ミズト
2014-02-27 02:56:44
2187文字
Public ファイブレ
 

Good night

ラブラブルクビショ文

静まり返った長い廊下に、二人分の足音が響く。
コツコツと踵が鳴る硬質な足音と、布が床を滑るような柔らかい足音であった。
やがて一枚の重厚な扉の前で二人は立ち止まり、一人が優雅な動作で取っ手を引いた。

「どうぞ、ルーク様」

自分の寝室へと促されたルークは、扉の内側へと歩を進めると、斜め後ろで扉を開けているビショップを振り返った。

「ありがとう。おやすみ、ビショップ」

「おやすみなさいませ、ルーク様」

そしてルークはベッドに向かい、それを見届けたビショップは静かに扉を閉めて退がる―――のが常だったのだが、今夜は違った。

「ルーク様?」

そこからルークは動こうとせず、じっとビショップの顔を見つめていた。

「いかがなさいました?」

尋ねると、ルークはひとつ息をついて、すいっと右手を前に上げた。

「入れ。ビショップ」

ルークの言葉の真意が理解できぬまま、戸惑った表情でビショップはルークの後に続き、寝室へと足を踏み入れた。

「失礼いたします」

ギィ、と音がして、扉が閉まる。その瞬間ビショップはジャケットの襟を掴まれ、視界がぐるりと反転したかと思うと、次の瞬間にはよく見慣れた端正な顔で占領された。

「ルーク様!?」

「僕相手だととっさに手を出されても抵抗しないか筋金入りの忠誠心だね、ビショップ」

ビショップはようやく自分が置かれている状況を理解した。ルークのベッドの上に押し倒され、腹の上に乗られているのだ。

「あの、ルーク様、これは一体私が何かお気に障る事でも」

主の許しが出るまで欲しがる素振りも見せないとは、さすが、よく出来た犬だね。それとも、本当に欲がないのかな、お前には」

そう言われ顎に手を掛けられれば、いくら想像の範疇を越えた状況といえど把握せざるを得なかった。ルーク様は私を抱こうとしている。

「ルーク様、お待ちください、あのっ

「何だい?僕とこういうことをするの、嫌がるお前ではないと思っていたけど。ずっとしたかっただろう?」

「そ、それは、仰る通りですが

「それとも抱かれるより抱きたいかい?」

「あの、いえ、そういうことではなく

普段とはうって変わって慌てふためく余裕のないビショップに、いよいよルークも愉快になってくる。

「じゃあ、どういうこと?」

尋ねるとビショップは、右下を見て、数回まばたきして、数秒目を閉じて、意を決したように開いた。

「あまりにも、突然のことで、混乱していて、こんな状態では、満足な行為が、できないかと思います

「突然って!僕らお互い好きだって言ってもうどれくらい経つと思ってるの?」

「は、仰る通りですがどうか、お許しいただけるならば、もう暫く猶予を……。それがご不満でしたら、……どうぞ、この体をご自由にお使いください」

ルークは、はぁ、とひとつため息をついて、組み敷かれた恋人の震える瞼にひとつキスを落とした。

「何だいそれ。僕は君の体を使って性処理をしたいわけじゃないんだよ。命令して無理矢理体を開いてもらっても嬉しくない」

ルークの困ったような表情を見て、ビショップは自分がいかに失礼な発言をしたのか理解した。あまりの情けなさに、唇を噛みしめる。その唇にルークの指がすっと伸びて、震えを宥めるようにひと撫でした。

「猶予が欲しいというなら、あげるよ。僕も順番を間違えていたかもしれない。でもね、言い訳をするつもりじゃないけど、僕はこういう、およそ普通の人々が普通に知っているであろう普通の営みの仕方を、ほとんど知らないんだ。君が教えてくれなきゃ

ビショップは、唇に置かれたルークの指をそっと取って口づけた。

「申し訳ありません。ルーク様と触れ合うなど、この身には過ぎた幸せだと、思っていましたから

「お前はいつもそればかりだな。だから僕がこうして押し倒すハメになるんだ」

くすくすと笑うルークに、ビショップの顔も自然と綻んだ。押し倒されていた上体を起こし、膝に乗り上げるルークの腰にそっと手を回す。

「それで、普通の人は、どういう順序でセックスに及ぶの?」

ルークの口から飛び出た直截な言葉に妙な背徳感を感じるものの、つとめて冷静さを保つ。

「普通なんて、あって無いようなものです。私たちに合った方法でいいんですよ」

「ふぅん?それで、どうすればいいんだい?」

「そうですね、もしよければ、二人で一緒に眠るところから始めたいと」

「お前と?」

「ええ、ルーク様さえよければ」

「構わないよ。ほら、じゃあ早速」

言うが早いかベッドの上に身を投げ出すルークに、子供のような愛らしさを感じながら、ビショップは丁寧にシーツを掛けた。

「申し訳ございません、まだ就寝の準備ができておりませんので、後程」

「しょうがないな。後で絶対来るんだよ。君が来るまで起きているからね」

「かしこまりました。すぐに参ります」

名残を惜しむようにルークの頬を指で撫でると、甘い空気に照れたのか伏し目がちに視線を横に逸らした。その仕草がまたあまりにも愛らしかったため、猶予をくださいなどと口にした傍から前言を撤回するようなことにならなければいいがと、ビショップはベッドから立ち上がった。