108utata
2021-11-11 20:09:17
2996文字
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兎【十五夜パロ】

太敦


真っ暗な空に煌々と月は光り輝く。
今日は十五夜。探偵社の皆で,お月見をしているところである。だが事実,お月見は表の命名に過ぎず,実際には飲食するばかりで,まあ,“花より団子”状態ではあるが,それは置いておこう。
故に太宰も然り,思う存分,現在進行形で楽しんでいる所だ。斯ういうのも中々佳いものだねと思いつつ,独りで呑んでいる。
最初は何時もの様に,国木田に絡んで遊んでいたのだが,徐々に国木田は酔いが廻ってきたのか茫然とし始めて反応が鈍くなり,遂にはぐっすりと眠りについて仕舞った。此処までお酒に弱いのかこれじゃあ面白くない,と太宰は思い,悪戯で起こしてみようかなと思ったものの,流石に鬼畜だと与謝野に諭されて,放っておく事にした。
そういう事で,独りでぼうっと呑んでいる訳である。辺りの人は,寝て居たり話したり戯れたり,中々見ていて面白い。
だが,太宰は段々暇になってきた。
折角色々な人が居るのだから。独りなら,家でも佳かろうと。
そう思い始め,周りに誰かいい感じの人は居ないだろうかと辺りを見渡し,ふと1人の少年を思いつく。
そう云えばさっきまで乱歩さんの手伝いをして居たなと,思ったものの,そろそろ終わって居ても可笑しくは無いと思えたので,注視して探す。
太宰の思った通りだった。
敦は,縁側にひとり,坐りこんで居た。心無しか俯いている様にも見える。何か厭な事でもあったのであろうか,とそれを見て急に太宰は焦り始めた。真逆否乱歩さんが非道い事をする筈ない。だとすれば,何か他に原因でもあったのだろうかと考え込むと,即座に思い当たる節がひとつあった。
それだとしたら,紛れもなく,自分の所為である。
焦りに勢いよく身を任せて,辺りも気にせず,敦の元に駆け寄った。
「敦君………!!」
突然の太宰の訪問に,敦からはむぐっと何かを喉に詰まらせる音が鳴った。
………行成如何したんですか?」
敦は困惑顔で咽せながらも太宰の方に振り向いた。
その顔を見た瞬間,太宰からは安堵の溜息が零れた。
………お餅食べてたんだね」
「はい,乱歩さんに手伝ってくれた御礼だって云われて,沢山貰って,漸く今食べてただけなんですが
「んんー,何でもないや」
ガッカリしている様に見えた敦は単にお餅を食べているだけだった。それどころか,周りにハートマークでも幾つも浮いて居そうな勢いで,笑みが溢れて居た。
それを見て,突発的な行動に出た恥ずかしさと,酒で顔が赤らまった太宰は,それを誤魔化すかの様に尚も敦に話しかける。
「あーでも,淋しかったでしょ?」
「何また行成………完全に酔っ払ってますよね太宰さん。別に皆さんが居るので淋しさは無かったですけど……それに,あちこちに可愛らしい兎が居ますし!見てて癒されますよね………鏡花ちゃん,すっごく嬉しそうに目を輝かせて撫でてましたよ。…………………………って太宰さん何してるんですか………
願って居た答と対極的な答を聴いた太宰は,如何にも遣る瀬無くて,何故だか敦を後ろからぎゅっと抱き締めた。
「あの………お餅食べ難いんですけど
敦は顔を顰めた。
更に餅と比較された事に,加えて餅に負けた事に,太宰は益々ムッとした。
「非道い」
「えっ………否,如何したんですか。太宰さんは皆さんに沢山絡んで居たでしょう?太宰さんも淋しくなかったでしょうに」
「本当にそう思うのかい」
