう。怒声もますます強まる。
太宰はそのまま。
不意に殺気を感じた。ドキリとすると太宰はその方へ向くと敦と目が合った。否おかしい。敦は気を失ったままだ。目なんて合うはずがない。でも慥かに。
ソレに気付いて太宰はゾクリとした。敦の側に寄りそうように凶暴な何か
――
虎が此方を見ている気がした。恨みと殺意がこもった瞳で。あれが何なのかてんで分からない。だが他の人にも見えているようで徐々に怯えの空気が広がる。逃げ出すものも居たが太宰は足が動かなかった。射竦められたよう。目も離せない。
…
それが敦の中に封じられていた化物であると知るものはもうこの世に居ない。敦もずっと知らない。仔細を知るものは居ない。
突如として太宰はぐらりと視界が歪んだ。片目が抉られ続けるようにじくじく痛む。傍から見れば太宰の中に虎が這入り込む様になっていたのだが太宰は知らない。
気付けば彼は牢の中に居たのだ。その隣には幼い姿の敦が膝を抱えて坐っていて。
慈しむような目で敦を眺める。
「隠していたようだけど、君が魔法を使えることは知ってたよ。でも、一切君は悪い事には使おうとしなかった」
幼い姿の太宰は、残った涙を目尻に溜めて眠る敦に語り掛けるように云う。隠された目に触れた。
「これはね、そんな君がかけた唯一の呪いなんだよ」
そう云って嬉しそうに微笑んだ。
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