ミズト
2015-02-08 19:59:24
1528文字
Public ◆A
 

男心もアンタに食われた

クリ御ピロートーク

「先輩って、わざわざ言わせるの好きですよね」

やわらかい毛先をもてあそぶ指は止めずに、クリスは声の聞こえた胸元を見下ろした。何を、とは、先程までまさに“わざわざ言わせて”いたこの状況で尋ねずともわかることだった。

「嫌か?」

その問いに御幸が「はい」と答えるとは露ほども思っていない声音で訊く。それが何とも悔しく、御幸は白く滑らかな裸の胸からくっつけていた頬を少し離し、クリスのいっそ清々しいほど整った顔を見上げた。

「いっ‥嫌っていうか、恥ずかしいっていうか!限度!」

「限度?」

「ちょっとだけならいいですけど、あ、あんなことまで言わせることないでしょう」

「あんなことって?」

「ほらそういうとこ!!」

悪戯っぽく尋ねれば照れと怒りで赤くなった顔で詰られた。ふふっと笑った後、クリスは上がった口角を少し下げる。

「‥‥あんまり言いたくなかったんだが」

ただでさえ小さな声をさらにひそめられ、二人の呼吸以外何も聞こえないようなベッドの上で、御幸はぐっと耳を澄ました。

「今更馬鹿馬鹿しいと思われるかもしれないが、‥‥言葉で聞けると、安心する、‥情けない男心もわかってくれないか」

「なんか上手いこと言って誤魔化そうとしてませんか」

「お前な‥‥‥‥」

突然のクリスの殊勝な態度に、動揺そしてうっかりときめいてしまった事実を隠そうとして可愛げのない言葉が口をついて出てきてしまった。

「お前の気持ちも態度も疑うわけじゃないんだ、でもたまには甘えたっていいだろ?愛されてるって確かめたい」

切なげに掠れた声が甘く、耳から伝って心を響かせる。いけない、丸め込まれちゃいけない。気をしっかり持て俺。

「じゃ、じゃあその、お、俺の男心も配慮してくださいよ!!すげぇ恥ずかしいの我慢して、あ、あ、あんなこと言ってる俺の男心も!!」

「あんなことって?」

「だからわかるでしょ!」

「たくさんあるからどれかわからないな」

「全部!!」

クリスが御幸の赤い頬を、そぅっと指でなぞる。甘い視線は、それだけで愛しいと囁かれている気分にさせる。まずい。流されそう。

「俺には、お前だってまんざらじゃあなさそうに見えるけどな‥?口が素直になると体も一緒に素直になっていくから、お前は‥‥」

頬をなぞった指がこめかみを擽って、髪を耳に掛けるように耳の後ろを滑る。とんでもないことを言われている。反論したい。言い返さなければ。―――舌がうまく動かない。

「さっき言ったことは本当だよ。お前に求められると嬉しい‥‥可愛いところを見せてくれるのも嬉しい、気持ちいいって、教えてくれるのも‥‥愛されてるなって、胸がいっぱいになるんだ」

ゆっくりと、それでいてしっかりと、また胸に抱きしめられる。ただ呼吸をするだけで肌から直接伝わるクリスの匂いが、御幸の脳を痺れさせる。男心とか、羞恥とか、先程まで訴えていたあれこれが、遠く、薄く、煙のように消えていく。

「好きだよ御幸。俺も、少し恥ずかしいけど、お前にちゃんと伝えるから」

先輩」

声は欲情に震えていたが、完全にバカになっている今の頭ではそんなことどうだってよかった。

「うん?――何だ、御幸」

顔を上げると、優しいのに抗い難い力を持った茶金の瞳が、窺うように視線を掬った。それだけで今まで交わした濃密な情事とこれから与えられるであろう蕩けるような快楽が思い起こされ、呼吸が喘ぎに変わるようだった。

「はっ、――――ぁ、先輩、‥‥‥食べてっ‥‥‥!」

羞恥に震え欲求に乱され、しかし素直になった唇とともに開かれてゆく体に、クリスはゆっくりと歯を立てた。