ミズト
2015-03-19 23:43:53
1278文字
Public ◆A
 

撮影スタジオの名物カップル

クリ御短文 グッズのイラストネタ イチャイチャしてるだけ

カメラのシャッター音が響き、フラッシュが断続的に視界を白くするスタジオ。
御幸はポスター用の写真撮影に来ていた。
一年生はテーマパークで休日を楽しむかのようなカジュアルな衣装、二、三年生はスーツやタキシードなど、フォーマルな衣装に身を包んでいた。
現在フラッシュを浴びている倉持の次に撮影を待っている御幸は、背後から声を掛けられ振り向いた。

「順番待ちか」
「はい、先輩もまだですよね」

縦縞のジャケットに身を包んだクリスは小さくため息をついた。

「あまり、こういうかっちりした服は好きじゃないんだがな」

「そうなんですか?でもすごく似合ってます」

クリスの大人びた顔立ちと、バランスよく鍛えられた逞しい長身に、グレーのスーツは実に映えた。クリスのことを好きだという贔屓目を抜きにしても、本当に似合っていると断言できる。映画もファッション雑誌も詳しくはないけれど、そんな遠く華やかな世界から抜け出してきたようなクリスに、御幸は思わずぼぅっと見惚れそうになるのを堪えなければならないほどだった。

「首元が窮屈だ‥」

「はは、まあ、今日だけの辛抱ですから」

「お前もタイが窮屈そう‥‥あ」

すっ、とクリスの手が首元に伸びて、思わず後ずさりしそうになるのを寸でのところで堪えた。

「解けかけてる」

クリスの指がなめらかにリボンタイを結んでいくのを、御幸は息を詰めて見つめていた。

「‥‥‥あれ」

眉を顰めたクリスの視線の先を辿ると、そこには結ばれたリボンタイ‥‥‥ただし縦結びの。

「おかしいな」

「はは、人のだとやりにくいですもんね」

「ちょっと待てよ‥」

クリスはそう言うとおもむろに御幸の背後に回った。御幸がクリスの意図を察した時には既にクリスの手が肩越しに首元へ伸びていた。

「っ‥‥‥‥‥」

クリスの胸が背中に当たっているし、そもそも胸以外も全体的に密着しているし、何より顔が近いし、息が耳を掠めるし、匂いに包まれるしで、御幸はただただ今この瞬間を息を詰めて耐え抜くほかなかった。自分のされていることを認識はできるがわけがわからない。

「うん、できたかな」

きゅ、とタイが結ばれ、耳元でそう独り言が聞こえた。情けない声を上げなかった自分を褒めてやりたい気分だった。クリスの体温が離れていく。呼吸の仕方を思い出す。

「ありがとうございます」

何とかひねり出せた言葉はそれだけだった。この人は何をやっているんだろう、先輩って実はかなり天然なんじゃなかろーか、普通あんなくっついてまでわざわざ他人の世話しねーだろ、などと次第に機能を取り戻し始めた頭でなかなかに失礼な突っ込みを入れる。

「あ、倉持終わったみたいっすね」

カメラの前からこちらへ向かってくる倉持が見え、御幸も入れ違いにそちらへ向かう。と、すれ違いざま倉持が御幸の肩を掴んで。

「テメェ人が仕事してる目の前でイチャついてんじゃねぇよ」

そう耳打ちされたものだから、御幸は慣れた笑顔を作るのに普段以上に精神力を注がなければならなかった。