「否,もう何ですか,酔っ払ってますよね!?さっきから言動が支離滅裂ですよ!やっぱり。一回落ち着きましょう………あっ,お餅,食べますか?」
そう云って,敦は高々と積み上げられた,その山積みの中から大きめの餅をひとつ,笑顔で太宰に渡そうとする。太宰もそんな敦の気配りには,断りきれず,渋々と手に取って口へ放った。
——敦は,太宰のその姿が少し好きだと思ったのは,云わず心の内で隠しておく事にした——
暫く太宰が咀嚼した後,敦はそれを見計らって話しかけた。
「もう………今日は一体如何したんですか。お酒飲み過ぎてません?」
「そこまで呑んでないよ?」
「そう云う人に限って,沢山呑んでいるものですよ………
「噓じゃないし!」
「はあ………
敦はそれ以上の追求は辞めにする事にした。
何方からも何も云えずに,沈黙が2人の間に満ちる。
二人の目の前には1匹の真っ白に輝く兎がひょこひょこと動いて居た。太宰は視線をじっと其方に向けて,
「私さ,淋しかったら死んじゃうかも」
と口から何処からともなく零れ落ちた。
「行成如何したんですか
敦は怪訝な顔をした。
「違うよ違う,兎だよ」
「兎………?」
敦は太宰の方に少し振り向いて尋ねた。
「兎って,淋しいと死んじゃうって謂われているんだよね。だからそれと私も一緒かもって思ってさ」
「へぇ………でも太宰さんは淋しくなくても死のうとしているでしょ」
「うーん,痛いとこ突かれたなー,否,いつも淋しいって云ったら?」
「甘えん坊なんですね……って思います」
うーんと太宰は唸った。
「結局何が訊きたいんですか?」
敦は尋ねた。
……否特に訊きたいことは無いのだけどそういえば,お願いなのだけど,此の儘膝枕して?」
………返答になってませんし,巫山戯ないでくれませんか
「これは真面目だよ?細かい事は気にしない気にしない!」
「はぁ………分かりました…………………はい」
太宰が云った事に,何の抵抗も無く敦は従う事にした。こういう時の太宰は何を云っても聞かないことは,敦が身を以って佳く知っている。先程からの言動から全て分かっていたが。抑,抵抗しようという気にもならなかったのだが。他の皆が近くに居ないからだというのもある。
敦の返事を聴くと,太宰は笑顔で一目散に太腿に飛び込んでゆく。
一度顔を埋めて,上を向いて,太宰は云う。
「矢っ張りここに居るのは幸せだねぇ」
「幸せなら佳かったです」
敦は,太宰がそれに加えて,お酒もあると尚更素敵だなぁと云うのを,苦笑しながら聴いて,此処で,敦は一つの名案を思い付く。
今太宰さんが乗ってるのでお酒は持って来れませんが,お餅なら此処に,ほら,沢山ありますから食べて佳いですよ,と敦は云い,それからじぃーっと太宰の目を覗き込んだ。
「これで暫くの間は,入水,辞めて下さいますか?」
「え?」
「淋しいんだったら,何時でも——流石に仕事中は無理だと思いますが——太宰さんに構いますから。ね?」
慥かに太宰は先程そう云った。だから太宰はふうっと一息吐いてから。
…………………仕方ないなぁ,大好きな敦君の願いだもんね。判った。暫くの間は辞めようかな。でもさっき君が云った事は約束だからね。忘れないよ?」
「勿論ですよ。破りもしませんから」
敦の濁り一つない目に見詰められて,太宰は心から嬉しく思った。
だから,口角が上がるのが止まらなくて,照れ隠しに太宰はそれからひとつ,敦に口付けて,敦は,ぴゃっ,と悲鳴を上げて,色付いた椛のように真っ赤になった。
皆からは見えないから安心し給え,と太宰は云うものの,それでもわやわやと,太宰の顔から逃れられずに焦り続ける敦の後ろには,悠然と真っ白に輝く月が見詰めていた。
太宰はそれを見,嗚呼,好きだなぁ,と改めて思うのだった。