ミズト
2015-06-24 23:20:10
1349文字
Public ◆A
 

甘いよ~ケーキよりも甘すぎるよクリス先輩!

クリ御文/というかこのネタまだ通じますよね?という一抹の不安を抱きつつ。

「俺達の顔のケーキが差し入れされたからみんなで食べよう」――青道野球部寮内食堂に集まった部員たちは、美しいプリントが施されたケーキを前に、各々感嘆の声を上げた。
 机の上の顔がひとつずつ平らげられていく中、御幸はその様子を見るばかりで、口を付けようとはしなかった。何のことはない、甘味が苦手なのである。しかし、だ。
「じゃあ、次はクリスを食べようかな」
 来た。いくら甘味が苦手な御幸といえど、好きな人の顔がプリントされたケーキには関心を持たずにはいられない。食べたいような食べたくないような複雑な心境になりながら、問題のケーキにちらりと目線を送る。かっこいい。なんてかっこいいんだ。やっぱりクリス先輩はクリス先輩だ。と、見ているだけで胸も胃も満たされるような錯覚に陥る。ケーキにプリントされたところで愛する人の魅力は些かも損なわれることはなかった。
「御幸は甘い物苦手だから、食べないんだよね?」
 などと今更わざとらしく訊いてくる亮介に、「―――食べます」と肚に力を込めて返した。ちなみに、ケーキの顔の主はもう少ししたらやってくるようで、今この場には居ない。
 わらわらと四方八方から伸びてくるフォークに蹂躙されるクリス(のケーキ)を目になんとも形容しがたい気分になりながらも、御幸も端の方を一口だけ掬って食べた。――うん、甘い。
 好きと苦手の葛藤に耐えていると、「じゃあ次は御幸のケーキ食べよう」と亮介が包丁を持ち出してきた。
「入刀したい人は一人ずつ好きなところ切ってよ」
 あれ?今までフォークで直食いでしたよね?あれ?そんでもってなんで皆そんなに目を輝かせて俺の顔に包丁、あっ、なんか痛い、顔が痛いような気がする、あれ、俺高校ではそこそこ上手くやってきたつもりなんだけどもしかしていじめられてる?これいじめ?
 諸々の疑問を投げかけたくなる衝動にも耐えていると、食堂を訪う人物がいた。
「おうクリス、用事終わったのか」
 そう声を掛ける伊佐敷に軽く返事をして、クリスはケーキを囲む輪の中へと入っていく。
「クリスも食べる?」
「‥‥いや、‥‥ほとんど原型留めてないじゃないか‥‥」
 ケーキを見た瞬間どっと疲れた表情になるという意外性のあるリアクションを取りつつ、「御幸、この後ちょっといいか」とクリスは御幸に声を掛けた。
「あ、はい」
「いいのかクリスー、お前の好きな御幸のケーキだぞ」
 冷やかしを綺麗な苦笑で躱すクリスとは反対に、御幸の方が汗をかいて顔を赤く染めた。
「悪いな御幸、少し相談したいことがあって。――ああ、ケーキは夜まで余ってたら貰うよ」
 御幸とケーキの周囲の者に交互に声を掛けて、突然、クリスが御幸の手首を掴んだ。
「俺は本物を頂くから、そっちはお前らで食べてくれて構わない」
 さらりと衝撃発言をお見舞いして、クリスは照れと怒りで顔を真っ赤にした御幸の手を引いてさっさと食堂を後にした。廊下から何やら御幸の慌てた声が聞こえてきたが、どうせバカップルの睦言でしかないことは想像に難くない。


(あ‥)


(あ‥‥‥)



(((あまーーーーーーーーーーーい!!!!!!!!!)))



 と、その場にいた全員が心の中で叫んだとか叫ばなかったとか。